ダヴァル・ガンディーと「カンドブラン」の基礎知識【後半/全2回】
文:ブラッドリー・ウィアー
ダヴァル・ガンディーが生み出した「AGA」は、ウイスキーブランド「カンドブラン」の名前を世界に知らしめた。その一方で、新進「カンドブラン」のブランドをまったく新たなウイスキーの領域へと押し上げた商品が「ドラゴン・イン・クラウド」である。
この「ドラゴン・イン・クラウド」は、日本の芸術と美意識に着想を得た「YUKARI」コレクションの第一弾となる。全3作品で構成される「YUKARI」(縁)は、伝統文化を大切にする人々、場所、工芸、文化の絆を強調したコンセプトである。
この作品の核となるのは、スペイサイド産のシングルモルトウイスキーだ。熟成期間は60年で、リフィルのシェリー樽を使用している。この原酒の選択には、マッカランやレイクスでの経験から培われたガンディーの情熱が込められている。シェリー樽への深い理解があってこその作品なのである。
先行商品の「AGA」と同様に、容器そのものも単なる付属品ではない。それどころか、むしろこの作品の主役ともいえる。伝統的な日本の陶磁器の美学に着想を得ており、流れるような輪郭は龍の幻想的な能力をイメージしたデザインだ。
容器の上部には、伝統的な漆芸が施されている。並外れた忍耐力と職人技を持つ日本の職人が、「研ぎ出し蒔絵」の技法で装飾したものだ。
この「研出し蒔絵」で描かれた絵は、水墨画「九龍図巻」などで知られる陳容(南宋の画家)の手法も採用している。金粉を用いて、漆の奥から浮かび上がるような筆致である。極めて入念な工程を要し、塗布と研磨を何度も繰り返す。
このプロジェクトには、イタリアのガラス工芸の伝統も生かされている。ベネチアングラスを代表するムラーノ島のヴェニーニが、インシソ(彫刻)とバトゥットー(打刻)の卓越した技法の併用でクリスタルガラスの容器を仕上げた。表面の加工によって透明度を繊細にコントロールし、まるで光が器の中を流れていくような職人芸だ。
このボトルには、ガンディーがこだわるサステナビリティへの願いも秘められている。ボトルの下部には彫刻が施された陶器の土台が配置されており、これから何世代にもわたって受け継がれるべき工芸美を体現している。
素晴らしいウイスキーを提供するという主目的とほぼ同等に、「カンドブラン」はウイスキーの創作を通して失われつつある伝統工芸と職人技の保存にも注力している。
ここ2年間のブランド開発期間において、「カンドブラン」は伝統技術の継承、職人技の保存、そして存続の危機に瀕する可能性のある工芸の達人たちに経済的な支援を確保してきた。これは広義のサステナビリティを追求する姿勢である。
ウイスキーの熟成だけでなく、職人技全般の伝統が持続可能であることに重点を置くことがダヴァル・ガンディーの目的なのだ。「カンドブラン」のプロジェクトで使用される素材は、その多くが存続の危機に瀕した伝統技法に根ざしている。ウイスキーブランドとしての「カンドブラン」は、このような伝統に保存の道筋を提供しているのである。
ウイスキーを越えたコンセプト
サザビーズとの提携による「ディスティラーズ・ワン・オブ・ワン・オークション」において、このウイスキーは106,250ポンド(約2,200万円)で落札された。同イベントにおける独立系ブティック企業として史上最高落札価格を記録するとともに、全39点で構成される唯一無二のロットでも6番目の高値となった。
これは「カンドブラン」のこれまでのオークション記録を大幅に上回るものでもあった。落札金額の全額は、恵まれない子供たちを支援する「ディスティラーズ・チャリティー」およびその「ユース・アクション基金」に寄付される。
ダヴァル・ガンディーが、「カンドブラン」ブランドの使命について語ってくれた。
「カンドブランの使命は、未来の世代に向けて伝統芸術を促進し、保存することにあります。私たちが創造するものではなく、将来に持続させるものこそが遺産であると常に信じてきました。ここでカンドブランの使命とディスティラーズ・ワン・オブ・ワン・オークションの理念が合流するのです。私たちはみな、この国の若者に機会を与え、力を与えるためにこの活動に取り組んでいます」
カンドブランが他と一線を画すのは、単に優れたウイスキーを選び、美しいボトルを制作する能力だけではない。それぞれの作品が、より大きな物語の中に自らを埋め込もうとしている点が重要なのだ。これは特定の希少ウイスキー収集家の間で広がる大きな潮流の一部でもある。
単に熟成年数や樽詰め度数を求めるだけでなく、背後に大きな意味を宿し、対話を喚起し、蒸溜所だけでなく、職人技、人々、土地の由来などを実態として反映するパッケージなども重視される傾向だ。
現在のダヴァル・ガンディーは、富士山に着想を得た一点物のウイスキーを用意しているところだ。さらには他のユニークな作品も制作中であるという。日本の美意識と象徴性には、相変わらず強い関心を示している。
「カンドブランというブランドは、調和を重んじる原則に基づいて設立されました。その原則とは、多様な芸術と文化の間に平等な創造的対話を育みながら、芸術を保存していく灯台のような役割を果たすことです。私たちの象徴であるAGAの足跡をたどるYUKARIコレクションは、この使命に対する私たちの揺るぎない取り組みを体現しています」
ダヴァル・ガンディーは、金融業界からの転身からマッカランとザ・レイクスでの経験を経て、芸術、ウイスキー、工芸、文化を融合したブランドであるカンドブランを設立した。そのユニークな道のりは、ウイスキー業界の新たなフロンティアを示す象徴といえるだろう。その可能性を示したのが「AGA」であり、その後の「ドラゴン・イン・クラウド」 でさらに周囲の期待を高めている。
世界のウイスキー業界は、次の展開を辛抱強く待っているところだ。もう細かいジャンルの違いなど関係ない。コレクター、職人、ウイスキー愛好家、芸術愛好家にとって、「カンドブラン」よりも希望に満ちたブランドを探すのは難しい。







