カバランとジム・スワン博士の熟成戦略【後半/全2回】
文:オールウィン・ギルト
コッツウォルズからさらに北に位置するスコットランドのノックニーアン蒸溜所も、スワン博士との協働という点においては同様の道を辿った。つまり蒸溜所の設立と基盤構築の段階で、博士のアドバイスを仰いだのだ。熟成方法においては、もちろんSTR樽が重要な役割を果たし続けいる。ブレンダーのマシュー・ヘイスティングスが次のように説明する。
「当初からジムが構想したノックニーアンの基幹レシピは、倉庫内の樽の割合にそのまま反映されています。具体的には、STR赤ワイン樽41%、バーボン樽41%、シェリー樽7%、その他1%という割合です。コアレシピに使用しているのは、主なSTR赤ワイン樽とバーボン樽とシェリーだけ。当初の提案とは若干異なる比率ですが、それぞれの核となる役割は変わっていません。ブレンドのなかに、STR赤ワイン樽が深みと複雑さを加えています」
ダービーシャー州のホワイトピーク蒸溜所では、営業およびイベント責任者のトム・リンジーがジム・スワン博士のアドバイスを活かした。プロジェクト全体を通じて直接協力してもらったわけではないが、創業期に遠隔で多くの助言があったのだという。
「残念ながら、蒸溜所が最終的に稼働する1年以上前に博士は逝去されました。とはいえ、当社のウイスキーの一部は、博士のSTR樽のコンセプトを採用したことで、間違いなく影響を受けています。当社の倉庫在庫の約3分の1を占めるSTR樽は、ジム・スワン博士の正当な遺産を永続させることに貢献しているといえるでしょう」
ビール用酵母と長期発酵を採用しているホワイトピークでは、果実味が前面に出たライトリーピーテッドの風味豊かなウイスキーづくりを目指してきた。創業当初にレシピを開発していた頃は、STR樽もまだ比較的新しい技術だった。だがポルトワインのサプライヤーと協業することで、アメリカンオークの樽板とフレンチオーク新材のヘッドを組み合わせたハイブリッドスタイルの開発にも成功した。現在では伝統的なSTR樽やバーボン樽などにあわせ、このハイブリッド樽を積極的に併用している。リンジーがその理由を説明してくれた。
「STR樽はワイン樽の持つ心地よい甘みを付与しつつ、時に伴う渋みを抑えられます。また、ピート香と調和するような甘さがある樽での熟成は、しばしば理想的な組み合わせとなります」
カバラン創業から20年が経ち、スワン博士逝去からも8年が経った。だが今でも両者の遺産が深く結びついていることは明らかだ。カバランのブランドアンバサダーを務めたブリトニー・チェンは、次のように説明する。
「カバランの20周年は、回顧と刷新の節目です。STR樽はカバランが世界的な評価を得た先駆的精神を象徴する技術であり、私たちの品質、革新、宜蘭のテロワールなどへの真摯な取り組みを今なお体現しています。今後もSTRは、当社のアイデンティティの礎であり続けるでしょう」
ウイスキー産業全体を押し上げた樽熟成の科学
ダニエル・ゾーにとって、スワン博士の遺産は大きく2つある。ひとつは、世界中で数多くの蒸溜所建設を成功に導いた貢献。もうひとつは、木材と蒸溜酒の相互作用に関する驚異的な知識の確立と普及だ。
「端的に言えば、ジムは40年にわたる学びを数週間の指導で優雅に受け渡し、すべて容易で理解しやすい形にして教えてくれたんです。私にとってSTR樽は、ジムからもらった最も偉大な教えのひとつでした」
ノックニーアン蒸溜所のブレンダーを務めるマシュー・ヘイスティングスは、次のように語った。
「蒸溜所のどこを見ても、博士の痕跡が目に飛び込んできます。卓越性を追求するため、その専門知識を多くの人に伝えたいと願った広い心。極めて博識なジム・スワン博士の痕跡が残っているんです。博士の影響は、私たちの蒸溜所だけでなく、ウイスキー業界全体で日々感じられます」
ウイスキー業界では、樽熟成が極めて重要な製造工程だ。しかもそれぞれの生産者が、独自性を語るうえで熱心に伝える要素でもある。だからジム・スワン博士のSTR樽が、彼の遺産の中でも特に脚光を浴びるのは当然のことだ。
ジム・スワン博士が関わった多くの蒸溜所は今でもSTR樽を採用し続けており、ジムの仕事の質の高さを証明するように、支援した蒸溜所の多くは大きく成長を遂げているのだ。
しかしウイスキーづくりは、樽だけで成り立つものでもない。ジムの遺産も同様だ。これらの蒸溜所に麦汁、もろみ、スピリッツの特徴を尋ねてみれば、そこには明確な共通点が見えてくる。もちろんすべてがまったく同じというわけではない。それでも各工程やスタイルに合わせて熟考され、細かく調整されたプロセスには共通点が見いだせる。まさにその道の達人による仕事であることが明白なのだ。
革新的な樽づくりから、真に良質なウイスキーづくりへ。ジム・スワン博士の教えを実践するウイスキーには、地域を越えて世界をつなぐ物語がある。台湾のカバラン蒸溜所で始まったこの物語は、今やスワン博士の遺産と樽が織りなす革新とインスピレーションの物語へと発展し、世界各地の心あるウイスキーメーカーを通して多くの人々を魅了している。ウイスキー愛好家なら、誰もがこんな話に杯を掲げて祝福したくなるだろう。







