ダヴァル・ガンディーと「カンドブラン」の基礎知識【前半/全2回】
文:ブラッドリー・ウィアー
いわゆるレアウイスキーの世界において、これほどまでに芸術性と伝統への深い敬意を兼ね備えたブランドはほとんどなかった。ダヴァル・ガンディーが2023年に設立した「カンドブラン」は、希少なウイスキーのボトリングに留まらず、さまざまな付加価値でブランドを表現している。つまり文化的な共鳴、古代技法の復活、ブランドの物語を体現したオブジェの制作だ。
ウイスキーブランドとしての「カンドブラン」を理解するには、まずダヴァル・ガンディーという人物を知る必要があるだろう。ガンディーが辿ってきたウイスキー業界でのキャリアは、他に類を見ないほどユニークだ。そしてカンドブランのプロジェクトと同様に、彼のキャリアパスもまた高度にデザインされたものである。
ガンディーは、幼少期から優れた識別感覚の持ち主だった。小学校の頃には、鉛筆の匂いを嗅いでブランドを当てることができたという。そして香りと関連する場所をありありと思い出すこともできた。これは単なる一過性の奇妙な能力ではなく、後に卓越した数学、科学、経済学、そして職人技などの能力と融合する種となった。
学業では金融と経済学を学び、米国で世界4大会計事務所として知られるアーンスト・アンド・ヤングに就職。企業財務とコンサルティングに携わった。しかしケンタッキー州でメーカーズマーク蒸溜所を訪れた際に、ある種のひらめきを得たのだとい
う。ウイスキーの製造工程を見て、人間の手が入ったスピリッツ蒸溜の現場に魅せられた。これが自分の表現手段だと気づいたのだ。
英国に戻ったガンディーは、ヘリオットワット大学の大学院で醸造蒸溜学の修士号を取得。卒業後はハイネケンに入社し、後にマッカラン社に移籍して風味やブレンドに関する理解を深めた。
そしてイングランドにレイクス蒸溜所が設立されると、2016年からマスターブレンダー兼ウイスキーディレクターに就任。レイクスのハウススタイルを確立するという任務を見事にまっとうした。マッカラン時代に深めたシェリー樽熟成への理解が、即戦力として新たな重責を助けることになったのだ。
レイクス蒸溜所への移籍は、ガンディーにとって勇気のいる決断だったに違いない。だがその決断は大きく報われた。ガンディーが築いた基盤のおかげで、レイクス蒸溜所は、ワールド・ウイスキー・アワードで常に最高の評価を得ている。イングリッシュウイスキーのカテゴリーではすぐに最高評価を獲得し、2022年には「ウイスキーメーカー・リザーブ No.4」がワールド・ベスト・シングルモルトという最高の栄誉を獲得した。
「白い感動」を意味する新ブランド
そして2023年に、ガンディーは自身のウイスキーブランド「カンドブラン」を設立した。これは希少なウイスキーを入手し、伝統の職人技や文化的な意味合いを融合させた唯一無二の作品を制作するという新事業だ。ブランド名は、日本語の「感動」とフランス語の「ブラン(白)」を組み合わせた造語である。そこには卓越した純然たる芸術性への決意が込められている。特に「ブラン」は、ガンディー自身の名前(ファーストネームの「ダヴァル」はサンスクリット語で「白」の意)にも通じる。
ウイスキーブランド「カンドブラン」は、熟練の職人、デザイナー、ガラス職人、文化的な物語などを結びつけるコラボレーションのプラットフォームでもある。各プロジェクトにおいて、物理的なオブジェクト、液体、容器、シンボリズムなどの制作が、ウイスキーそのものと等しく重要な要素となる。
「カンドブラン」が最初にリリースしたウイスキー「AGA」は、サザビーズと提携して 2023 年のオークション「ディスティラーズ・ワン・オブ・ワン・オークション」で発売された。この「AGA」という名称は、古代インドのアーユルヴェーダ文献で「山」を意味する言葉に由来している。さらにはガンディー自身の息子の名前でもあるのだという。
この「AGA」の中味は、1979年に蒸溜された2種類の希少なスコッチウイスキー(1つはスペイサイド、もう1つはハイランド)をブレンドしたものだ。この香味自体が素晴らしいものであるが、「カンドブラン」の威光を印象づけたのは、このスピリッツを収めたデカンタだ。
日本とイタリアの芸術性を融合させたガラス工芸品は、その見事な質感と光の反射が圧巻だ。ベネチアのムラーノで手吹きされ、イタリアの古来の技法であるバトゥート技法の彫刻が施されている。首の部分には、日本の金継ぎを彷彿とさせる金糸が施されたデザイン。キャップは山頂のような形をしており、富士山をはじめとする世界中の聖山を思い起こさせる。まさに「AGA」の名前にふさわしいデカンタだ。
初めて登場したオークションで、「AGA」の落札価格は45,000ポンド(約780万円)だった。新規ブランドが初めて発売したウイスキーとしては、史上最高額である。
(つづく)







