水を守るウイスキーづくり【前半/全2回】

January 25, 2016

ウイスキーは水が命。でも蒸溜所がどのように水を調達し、使い方にどのような規則があるのかはあまり知られていない。スコットランドの実例から、モルトウイスキーと水の関係を考察してみよう。

文:イアン・ウィズニウスキ

どんな蒸溜所も、川をはじめとした適切な水源のそばに建設されているものだ。スコットランドで取水するには、スコットランド環境保護庁(SEPA)から汲み上げの認可を得なければならない。SEPAが蒸溜所付近の関連する水路を調査し、水源を枯渇させるなどの悪影響がおこらない取水量であることを確認した後で、ようやく汲み上げのライセンスが下りる。

蒸溜所における水の役割は、主に2つある。ひとつはモルトウイスキーの原料としての仕込み水。もうひとつは、スチルを熱したりコンデンサーを冷やしたりする温度調整のための水だ。

仕込み水は、マッシングに使用される。粉砕した大麦麦芽にお湯を注ぎ、でんぷん質を糖分に転化させるのである。さらに蒸溜が済んでニューメイクスピリッツができたら、樽に詰めて貯蔵する前に水が加えられる。熟成をコントロールするために、こうやってアルコール度数を一定のレベルまで減らすのだ。また瓶詰めを一定のアルコール度数でおこなうため、熟成後のウイスキーにも必要に応じて加水される。

一方、温度調整用の水といえば、まずスチルを加熱してスピリッツを蒸溜するための水が挙げられる。現代の標準的な方法はスチーム加熱だ。ボイラーによって熱せられた水が蒸気となり、スチルのポット(基底)にあるパイプに導かれる。これがチャージ(蒸溜中のアルコール原液)を熱し、アルコールを含んだ蒸気がスチルの最上部まで上昇して、そこからコンデンサーへと導かれることでアルコール原液が濃縮されていく。

 

冷却用の水を適切に管理する

グレンリベット蒸溜所の堂々たるポットスチル。仕込み水だけではなく、ウイスキーの蒸溜には大量の冷却水が必要となる。

スチーム加熱に使用される水は、加熱システムの中で絶え間なく効率的に循環している。だがコンデンサーを冷やす水は、川など現地の水源から採取されて、使用後は水源に還されることになる。このとき、水をそのまま還してはいけない。還す状態には規定の諸条件を満たしている必要がある。

多くの蒸溜所は、長い銅製パイプを縦型のコンデンサー器内に走らせた「シェル&チューブ式」(多管式)のコンデンサーを使用している。このパイプ内には冷水が絶え間なくポンプで送り込まれており、蒸溜釜から上がってくるアルコールを含んだ蒸気がパイプに触れることで、蒸気が液体アルコールとなって濃縮される。そして液化した溜液はパイプの外壁を伝い、配管で別の容器に流れ出るという仕組みなのだ。

コンデンサー内の基底部からパイプに投入される冷却水の温度は、15℃前後であることが多い。だがパイプの中を上っていくにしたがい、蒸気の熱によってこの冷却水の温度も上昇する。コンデンサー内から冷却水が排出されるときには、冷却水自体が50℃くらいまで温まっていることもある。

採取した水を温水の状態で水源に戻すときに、水源の環境水温を上昇させてはならないという規則がある。SEPAが規定する川の等級にもよるが、水生生物の生態系を守るため、2〜3度を超える水温上昇をもたらすような水の返還があってはならない。

水源に還すことができる温度を割り出すには、その水源の水量にどれくらい希釈力があるかを調べなければならない。例えば底が浅くて幅も狭い小さな川は、より顕著な水温上昇を経験することになる。それに比べて、深くて幅の広い川では、投入された温水が希釈されて拡散する余地も大きい。同様に「流動率」、すなわち時間あたりどれだけの量の温水を水源に還すのかといった基準も、その水源の希釈力によって決まってくる。

(つづく)

 

 

 

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