家族経営の力学 その2【全4回】

July 8, 2012

第2回目となる今回は、グレンフィディックの創業家であるグラント家、ならびにウィリアム・グラント&サンズ社について、ガヴィン・スミスが迫る。

1886年から87年にグレンフィディックが誕生したいきさつは、強く結びついた家族が力を合わせて懸命に働いた物語であり、このプロジェクトの総費用が700ポンドをわずかに上回る額という桁外れの安さだったことから、グラント一家がどれほど困難な仕事をしたかは明らかだ。隣接するバルヴェニー蒸溜所が1892年から93年に建設されたとき、費用はおよそ3倍だった。

その後の年月を通して、スコッチウイスキー業界の運の良し悪しにかかわらず、グラント家と婚家のゴードン家は後にウィリアム・グラント&サンズ社となる母体を堅実に統率した。

今年、創立125周年の同社はウイスキーマガジンの2011年度「ウイスキー・ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」に輝き、ウィリアム・グラントの曾孫で80歳代のチャールズ・ゴードンが終身会長、同じく曾々孫のピーター・ゴードンが、一家の第5世代を代表して事業を指揮する社長を努めている。

ピーター・ゴードンによると、「当社には8人の役員会があります。3人が家族株主、3人が独立した社外取締役、そして2人が取締役です。これで操業管理の均衡が図られるとともに、家族員たちの長期的な展望と彼らの技術を考慮に入れることができます」。

ウィリアム・グラント&サンズ社はスコットランド最大の独立系蒸溜業者で、ピーターによると、「1,500人の従業員を抱え、180ヵ国に販売するまでの規模になりました。また、販売のうち80%の流通にも関与しています。そのすべてに対処したくてもそれほど家族員がいませんから、専門的な経営陣が必要なのです。長期にわたり家族経営を確保するため、1986〜87年に主要自社株買い戻しプログラムを開始しました。その理由は、「『希薄化』という要素があったのです。株式のおよそ50%が買い戻され、今では10人ほどが当社の90%を握っています」

事業に加わっている家族員の次世代を視野に入れた「ファミリー・カウンシル」(親族会議)という組織があり、ピーターはこう説明する。

「株主と株主の次世代の集まりです。15年にわたって存続する法的性質を持たない団体で、所有権の問題を話し合っています」

家族経営の組織というと、その性質上、姿勢も事業の取り組み方も保守的と見なしてしまいがちだが、革新とパイオニア精神を誇るウィリアム・グラント&サンズ社の場合は明らかに違う。同社はシングルモルトをイングランドと海外において協調的な方法で上市したスコットランド初の蒸溜業者で、グレンフィディックは1960年代初期にスコットランドを出発し、1969年にはスコットランド初の専門的なビジターセンターも設立している。

また同社は近年、ジン、ウォツカ、ラム、ブランデーまで生産ラインを拡大し、ニューヨーク州のタットヒルタウン・スピリッツの小ロット生産のハドソンウイスキー、そしてタラモアデュー・アイリッシュウイスキーブランドの購入へと進んでいる。

ある意味、スコッチウイスキー業界は安定した家族経営に不思議に適している。生産から販売までの「リードタイム(所要時間)」という点で、他のほぼすべての製造業と異なるためだ。今蒸溜しているスピリッツは少なくとも3年間は世に出ず、シングルモルトとしてボトリングされる予定のウイスキーに至っては、その期間が10年を超える。ウイスキー製造業では一般的に長期戦略の方が短期的な利益追求主義より望ましいが、公的な蒸溜事業の経営を担う役員は、先を見越した取り組み方ができるほど贅沢な身分ではない場合が多い。ウィリアム・グラント&サンズ社に関わる家族員は、先駆的な独立精神と貴重な伝統が広く行き渡った気風の中で操業している。

「現在を過去と結びつけることが可能なのです」とピーター。

「連続性という感覚を持つことは人々にとって良いことであり、ブランドにとっても良いことです。語るべき本物の物語が沢山あります。蓄えてあり、呼び出すことができる材料を膨大に保管しています。私たちはこのような過去とのつながりを大切に世話しているのです」

同社の最も新しいリリースの中には、ジャネット・シード・ロバーツの110回目の誕生日を記念して発表されたグレンフィディック55年モノの限定11本がある。ウィリアム・グラント自身の孫娘として、ジャネットには少女時代からの祖父の思い出があった。家族から「ウィー(小さな)・ジェニー」と呼ばれていたジャネットは今年4月、安らかに永眠した。

長く努めている従業員が多いことを誇りにしている同社の建設的な労使関係も、うらやましいほど評判がいい。

「従業員には真摯な敬意を払っています。2010年には7人が勤続40年を祝い、今年は2人が勤続50年です。所有権の集中は本当に偶然の出来事、幸運、そして良好な管理に頼っていますから、そのお陰で現在のようになることができたのです。そして私たちはこの資産、偉大な人々と偉大なブランドに対する本物の誇りを共有しています」

 

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