ハイランドの女王、タリバーディン【前半/全2回】

March 4, 2016

20世紀半ばに創設されて以来、ウイスキーの盛衰とともに激動の歴史を歩んできたタリバーディン蒸溜所。5年前よりブルゴーニュの名門ミッシェル・ピカールがオーナーとなり、ユニークなブランディングでファン層を広げている。ガヴィン・スミスによるレポートの前半。

文:ガヴィン・スミス

 

1949年、パース州ブラックフォード村でスピリッツの生産を始めたタリバーディン蒸溜所は、スコッチウイスキー史に重要な1ページを加えている。意外なことに、タリバーディンは1900年以降にスコットランドで新設された最初の蒸溜所であり、その後の着実なスコッチウイスキー業界の隆盛を予言するものとなった。 ハイランドでも次々に設備投資がなされる1960年代のウイスキーブームに向かって、事態が静かに動き出す時期だったのである。
 
ウイスキーづくりにおいては新参だったタリバーディンだが、タリバーディンという名の蒸溜所は18世紀後半から19世紀前半にかけてこの地域に実在したようである。初代タリバーディンの所在地は特定できなものの、第2代タリバーディンの建設地に選ばれたブラックフォード村は、スコットランドのお酒に縁の深い場所である。ここにはかつて有名なビール醸造所があった。1488年、スコットランド王ジェームズ4世が、 パース近郊のスコーンでおこなわれる戴冠式の前に立ち寄ってビールを購入した記録が残っている。
 
戦後のタリバーディン蒸溜所を牽引したのは、後にアイル・オブ・ジュラ蒸溜所とグレンアラヒー蒸溜所の創設に関わることになるウィリアム・デルメ=エヴァンズだった。1953年からグラスゴーのウイスキー商であるブロディヘプバーン社が運営し、1971年にインバーゴードンに引き継がれた。
 
1973年に1組のスチルを追加導入したタリバーディン蒸溜所は、一気に生産量を増加させる。だがその20年後、1993年にインバーゴードンがホワイト&マッカイに買収されると、パース州の工場は生産過剰とみなされて翌年に閉鎖の憂き目を見た。
 
スターリングとパースを結ぶA9道路沿いに建つ現在のタリバーディン蒸溜所は、この時点で永遠にウイスキーづくりを終了させるはずだった。だがさらに10年後の2003年、ある合弁企業がホワイト&マッカイからタリバーディンを1,100万ポンド(約19億円)で購入すると、その年の暮れには早くも生産が再開される。新しい経営陣の計画では、隣接地に小さなショッピングゾーンを建設することになっていたが、結局その土地は不動産開発会社に売却された。そこで経営目標は転換され、シングルモルトとしてのタリバーディンを強化し、多彩なカスクフィニッシュで商品を多角化していく方針が打ち出されたのである。

 

ブルゴーニュの名門ワイン商がオーナーに

 
2011年、タリバーディンは新しいオーナーに売却される。そのオーナーこそ、ブルゴーニュのシャサーニュ・モンラッシェに本拠地を持つ著名な家族経営のワイン商「メゾン・ミッシェル・ピカール」であった。
 
それまではブレンディング用のスピリッツを他社に販売してキャッシュフローを確保してきたタリバーディンだが、ピカールは方針をがらりと変えた。これからは厳選されたプレミアムなシングルモルトのボトリングに重きを置くことを第一の目標と定めたのである。このようなプレミアムボトリングの枠におさまらない原酒は、ピカールの人気銘柄である「ハイランドクイーン」や「ミュアヘッド」に使用されることになる。同社はこれらのウイスキー銘柄をグレンモーレンジィ・カンパニーから2008年に取得している。
 
そして2013年になると、タリバーディンはポートフォリオを見直し、パッケージとラインナップも大胆に一新した。それまで「エイジドオーク」の名で呼ばれていた定番シングルモルトは「ソブリン」となり、以前のビンテージは、20年と25年のボトリングに切り替えられた。国際営業部長のジェームズ・ロバートソン氏が、この新ラインナップについて説明する。
 
「現在、コアなフィニッシュは3種類あります。『225ソーテルヌ』は「シャトー・シュデュイロー」を熟成したカスクでフィニッシュしたもの。『228ブルゴーニュ』は「シャトー・ド・シャサーニュ・モンラッシェ」のカスクで、『500シェリー』は主にペドロヒメネスのシェリーカスクでフィニッシュしました。名称の数字は、12ヶ月間にわたってウイスキーをねかせるカスクの容量(リッター数)を示しています」
 
ブルゴーニュとの結婚で、他の蒸溜所が真似のできないユニークなフレーバーを獲得したタリバーディン。この価値を消費者に伝えるのは新しいブランディング手法だ。
 
「かつてのタリバーディンは、罪深いことに相場よりもかなり安値でウイスキーを売っていました。ブランディングを見直すことで、ビンテージも熟成年数に相応しい価格に設定し直すことができたのです。6種類のウイスキーでタリバーディンのコアなバリエーションを定義し、それぞれが明確な特徴を持っているので、消費者も『マイブランド』だと感じやすくなっているはず。これが新しいファンにも、昔ながらのファンにも有効なのです」
 
(つづく)
 
 

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