ウイスキーは、どれくらい地球環境にやさしい飲み物になれるのか。シリーズ第2回では、スペイサイドの実例とともにスコッチウイスキーの現状を探る。

文:クリストファー・コーツ

 

環境問題を念頭に置きながら、家の中にあるものを見回してみよう。ウイスキーは、どちらかといえば環境にダメージを与えていない製品と言えるかもしれない。でも罪が軽そうだからといって、どんなウイスキーでも環境にやさしい訳ではない。それにウイスキー愛好家が、メーカーの思い通りに任せていい訳でもない。私たちの地球に与える影響については、厳しく監視する必要がある。

マレー地区のキャロンにあるダルムナック蒸溜所は、シーバスブラザーズでもっともエネルギー効率がよい蒸溜所として設計された。

結局のところ、ウイスキー業界は依然として大量生産が主流であり、そのためには大量の原料を使用することになって環境への影響も大きくなる。サプライチェーン全体を通して、ウイスキーメーカーには大きな問題解決が求められている。輸送にまつわる二酸化炭素の排出を減らし、穀物の生産にも厳格な環境保護基準を設けることも喫緊の課題だ。

パッケージの重量を減らし、ゴミを減らし、使用する水の量を減らし、熱エネルギーの浪費を減らす。貯蔵に使う木材のことも考えなければならない。たくさんのブランドが、樽材に費やす年間コストの大きさを誇らしげに語っている。

その一方で、森林の保全に力を入れている話は不思議なくらい聞こえてこない。責任ある管理者から樽材を調達することで、持続可能な森を維持するのは大切なことだ。

サステナブルで環境にやさしい企業を評価する風潮は、ここ10年間でかなり強まってきた。ウイスキー業界でも、環境への配慮はますます重要な問題として優先順位が高くなっている。消費者自身が環境問題への真剣な取り組みを始め、お気に入りのブランドにも真剣な行動を求めている。

使い捨てのプラスチック製ストローやカップを段階的に撤廃することで、飲料業界の一部では明確な環境への配慮を表明してきた。そのおかげもあって、飲料業界の広い分野で環境保護を意識した変革が促進された経緯もある。それに比べてウイスキー業界での変革は静かに進んできたため、進化に(あるいは進化の少なさに)気づいている人は少なかった。一般メディアにも取り上げられることはほとんどなかったと記憶する。

 

二酸化炭素排出量をめぐる目標と戦略

 

スコッチウイスキー協会(SWA)は、2009年に全カテゴリーを対象とした「環境戦略」を発表した。スコットランドで、このような戦略を策定した業界はウイスキー業界が草分けである。協会が「挑戦」と表現した2020年の目標は、二酸化炭素排出量、水、パッケージ、廃棄物に係る内容で構成されている。

スコッチウイスキー協会が定めた目標はすべて自発的なものであり、現在の協会員(大半の有名メーカーを含む全74社で)のみに適用される。環境や持続可能性を保持するための法律とは異なり、あくまで業界として定めた基準である。

ノッカンドゥーバーンに魚の通り道となる水路を設置したタムデューの取り組み。スコッチウイスキー業界は、スコットランド環境保護庁が定める厳しい水質保全基準を遵守している。

この2009年の戦略は、2016年になって達成度が調査された。もっとも最近の調査は2018年におこなわれ、有望な結果を見せている。例えばスコッチウイスキー協会は、2020年までにスコッチウイスキーのカテゴリーが使用する全エネルギーの20%を非化石燃料から調達することを目標に定めていた。この目標は、すでに4年も前倒しで達成されている。

調査によると、2018年までに一次エネルギーの21%が非化石燃料から調達されるようになった。2008年の時点でわずか3%だったことを考えると、これは大きな成果と言えるだろう。次の目標は2030年までに40%、2050年までに80%となっている。この80%を90%にまで引き上げる案も検討されている。

またスコッチウイスキー業界は、二酸化炭素の総排出量を2008年比で22%減少させている。この成果の大部分は、多くの蒸溜所が生産工程でエネルギー効率を向上させるテクノロジーを導入したおかげだ。さらには二酸化炭素排出ゼロのエネルギー使用を増加させたことも貢献している。

例えば完全にサステナブルなエネルギーへの転換が難しい蒸溜所でも、石油から天然ガスや液化石油ガスに移行することで工場からの二酸化炭素排出量を減らすことができる。これらのガスエネルギーがそもそも石油よりもクリーンであるという理由もあるが、ボイラーエコノマイザーなどの効率化技術を使えるようになって結果的に二酸化炭素排出量が減少するのである。

スコッチウイスキーの蒸溜所がもっとも密集するスペイサイドでは、ウイスキー業界が協力しあってガスの輸送網を広げている。つい最近も8軒以上の蒸溜所が天然ガスに移行したばかりだが、これによって地元住民も天然ガスをかんたんに利用できるようになり、高価なガスボンベや石油配達などへの依存を減らすこともできた。

このような地元へのメリットは、重要な付加価値と見なされている。例えばマレーのような地域においては、もともと全世帯の32%が収入の10%以上を燃料費に奪われている。このような燃料費による困窮は深刻な問題だ。ウイスキーメーカーにとって、近年の変化は徐々に工場の石油依存を脱却していく好ましいプロセスである。そしてボイラーを回すために年中必要としていた石油の輸送をなくすことで、輸送時に発生する二酸化炭素排出も減らせるという二重の効果がある。

残念ながら、スペイサイドのガス網にはまだ制限がある。住民からの需要が低下する夏季にしか、工場でガスを使用できないといった問題だ。化石燃料全般への依存を解消するにはまだまだ大きな壁はあるものの、石油からガスへ転換は歓迎すべき方向性である。
(つづく)