ローズバンクの復活【前半/全2回】

April 28, 2018

ローランドの象徴として愛されていたローズバンク蒸溜所が、閉鎖されてから約四半世紀が経つ。イアン・マクロード・ディスティラーズによる復興計画の内情を、ウイスキーマガジン編集長のロブ・アランソンがレポートする2回シリーズ。

 

文:ロブ・アランソン

 

25年前に休業状態となったローズバンク蒸溜所。サビに侵食されたウォッシュバックの切り替え装置が年月の長さを物語っている。

何年も放置された建物。朽ち果てたようなにおい。サビと、緑青と、蜘蛛の巣に覆われた世界。過ぎ去った時代の象徴だったローズバンク蒸溜所だが、そこにはいつも希望の光があったようにも思う。

「ローランドの王」と呼ばれた蒸溜所を、かつての栄光に引き戻す。そんな計画を発表したイアン・マクロード・ディスティラーズは、復興への着手を前にして廃墟同然の蒸溜所に写真家を送り込んだ。1993年から人の営みが途絶え、母なる自然に支配されてきた蒸溜所のタイムカプセルを開けるためである。

撮影を依頼されたコンテイジャス社は、見事な光景を捉えてくれた。サビに侵食されたウォッシュバックの切り替え装置。冬の光を浴びて舞う貯蔵庫の埃。作業場の塗装は剥がれ、窓ガラスは割れている。このような光景に、どこかロマンチックなものを感じるウイスキーファンもいるだろう。だが再び時代は変わる。色褪せた栄光に、今また新しい命が吹き込まれようとしているのだ。

イアン・マクロード・ディスティラーズを創設したレナード・ラッセル氏は、ローズバンク復興計画の発表後に届いた反響の一端を明かしてくれた。

「フォルカークの住民のみなさんからも、たくさんのお祝いメッセージをいただきました。稼働していた頃の蒸溜所を懐かしんでくださる方も多く、蒸溜所で実際に働いていた方からもご連絡をいただきました。ウェブサイトにも大勢の方が登録済みです。復興計画の進捗をチェックしたり、将来の見通しに耳を傾けたり、非常に希少な原酒からつくったローズバンクの発売情報にも注目してくれるのはとても喜ばしいこと。かつての栄光を取り戻すという事業に、あらためて大きな責任を感じているところです」

 

ライバルは、かつてのローズバンク

 

新しいローズバンク蒸溜所の設備計画を練り上げるエンジニアたち。多くの人々に愛されたシングルモルトを、完璧に再現するのが当面の目標だ。

ローズバンクは、かつて「ローランドの王」と呼ばれた人気銘柄だ。今は亡きウイスキー評論家のマイケル・ジャクソン氏が、「疑いもなく最高レベルのウイスキー」と評した品質でも知られている。ジャクソン氏は蒸溜所の閉鎖を「悲痛な損失」 と表現した。ローランド伝統の3回蒸溜から生み出される味わいについては、評論家のガヴィン・スミス氏も「これほどにエレガントで、フローラルで、アロマティックなウイスキーは他にない」と賞賛している。

ローズバンク復興に際しては、伝統的なローランドの特性をしっかり再現しなければならない。これはイアン・マクロード・ディスティラーズに託された大きな使命でもある。レナード・ラッセル氏は蒸溜所の旧オーナーであるディアジオと密接に連携を取り、残された記録からオリジナルの蒸溜所設備を再現。このプロセスについては、かなりの自信をうかがわせている。

「オリジナルの蒸溜所設備について知識を得られたのは本当に幸運でした。オリジナルのメーカーとは別のメーカーに設備の製造を依頼することも多いため、かつての生産体制を再現する上で役に立ったのです。有名な3回蒸溜と蛇管式のコンデンサーを駆使して、みなさんがご存じの『ローズバンク ローランド シングルモルト』を完璧に再現します。ライバルは、かつてのローズバンクのクラシックなスタイルと味わいです」

当時のディアジオが、蒸溜所を閉鎖した事情は理解できるとラッセル氏は語る。あの頃はシングルモルトの市場もまだ小さく、成長の機運も見られなかった。ウイスキー業界は慢性的な供給過剰の状態にあったのだ。

「スケールメリットを追求して大規模蒸溜所が統合を進め、その一方で中小の蒸溜所が操業中止や閉鎖に追い込まれた時代でした。幸いなことに、現在は再びシングルモルトの需要が成長し、本物の高品質が約束できるブランドを消費者は求めています。小規模な蒸溜所が脚光を浴びる時代が、またやってきました。だから3回蒸溜と蛇管式コンデンサーによって限られた量のウイスキーを生産するローズバンクでも、現在の消費者ニーズにしっかりと応えられるのです」

(つづく)
 

 

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