グレートブリテン島の最北部で、漁師たちに愛された「海のモルト」。プルトニー蒸溜所から、シングルヴィンテージのウイスキーと個性あふれるリキュールが発売された。

文・WMJ

 

グレートブリテン島の最北部に位置するウィックは、かつてニシン漁で栄えた漁師町である。古来よりバイキングの影響が色濃く、他の町に通じる陸路のない時代から1,000艘もの船が港を埋め尽くしていた。港湾を整備した英国漁業協会のおかげで町は隆盛し、漁協会長だった資産家のウィリアム・プルトニー卿にちなんでプルトニータウンと呼ばれるようになる。

天井高に合わず、納品直前にヘッド部分を取り外したという伝説のポットスチル。内部の状態を確認できるハッチがついている。

このプルトニータウンで、事業家のジェームズ・ヘンダーソンがプルトニー蒸溜所を建設したのは1826年のこと。ほぼ1世紀にわたって家族経営が引き継がれた後、1920年にダンディーのブレンデッドウイスキーメーカーであるジェームズ・ワトソン&カンパニーが蒸溜所を買収。その5年後には大企業ディスティラーズ・カンパニーに吸収されたが、スコットランドの禁酒法令によって1930年からウイスキーの生産が途絶えてしまった。

戦後の1951年になって、プルトニー蒸溜所の設備はバンフ在住の弁護士ロバート・カミングの手に渡る。その4年後にハイラム・ウォーカーがプルトニーの権利を買収し、1958~1959年に本格的な再建工事をおこなって蒸溜所は復活した。そして1995年からは、インバーハウス・ディスティラーズ(現在はタイビバレッジ傘下)の管轄でシングルモルトウイスキーを発売している。

プルトニー蒸溜所にある2基のポットスチルは、スコットランドでも他に類を見ないユニークな形状だ。ネックの付け根にあるボイルボールは、蒸気の還流を促して華やかな酒質を生み出す。ヘッド部分がちょん切られたような形状をしているのは、蒸溜棟の天井高よりも長いネックのスチルが納入されてしまったから。なんとか建物内に収めるため、銅器職人がネックの最上部を取り外して蓋を取り付けたのである。

付設されたコンデンサーも、今では珍しいステンレス製の蛇管式だ。この独特な生産様式が意外なほど良質なウイスキーを生み出してくれたので、プルトニーの伝統として現在にも受け継がれているのだという。
 

「海のモルト」が味わえるユニークなボトリング

 
プルトニー蒸溜所では、海に面した風土が少しオイリーで香り高いスピリッツを生み出す。力強いながらも繊細な酒質で、海風のような潮気とフローラルなエステル香が華やかだ。そこに心地よいドライなオーク香も加わり、定番の「オールドプルトニー 12年」や「オールドプルトニー 25年」のほか、単一の蒸溜年でボトリングしたヴィンテージ商品も人気を集めている。

このたびプルトニー蒸溜所から、日本に届いた注目の商品は2つ。「オールドプルトニー フロティーリャ2012」と「オールドプルトニー ストローマ・リキュール」だ。

ビジターセンターのエントランス。歴史ある蒸溜所のツアーや、テイスティングの飲み比べも人気だ。

「オールドプルトニー フロティーリャ2012」は、フルーティでスパイシーな香味を愉しめるシングルヴィンテージウイスキー。選び抜かれたバーボン樽で熟成され、アメリカンオーク特有の熟成香が際立つ。クリームやバニラポッドの甘い香りから、柑橘、リンゴ、ココナッツなどが入った焼き立てのパイを思わせる香りだ。口当たりはミディアムボディで、海のような印象のなかに甘いスパイス、キャラメル、蜂蜜入りのシリアルを思わせる風味。ミネラル感を伴った余韻が長く続き、海風のような爽やかな潮の香りが魅力だ。

また「オールドプルトニー ストローマ・リキュール」は、シングルモルト原酒を贅沢に使用したウイスキーリキュール。ストローマという名前は、グレートブリテン島最北部のケイスネスからとオークニー諸島の間にあるストローマ島からとっている。古代ノルド語で「潮の狭間の島」を意味し、渦潮のような急流が船乗りたちを悩ませてきた。そんな雄大な海のニュアンスをアルコール度数35%で楽しめる軽めのオールドプルトニーであり、ストレートやオンザロックはもちろんカクテルでもユニークな魅力を発揮してくれる。

新しい特別な商品で、「海のモルト」として名高いオールドプルトニーの魅力を再発見してみたい。