WMJ的酒場放浪記・9 【小樽編】

January 6, 2014

WMJ記者がウイスキーを求めて放浪する「酒場放浪記」第9弾。今回は余市蒸溜所訪問にあわせて、小樽の「バー&カフェ ニッカバー リタ」を訪れた。

小樽駅に降り立った瞬間、一瞬でこの町が好きになった。まっすぐな坂道が海へと続いているのだ。どこかスコットランドの港町を思わせるこの風景は、80年前と同じなのだろうか。

初めての小樽を地図を頼りに歩き、出抜小路に辿りつく。レトロな海辺の商店街のイメージだ。その中にある1軒のバー…その名も「バー&カフェ ニッカバー リタ」。余市蒸溜所のお膝元で、リタさんの名を冠したバーとあれば、訪れないわけにはいかない。
お店の中はイギリスのパブのような重厚さを醸し出しながらも親しみやすい雰囲気で、足を踏み入れた途端にあたたかい気持ちになる。

地元の建設会社の社長とニッカ社の間でバーをつくる話が持ち上がり、2005年にオープン。直営店ではないが、ニッカのサポートを受けている。現在では「ニッカ」「リタ」などの名前のお店はなかなか承認が下りないそうだ。
カウンターには、明るく気さくな店長の佐藤 寿洋さん。最初の一杯に「何かお勧めを」とお願いすると、「裏メニューなのですが…」と佐藤さんは余市10年をグラスに注ぎ、なにやら準備をしている。
と、現れたのは拳ほどの大きさのピート
この場でピートを燃やして、煙をグラスに閉じ込めるのだ。もちろんピートはニッカ所有地のものである。たっぷりと煙を含んだ余市は一層力強く、しかし本来の麦の甘やかさをしっかり感じさせてくれる。加水すると香りは一段と膨らみ、これだけで来た甲斐があったと思わせる。

そのスモーキーな余市にあわせて、フードメニューからの人気の一品は、ニシンの燻製。和製キッパー・ヘリング、しかもメイドイン余市
スコットランドのキッパーはアジの開きのような見た目で味も濃いが、こちらの燻製は自然な脂と薫香がウイスキーに非常に合う。海の幸とウイスキー…どちらも地元で愉しむのは何よりの贅沢だ。

次のお勧めをお願いすると、ずらりと5本のボトルが並んだ。思わず目を丸くすると、「ウチの一番人気なんです」と佐藤さん。ボトルは余市蒸溜所の5年、10年、15年、20年、25年…しかも蒸溜所限定のシングルカスク。これもまた何とも贅沢な垂直テイスティングではないか。もちろんハーフショットではあるが、なかなかのボリューム。
まずは香りを一通り。次に一口ずつ。そして二口目、加水して…とグラスを行き交わせ、鼻と舌をフル回転する。それぞれ変化する自己主張を「うんうん、そうか」「ああ、こうなるか!」と確かめる作業が面白い。パワフルかつ華やかな5年。バランスが取れ、アルコールが乗ってきた10年。シェリーが心地よい15年。チョコレートのようなほろ苦さの20年。奥からどんどんアロマが溢れだす25年。どれも魅力的で、個性豊かで、雄弁だ。

他にもバックバーには限定品やオールドボトルが並び、見ているだけでもワクワクする。加えて、佐藤さんの余市蒸溜所のこぼれ話や竹鶴さんにまつわる秘話などもうかがえて、ニッカウヰスキーファンならずとも、ウイスキーが好きな人にとっては天国のようなところだ。
「余市へ行かれる前の下準備に来られる方も多いですよ。こちらで気に入ったものがあれば名前や樽番号を控えて…同じものを蒸溜所のショップで買えますから」と佐藤さん。
「逆に車で蒸溜所に行かれて、飲めなかったからと小樽に宿を取ってウチで借りを返す方もいらっしゃいますよ」とにこやかに語る。確かにどちらも非常によく分かる話だ。

店名となったリタさんは額の中で、バーを訪れる人々の笑顔を穏やかに見つめている。当時スコットランドから日本に来て、こんなにもウイスキーが日本で愛されるとは、予想されていただろうか。でもきっとリタさんがそう信じていたからこそ、竹鶴さんもまっすぐに道を進めたに違いない。
スコットランドの諺に、「人はけなされると怠け者になり、褒められると力が湧いてくる(Lacking breeds laziness, praise breeds pith.)」というものがある。リタさんは褒め上手だったそうだし、日本人以上に日本的な内助の功を理解しておられたのだろう。そんなお2人のストーリーに触れるだけで、こちらまで力が湧いてくるようだ。

日本の中のスコットランド…ただ蒸溜所があるからだけではなく、自然や雰囲気、その当時の竹鶴さんの「蒸溜所を創りたい」という志までも感じられる場所、余市。そしてこのお店ではその想いを存分に感じて、喜んで、語り合える。ジャパニーズウイスキーの父がすぐそばにいるような感覚でグラスを傾けられるのだ。
日本中にバーがあっても、このお店がOne & Onlyな理由はゆるぎない。ニッカファンの方にはぜひ一度来てほしい。ひたむきな竹鶴さんのウイスキーの愛をこれほど感じられるバーは、きっとここだけだろう。

Bar and Cafe Nikka Bar Rita
(バー&カフェ ニッカバー リタ)

北海道小樽市色内1-1-17 小樽出抜小路

TEL:0134-33-5001

営業時間:16:00~01:00

定休日:火曜

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