ウイスキー用語集―AからZまで【D】

February 6, 2014

シリーズの最新版は、アルファベットの“D”で始まる言葉を取り上げる

Distill―「蒸溜」。
言うまでもなく、蒸溜はウイスキーの製造過程において、核となる部分だ。ウイスキーのグラスをゆったりと傾ければ、幸福な時間を過ごすことができる。大麦やイースト、水がウイスキーの風味全体にとっていかに重要か、どのくらい長く発酵すると蒸溜酒に影響を及ぼすか、最高級のオーク樽の中でどの程度ゆっくり成熟させると完成された製品が出来上がるのか、などと討論しながら。

しかし、私の場合、モルトウイスキーの奇跡である「銅」の話に触れると、気分は最高潮に達する。

もちろん、蒸溜は、必ずしも銅製のポットスティルの中で行う必要はない。ラテン語の”Distillare” 、「滴り落ちる」に由来する言葉は、液体の構成物をそれぞれに分離するために、蒸気になるまで沸騰し、それから濃縮して集める、その過程をいう。

アルコールにするために行なう過程は、2通りの基本的方法がある。
ひとつは、単式蒸溜。低アルコールの液体を沸騰させ、気化した蒸気を確保して冷やすことで高濃度のアルコールを得る。それからもう一度最初から同じ工程を行って、十分なアルコール度数のスピリッツへと生まれ変わらせる。
もうひとつは、連続式蒸溜。ビール状の液体を連続的に一方の端から注ぎ込み、完成したスピリッツがもう一方の端から集められる。

ここでは、シングルモルト・ウイスキーに使われている単式蒸溜に注目しよう。
蒸溜工程は1回ないし3回、場合によっては、2.5回または4回行われる。回数の多さは蒸溜所のスタイルだ。これによって様々な個性が生まれる。

初回の蒸溜を行う釜をウォッシュスチル、ビールスチル、日本語では初溜釜と呼び、2回目の蒸溜を行う釜をローワインスチルまたはスピリットスチル、日本語で再溜釜と呼ぶ。だいたい初溜釜は再溜釜の2倍の大きさである。

ウォッシュ(発酵液、醪、またの名をディスティラーズ・ビール)は、中身が1/2から2/3になるまで、ウォッシュスチルによって凝縮される。温められ、アルコールが蒸発して気化すると、長いヘッドの部分を通り、ラインアームをつたって、冷水で外部を冷やされたパイプを通り冷却され、再び液体に戻るというのが通常の工程だ。

元来、ウォッシュのアルコール度数は6〜7%で、初回の蒸溜(初溜)を終えると、アルコール度数20%前後の液体になる。
そして2回目の蒸溜(再溜)が行われるのだが、ここがディスティラーの腕の見せどころ。良質のウイスキーをつくるために、悪いもの、さらに有害な物質を分離し、純粋なスピリッツのみを確保しなくてはならない。

まず、ディスティラーは蒸溜して最初にスピリッツとなった段階のものを、ホールディングタンクに戻す。最初の段階のスピリッツには好ましくないフレーバーなどが含まれているからだ。これを、ヘッドまたはフォアショット(前溜)という。
規定値に達すると—その値は蒸溜所によって異なるが—、やっとここでハート、あるいはボディ(本溜/中溜)と呼ばれるニューメイクの蒸溜液として集められる。この段階のスピリッツのみが、樽に入りウイスキーになることを許されるのだ。
そして得られるアルコールの質がピークに達したと判断すると、もう一度その残りのローワインはテイル(後溜)と呼ばれ、よけられてヘッドとともに次の回で再利用ということになる。ヘッドとテイルをあわせたものをフェインツ(余溜)という。

そのような訳で、ディスティラーが蒸溜液をカットする技術は、非常に重要なことだ。また、銅製の蒸溜器の形やサイズも同様に重要だ。なぜなら銅はスピリッツから不純物を取り去るからである。ウイスキーと銅の相互作用(対話)が長ければ長いほど、蒸溜酒はなめらかで軽くなると言われている(実際にはそう簡単ではないのが、蒸溜のマジックなのだが)。

結果としてできあがったニューポットは、透明で度数60%以上の高いアルコールを含有し、ここにウイスキーの基本的なDNAの全てが含まれている。そこから環境要因―樽材、樽の型、熟成期間や貯蔵庫の立地といった条件が味に影響を及ぼす。

それゆえに、ひとつでも間違った蒸溜工程が施されると、ウイスキーはとんでもないことになる。そこには、奇跡と魔力が存在するというほかない。

用語集―【D】

ダブラー(DOUBLER)
ポットスチルの一種。主に北米でグレーンウイスキーやバーボンの蒸溜に用いられる。再溜に使用され、内部で連続蒸留ができるような特殊な仕組みのポットスチル。

ラフ(DRAFF)
大麦を糖化して麦汁を絞り終えた後の麦の滓。家畜の飼料に用いられることが多い。

ドラム(DRAM)
少量のスコッチモルトウイスキーを表す言葉として、広く知られているが、実際には、グラスに入った一杯(蒸溜酒であればなんでも)という意味でも使われている。オックスフォード辞典によると、語源は中世ラテン語‘drachm’(重量の単位)。

ドラム・モルティング(DRAM MALTINGS)
大麦を麦芽に変えるには、大麦を温水に浸し、広いフロアに広げ、定期的にかき回す工程が必要だ。この作業をフロアモルティングというが、ドラム(円筒形の機械)を使用することでも可能である。ドラムは自動的に回転することによって、大麦をかき回す。この方法をドラム・モルティング(トロンメル方式)という。フロアモルティングよりも効率が良く、大量生産が可能である。

【ショート・メモ】蒸溜業者と環境保護

ウイスキー業界は、ずいぶん前から環境に配慮している。
廃棄される穀物は家畜の飼料に使用、熱はエネルギー浪費を減らすため再利用される。ボウモア蒸溜所で余熱を利用した蒸溜所内の暖房システムや公共の温水プールの運営などは有名。
現在、蒸溜所は厳しい監視下の元に置かれている。基準のもといくつかの蒸溜所では、蒸溜と冷却の工程の間に液体の中に蓄積された少量の銅を取り除く作業も導入している。

 

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