古くて新しいハイランドの農場蒸溜所【後半/全2回】
ベテランの英知が、精緻な製造工程を支える。バルモードの堅実な歩みに、静かな注目が集まっている。文:ガヴィン・スミス
アセオ・スピリッツで原酒の評価を担当していたアラン・フィンドレイは、いつかウイスキーの製造現場に戻りたいという願いを募らせていった。そしてキングシー近郊のスペイサイド蒸溜所で、蒸溜所長に就任する。約5年間の勤務を経て、現在のバルモード蒸溜所の蒸溜所長となった。
この新しい役割について、フィンドレイは次のように語ってくれた。
「ここはすべてが新しく刺激的です。原料の生産から関わることで、間違いなく自分がつくったウイスキーなのだという足跡を残せます。ここバルモードが、農場蒸溜所であるというところも気に入っています」
アラン・フィンドレイと共に働くのは、ケイスネスのウルフバーン蒸溜所で蒸溜所長を務めていたイアン・カーだ。フィンドレイが、相棒のカーについて説明する。
「彼はいつもウイスキーの生産工程について考えていました。そしていつかは故郷に近い場所で働きたいという希望も持っていたんです。アベラワー生まれで、私と同じように新しい蒸溜所で働くことに魅力を感じていました。僕らは長年の知り合いなので、二人きりで運営する場合にも安心できます。自分が不在の時でも、頼れる経験豊富なオペレーターがいれば心配は要りませんから」
最初のスピリッツは、2025年2月に蒸溜所内で樽詰めされた。現在は週に約50本のペースで樽詰めされている。自社の農場で栽培された大麦が、年間1,200トンほど運ばれてくる。この大麦はベアード社のインヴァネス・モルティングスで製麦されているが、ストラカン家は将来的にここで製麦場も建設する計画なのだという。
アラン・フィンドレイが、バルモードのウイスキーについて香味の方向性を説明してくれた。
「僕らが目指しているのは、青っぽい草花の香りを備えた典型的なスペイサイドモルトです。発酵時間は162時間で、この発酵工程からショートブレッド、リンゴ、洋ナシ、ハチミツなどの香りが生まれます。時間をかけて発酵させるほど、ニューメイクの味わいも複雑さが増してきます。樽熟成はまだ初期段階ですが、スペイサイドらしいフルーツ香が現れ始めています。ペドロヒメネスシェリー樽で熟成中の原酒には、すでに一部で素晴らしいショウガのようなスパイス香が育っています」
ジン、ウォッカ、ラムを経て主力のウイスキーを発売予定
樽熟成の全体的な計画は、約80%が主にファーストフィルのバーボン樽で占められる。その他にフレンチオーク樽、オロロソシェリー樽、ペドロヒメネスシェリー樽。それ以外に、小型サイズゆえ急速な熟成が期待できるオクターブ樽も一定量を使用している。
蒸溜所の敷地内にある貯蔵庫では、現時点で樽10,000本分のスペースを確保している。必要に応じて、さらに貯蔵庫が建設できる余地も十分にある。小型樽やポートパイプなどを保管できるダンネージ式貯蔵庫の整備も計画されているのだとアラン・フィンドレイは明かす。
「まず3年熟成のウイスキーを瓶詰めするなら、非常に優れた品質でなければなりません。その後に4年熟成、5年熟成のボトリングを発売して、ラベルには熟成年数を明記するつもりです」
最近になってボトリング用の設備が導入されて、アラン・フィンドレイが考案したレシピに基づくスコティッシュドライジン「バルモード」の初回バッチがボトリングされた。
バルモードの広報担当者は、このジンの香味について次のようにコメントしている。
「香りは柔らかな柑橘類、オレンジ、レモン、そして繊細なザクロのニュアンスで始まります。口に含むと甘くフルーティな風味が立ち上がり、やがて清らかな柑橘の風味へと移り変わり、後味にはほのかなジュニパーの香りが残ります」
現在はウォッカの生産も進行中であり、さらにカリビアンスタイルのラムも敷地内の二重レトルト式蒸溜器で製造されている。
それでもバルモードの長期的な主軸商品は、あくまでウイスキーになるのだという。熟成の課程に寄り添いたいという方は、ファーストフィルのバーボン樽(200リットル)またはファーストフィルのシェリーホグスヘッド樽(225リットル)に入った原酒を購入できる。ボトリングまで最大10年間の熟成過程に寄り添えるのも樽購入の醍醐味だ。
このようなバルモード蒸溜所での製造工程は、ビジターも見学できるのだろうか。答えはイエスだ。実はビジターの受け入れを計画中で、2026年中に事前予約制で訪問が可能になる見込みである。将来的にはビジターセンターを整備して週7日営業にする計画だが、まずは製造施設の完成を優先し、将来に向けた原酒の貯蔵に注力している。
畑からグラスまで(グレーン・トゥ・グラス)を一貫して担う農場蒸溜所の理想は、スコットランドを代表する小説家で元税務官のニール・M・ガンが著書『ウイスキーとスコットランド』のなかに描かれている。
「倉庫の薄明かりの中で樽5000本分のウイスキーの沈黙に耳を傾ける。周囲の畑では、大麦の種が蒔かれている最中だ。この素晴らしい光景は、詩人でも言葉を失うだろう」
出版から約50年が経つ名著だが、まさにバルモードのような蒸溜所を念頭に置いたような記述ではないか。






