古くて新しいハイランドの農場蒸溜所【前半/全2回】
伝統と先進性を兼ね備えたファーム・ディスティラリー。バルモード蒸溜所を訪ねた2回シリーズ。文:ガヴィン・スミス
スコットランドのバルモード蒸溜所は、これぞ農場蒸溜所(ファーム・ディスティラリー)というべき特徴を備えている。場所はアバディーンシャーの奥地で、交易地のターリフから6キロほど離れたキング・エドワードだ。土地を所有するのはストラカン家で、農場の広さは1750エーカーある。黄金色の大麦や、鮮やかな菜種の黄色が波打つ肥沃な土壌。季節の色彩が、大地に永遠のリズムを紡いでいる。
アバディーンシャーには、他にも名の知れたウイスキー蒸溜所がある。ハントリー近郊のグレンドロナックやノックドゥー。オールドメルドラムのグレンギリー。いずれも長い歴史を誇り、地域社会に深く根ざした生産者である。そしてバルモード蒸溜所にもっとも近い既存の蒸溜所は、北に13kmほど離れたデヴァロン川沿いにあるマクダフ蒸溜所だ。
アバディーンシャーの新参に数えられるバルモード蒸溜所のチームは「新世代のディステラーにして、古き良き農夫たち」というキャッチフレーズを掲げている。確かに彼らは「古き良き農夫」であり、時代を越えて継承されるのどかな風景の中にある。だがバルモードは、多くの点で21世紀らしい蒸溜所であるともいえる。
まず農作業と蒸溜作業の動力源として、2.3MWの風力タービンが2基設置されている。道路脇でゆったりと羽根が回る風景には、未来的な印象がある。そして蒸溜器2基に採用された熱蒸気再圧縮(TVR)技術が、エネルギー使用量を大幅に削減してくれる。さらに蒸溜時の副産物をバイオメタンガスに処理する嫌気性消化装置の設置も計画されている。生成されたガスも、ここで動力源として活用される予定だ。
蒸溜所に到着すると、その規模の大きさに驚かされる。生産棟、倉庫、関連施設は、以前この場所にあった古い農場と同じ広さの敷地に建ち並んでいる。蒸溜所建設の構想が持ち上がったときは、建物を改修して転用することも検討された。しかしその建物の高さが蒸溜器を設置するのに不十分だったため、取り壊されてて特注の蒸溜所専用設計で建て替えられた。
バルモード蒸溜所を創設して現在の会長も務めるのは、1958年からミル・オブ・バルモードで農業を営んできたウィルソン・ストラカンである。社長を務める娘のシャノン・グリーン、娘の夫であるアンドリュー=ジェームズ・グリーン、ブランディングとマーケティングを担当する弟のカイル・ストラカンが事業に携わっている。
家族が経営する農場では、菜種(200エーカー)、小麦(200 エーカー)、大麦(1,300 エーカー)といった作物を栽培している。モルトとなる大麦は、年間約3,000トンの生産量だ。蒸溜所から数キロ離れた場所では、採石業も営んでいる。
ストラカン家はウイスキー製造こそ初心者だが、穀物栽培に関しては長年の経験と知識がある。過去50年間にわたってウイスキー業界に麦芽用大麦を供給し、その品質が高く評価されてきた。
穀物栽培からボトリングまでをひとつの場所で
バルモード蒸溜所は、ハイランド地方でも真正の「グレーン・トゥ・グラス」(穀物からグラスまで)を実践するシングルエステート(単一農園)の蒸溜所である。社長のシャノン・グリーンが説明してくれた。
「うちは4代続く農家です。栽培した穀物を有効活用しようという考えから、蒸溜所の建設を決断しました。蒸溜所はもともと祖父が長年温めていた構想でしたが、それを父のウィルソン・ストラカンがついに実現したのです」
そしてバルモード蒸溜所におけるスピリッツづくりの中心人物といえば、アラン・フィンドレイ蒸溜所長だ。プロジェクト初期から蒸溜所の建設に関与し、当初は現場で機械を操作したり、塗装が必要な資材にペンキを塗ったりしていた。
フィンドレイは、スペイサイドの中心地であるキース近郊の農場で生まれ育った。幼い頃の記憶では、父親がノックドゥー蒸溜所から譲ってもらった酒粕を牛の餌にしていたことを覚えている。キース界隈で育った多くの若者がそうであるように、フィンドレイもキース町内のストラスアイラ蒸溜所やグレンキース蒸溜所、そして近隣に広がる倉庫群やブレンディング施設を所有するシーバス・ブラザーズで働き始めた。
フィンドレイは、そんな若き日を回想する。
「主に倉庫作業、樽詰め、ブレンディング用タンクへの移し替え、樽の漏れチェックなどを担当していました。グレンリベット蒸溜所のような場所で働いたり、時にはキース近郊マルベンのマルコムバーン保税倉庫を職場にしたこともありました」
やがてフィンドレイは、2010年にタムナヴーリン蒸溜所のオペレーターとしてホワイト&マッカイに入社した。その後、ブレンディングやボンド事業も手掛ける独立系ボトラーのアセオ・スピリッツでウイスキー製造責任者を務めた。
アセオ社は独立系ボトラーズブランド「マーレイ・マクダヴィッド」を所有している。フィンドレイは閉鎖されたエルギン南部のコールバーン蒸溜所を拠点に、今後リリースされるかもしれないウイスキー原酒の評価などを担当した。
(つづく)






