リンゴ農園に囲まれた立地で、イングランドらしさを追求する。ローズマウンドの挑戦は始まったばかりだ。

文:ヤーコポ・マッツェオ

ローズマウンド・ファーム蒸溜所のプロジェクトは、まだまだ初期段階にある。貯蔵庫も完全には活用されていないが、近いうちにリニュアールされる見込みだ。樽の格納庫には、主にバーボン樽と一部のシェリー樽、そして数は少ないがワイン樽やブランデー樽なども5段組みのラックに整然と並べられている。貯蔵庫のスピースは十分で、さらに多くのラックを追加できる。

共同所有者のジェームズ・チェイスが、今後の見込みについて教えてくれた。

「2026年の前半から生産を開始して、まずは樽200本分のスピリッツを製造する予定です。業界の基準だと少ない数ですが、我々にとってはとても大きなボリュームになります」

1階の天井を突き抜けるカラムスチルは、これから開発するハイボール向けのウイスキー製造に使用される予定だ。

この200本の樽のうち、50本は個人向けプライベート樽販売で既に予約が完了している。もちろん熟成中の資金繰りを支援するための施策だ。残りの樽は、将来のリリース用に確保される。新規に購入する樽は、ハウススタイルであるバーボン樽を中心にしながら、ワイン樽やシードル樽も一部に含めていく予定だ。このような樽を使用することによって、この地域とウイスキーとの結びつきを維持したいという思いもある。

地元産原料へのこだわりは、チェイス蒸溜所の時代から重要事項だった。当時のジンやウォッカも、自前の農場で栽培したジャガイモを原料としていた。この理念は現在も受け継がれ、ローズマウンド・ファーム蒸溜所プロジェクトに統合されている。

原料となる大麦は、地元産のマリスオッター種だ。度数調整で加える水も地元の天然水である。農業部門を統括するジェームズの弟ハリーは、2026年春の収穫に向けて栽培を進めている。

チェイス家のチームは、ローズマウンドのブランドを「エステートシングルモルトウイスキー」に発展させようと目論んでいる。その構想について、ジェームズは具体策を明かした。

「数年前から家族でマリスオッター種の大麦を栽培しており、樽内で熟成中のウイスキーもすべて同じ大麦です。これはビールの醸造用として使われてきた伝統品種で、ヘレフォードシャーの肥沃な土壌と気候に完璧に適合しています。将来的には麦芽製造業者と協議し、我々のために大麦をモルティングしてもらうと計画中です」

蒸留所内で熟成するこだわりも、ローズマウンドが産地を重視する哲学において重要な要素となっている。周囲の環境が、液体の味そのものにも影響するとジェームズは考えている。

「イングランドの気候は、もちろんスコットランド、日本、北米などの地域とも大きく異なります。だからこそ、温度や湿度が熟成に与える影響も違ってくるはずなのです。さらにヘレフォードシャーはシードルの生産でも有名な土地で、うちの貯蔵庫もリンゴ園に囲まれています。その果樹園やリンゴの花の香りは、私たちのウイスキーを味わった人が最初に気づく特徴になっているんです」

イングリッシュウイスキーの魅力を体現

地域に根ざした生産スタイルに加えて、その土地ならではの個性がこれほど重要な役割を果たしている。そんな中で、ジェームズはイングリッシュウイスキーの地理的表示制度導入(GI)を歓迎する立場だ。現地での蒸溜と熟成が、イングランド産シングルモルトの主要基準となることを期待している。

「イングリッシュウイスキーのGI取得は、非常に重要な動きになりそうです。私たちはイングリッシュウイスキー組合の取り組みを全面的に支持しています。現在その件について協議中で、私たちも加盟に前向きです」

ローズマウンドの初回リリース分(約2,700本)は、抽選制で購入希望者に割り当てられた。ごく一部のみが、独立系の販売店やバーに供給されている。この方式は今後の全リリースに適用される予定で、2026年の夏に販売される約500本の第2弾も同様の扱いとなる。ジェームズによれば、夏の季節にあった、やや軽めの飲みやすいスタイルを目指すという。

初めて発売するウイスキーが、10年熟成というブランドは珍しい。高品質なイングリッシュウイスキーとして、ローズマウンドは堅実なスタートを切ったばかりだ。

青いラベルは、樽熟成で実験的な試みをした「ディスティラーズ・チョイス」シリーズ。原料と樽の調達を強化し、今後も大幅な増産を計画している。

熟成されたシングルモルトは既に市場に出回っており、将来のボトリング用に十分な原酒も確保されている。だがローズマウンドのプロジェクト自体は、まだまだ成長中の部分が大きい。「バッチにかかわらず、スタイル、樽、熟成年数が異なる原酒同士でも、この蒸溜所の周囲のリンゴ園がもたらす本質的な風味の特徴は存在します。将来的にはハウススタイルを確立したいと願っていますが、現時点では各リリースが完全にユニークなものとなる予定です」

今後もローズマウンドのチームは、熟成年数が少なめの若いウイスキーや、熟成年数を記載しないノンエイジのリリースも検討する可能性がある。しかし現時点で、ジェームズは熟成年数の表記に注力している。それはローズマウンドの高品質を打ち出し、イングリッシュウイスキーカテゴリー全体の品質に対する認識を強調するためだとジェームズは語る。

「イングリッシュウイスキーが進化し、今や素晴らしい熟成原酒が存在する事実を世界に伝えたいという一心です」

今後のリリース準備を進める中で、ローズマウンドのチームは2026年早々の生産開始に向けて数百樽の追加貯蔵を計画している。今後数年かけて、原酒ストックを段階的に増やしていく方針だ。

ホスピタリティ事業も具体的に計画されており、農場での見学ツアーもすでに始まっている。少人数グループ向けの没入型体験プログラムは、事前予約で参加できる。ローズマウンドのウイスキー製造工程の裏側を見学できるほか、テイスティングや、人気テレビ番組『マスターシェフ:ザ・プロフェッショナルズ』出場者であるカラム・マクドナルドが調理した食事の提供もある。

ウイスキーが完成し、新しいプロジェクトも進んでいる。イングランドのスピリッツシーンで活躍してきたチェイス家は、「ローズマウンド」で注目すべきイングリッシュウイスキーの未来を切り拓いている。