Red Top × Green Bottle 【前半・全2回】
メーカーズマークのマスターディスティラー グレッグ・デイビス氏が初来日、サントリー白州蒸溜所を訪れた。
シングルモルトウイスキー「白州」とメーカーズマークのテイスティングと対談が行われたが、前半となる今回はメーカーズマークについてご紹介しよう。
アメリカで最も若いマスターディスティラーとして知られるグレッグ氏。この日は白州蒸溜所工場長の前村久氏と白州蒸溜所内を見学し、蒸溜所内の「Bar白州」にてテイスティングを行った。
まずグレッグ氏は、メーカーズマークの「特別に丁寧なつくり方」を説明してくれた。
第一の特長は、穀物を全て混ぜて仕込むという点。マッシュビルの比率はコーン70%、冬小麦16%、麦芽14%。これをサミュエル家の独自のイーストを使って仕込み、ダブラーと呼ばれる連続式蒸溜機で蒸溜する。初溜はアルコール度数60%の時点で「一番美味しい」ところを取り出す。再溜では香りを活かすため、65%で仕上げるとのこと。
そして樽について。同社では、ホワイトオークを伐採して樽材用にラフカットして「熟成」させるという。9ヶ月以上屋外の自然な環境にさらしてから製材し樽組をする。なぜこのような手間をかけるかというと、ひと夏を越すことで木の中の成分が落ち着き、反比例してバニラ香がピークを迎える。この過程が重要なのだそうだ。
樽組したあと、同様に重要な工程となるのがNo.3チャー。バーボンでは樽の内部を焦がすチャーのレベルを4段階に分けており、同社ではNo.3(第3段階)と定めている。どの程度の焦がし具合かというと、樽の内側がワニの腹部(アリゲーター・ベリー)のように割れている状態。No.2では表面が黒焦げになる程度、No.4では炭化した木片が剥がれ落ちるレベルだ。現在ほとんどのバーボン蒸溜所ではNo.3チャーを採用しており、他社ではこの工程に90~100秒かかる。しかしメーカーズマークではこの段階でも樽材を熟成させたことが活きてくる。およそ半分ほどの時間、40~45秒で済むのだ。これは木が熟成期間中に十分乾燥するためで、この効率の良いチャーによって樽材に含まれる成分が理想的な状態となるというのだから、こだわり抜いているというほかない。
樽詰めの際にはアルコール度数を65%から55%に落とす。あまり度数が高すぎると樽の成分がスピリッツに移りすぎてしまうため、適度に影響を受ける度数で樽詰めをしている。
さらに特筆すべきは、その樽管理にある。
7段のラックに収められた樽は、3年で位置を変更する。熟成庫上部は高温で水分の蒸発が早く、アルコール度数が高まりやすい。低部では温度も低く湿度が高いため熟成はゆっくりと進む。日中の寒暖差も激しく、夏には上部は40~45度、下部は20~25度になるという。
そこで3年後に、7段目にあった樽は最下段へ、6段目の樽は2段目に移る。それぞれの位置により味わいも異なるだろうから、最終的にミングル(バーボンの樽同士のブレンドをこう呼ぶ)でバランスを取るのだろう。その移動のあと、さらに3、4年熟成を重ねる。こうしてメーカーズマークはつくられているのだ。
テイスティングではまず熟成前のスピリッツの状態である「ホワイトドッグ」が登場。
バターのような香り。そして後からフルーティさがやってくる。これは穀物を全て一緒に仕込むところからこの特長が出るとのこと(前村氏によると、通常日本で穀物を全て一緒に仕込んでしまうと、どうしても刺々しさが出てしまうそうだ)。そして味のほうは、ニューメイクと思えないような舌の先端に感じられる甘み、シリアルのような香ばしさ。非常にスムースだ。ポットスチルでは複雑な香味を膨らませつつ良いところを抜き出すというイメージだが、連続式蒸溜機では「不要なものを削ぎ落とす」という印象だ。そのためクリーンでありながらもまろやかな味わいになるのだろう。
次に1年熟成モノ。
バニラと木の香り。まだアルコールが強く、ツンとする。味はカラメルの甘さが少しずつ広がりつつも穀物感のほうが大きい。思った以上に若さは感じられないが、やはりフィニッシュの抜けが早い印象。
そしてメーカーズマークのスタンダード品、レッドトップ。
はっきりとしたバニラ。スピリッツから続くフルーティな香り。舌に乗せると非常に優しく、まるい。この柔らかさは冬小麦独特のもので、ライの比率の高いバーボンとは一線を画している。クリーミーさを備えた甘やかな味わいで、見事にバーボンの「メロウ」を表現しており、大切に育てられたウイスキーであることが伝わってくる。
最後にオーバーマチュアリング(過熟成)のサンプル。
こちらは香りにはやや複雑さが増しているが、口に含むとウッドがかなり強く、フィニッシュには強いタンニンの渋味。こうなってしまわないためにも、同社では熟成のピークを見極めて樽の管理を行っているのだ。グレッグ氏は「ちゃんと一つ前のメーカーズマークに戻って、口直しして下さいよ!」と釘をさすのを忘れない。
テイスティング終了後、グレッグ氏に初めて白州蒸溜所を訪れた印象を尋ねると「家に帰ってきたみたいですね!緑を大切にしているのは私たちも同じですし、蒸溜所内で働いている方々のプロフェッショナルな姿勢はメーカーズマークと通じるものがあります」とにこやかに語る。また、アメリカでは木の発酵槽を使っている蒸溜所が少なくなりつつあり、あれほど多くの木の発酵槽を使用しているのを見て非常に驚いたそうだ。
そして同社の方針としては、商品の幅を増やすことよりも、本当につくりたいものを軸のぶれないように提供していくことを最優先にしている、と話してくれた。
細部にわたってこだわりのつくり方を守っているメーカーズマーク。その名の通り、「つくり手の誇り」は世界中で愛され、信頼され続けている。この白州の地においても、その赤い封蝋のボトルは1780年創業という歴史の重みとともに、つややかな光を放っていた。
後半に続く