シュナップスなどの伝統を土台に、ジャパニーズウイスキーのような成功を目指す。ジャーマンウイスキーの成長はまだまだ続く。

文:ハリー・ブレナン

 

ジャーマンウイスキーの可能性は未知数であり、今でも多くの議論を呼んでいる。ウイスキー評論家のハインフリート・タッケには、ドイツの多くの小規模蒸溜所がニッチな製品の領域に踏み込むことを避けるべきだという持論がある。

これはマニアックな細かい特徴に固執するよりも、すでに確立されたウイスキーに堂々と市場で勝負を挑むべきという考え方だ。

「ジャーマンウイスキーの独自性を証明する必要は、確かにあるでしょう。でもわかりやすい特徴を謳うためだけに、ウイスキーの基本を全面的に刷新してはいけないと思います」

将来的な発展の理想型として、ハベル蒸溜所のイェンス・キューリングが挙げるのはジャパニーズウイスキーだ。

ハルシーニアンの蒸溜工程では、直火式の蒸溜器が使用される。蒸溜酒づくりの伝統と、樽熟成や原料の多様性がジャーマンウイスキーの武器になる。

国内市場で幅広く支持されながら、国際的には見過ごされてきた時代がジャパニーズウイスキーにもあった。しかし現在では、その独特のスタイルと品質が世界的に称賛されているとキューリングは指摘する。

「私たちはここドイツで、ジャパニーズウイスキーのような成功を夢見ているんです」

その一方で、ドイツ特有の小規模生産者を中心とするエコシステムが、世界5大ウイスキーの模倣(あるいは直接の競合)から離れた独自路線を生み出してくれる可能性もある。

ウイスキーの世界では消費者の考え方が変わりつつあり、地域に密着した産品への関心が高まっている。ハベル蒸溜所は、まさに土地の環境と結びついた存在だ。所在地の公園は、古い鉱山の跡地なのだとキューリングは言う。

「このような景観の中だからこそ、明確な特徴を打ち出したウイスキーをつくる意味があるんです」

蒸溜所の親しみやすさも、ジャーマンウイスキーと出会う最初にきっかけになっていると評論家のタッケは語る。シャイベル・ミューレ蒸溜所でセールスマネージャーを務めるディートマー・シューも次のように説明してくれた。

「当初は懐疑的だった消費者の間にも、ジャーマンウイスキーを気軽に楽しんでやろうという気分が高まっています。今ではドイツ国内をはじめ、隣のフランスやスイスの近隣からジャーマンウイスキーを求めてやってくるウイスキー好きがいます」

とはいえ、ドイツでスコットランドと同じようにウイスキーツーリズムが普及するのは時間がかかる。ウイスキーを買ってくれるのは、今のところ地元の消費者が中心だ。

ジャーマンウイスキーは、希少でエキゾチックな存在から、より身近で一般的な存在へとシフトしつつある。だがこの変化には責任も伴ってくる。目新しさや地元の関心だけで、ウイスキー製造というビジネスはやっていけない。ヘルシーニアンの蒸溜責任者を務めるアンナ・ブッフホルツは、次のように提言する。

「産地がどこであっても、ウイスキーは非常に優れた品質でなければいけません。それがすべてのスタート地点です」

シャイベル・ミューレ蒸溜所のディートマー・シューも、品質の重要性を強調する。

「目新しさはもはや主な魅力ではなく、今はウイスキーの品質が重要な関心事になっています。ドイツの消費者は、ジャーマンウイスキーにますます関心を寄せていますが、ここからまだ長い道のりが待っています」

国際的なウイスキー市場で競争に晒されるドイツの蒸溜業者は、消費者にアピールできる価格についても考慮しなければならない。ヘルシーニアンやハベルのような生産者は、バッファロートレース、グレンマレイ、ミドルトンなどに匹敵する生産力を持ち合わせていない。そのためドイツの蒸溜所には、熟成年の若いウイスキーをかなりの高値で発売する場合もある。

例えば3年熟成のシングルモルト「ズアレナーホフ」(容量500ml)は69ユーロで、シュロール蒸溜所のシングルモルト(熟成年表記なし)は109.90ユーロである。見慣れない高価なブランドと、安くて信頼できる有名ブランドの価格差は、普通の消費者なら誰もが二の足を踏んでしまう原因になる。

ありがたいことに、このような値付けがジャーマンウイスキー全般を代表している訳ではない。ドイツの蒸溜所は、適切な価格帯であれば、世界的に有名なウイスキーとも十分に競争できる。これはブッフホルツがヘルシーニアンのシングルモルトで採用しているアプローチでもある。

「ウイスキーは液体の黄金みたいなもの。つまりは基本的に贅沢品なんです」

シングルモルトの生産量が少ないヘルシーニアンでは、ボトルあたりの価格も高くなる。ブッフホルツが手がけるクラフトウイスキーの「エルスバーン」や「アルリック」の価格は約70~90ユーロで、価格と品質が他社の製品と拮抗するクロスオーバーポイントにある。この価格なら、定評ある5大ウイスキーの銘柄とも直接比較できるだろう。シャイベル・ミューレやシュリアスが製造する多くのシングルモルトも、同じような価格帯にある。

この点で、ヘルシーニアンはジャーマンウイスキー全体の先陣を切っており、この国の最高級のウイスキーを代表していると言う人もいる。ブッフホルツはこれを光栄と感じながらも、他のジャーマンウイスキーがもっとスピーディーに追随してほしいとも思っているようだ。少量生産の高品質なウイスキーは、この国の評価を高めていくはずだ。しかしそのような変化はゆっくりとしか訪れない。
 

依然としてスコッチが大好きなドイツ人

 
ジャーマンウイスキーの将来的な方向性には不透明な部分もあるが、ドイツでは全般的にウイスキー市場が活発だ。コロナ禍で減速を余儀なくされるまで、ドイツにおけるウイスキーを提供するクラブ、フェスティバル、イベントなどは容赦なく増え続け、ほとんどオーバーヒートするほどだったとタッケは振り返る。

評論家のタッケは、20年前に情報サイト「ウイスキーガイド・ドイチェラント」の制作を始めた。これは無名だが美味しいジャーマンウイスキーを紹介してほしいという消費者の要望に応えたものである。情報サイトの事業は、毎年発表される独自の「ジャーマンウイスキーアワード」の創設につながった。最も新しい2024年のノミネートには、ハベル、シュリアス、シャイベル・ミューレも含まれている。

シャイベル・ミューレ蒸留所のウイスキーが出荷を待つ。ジャーマンウイスキーは、静かに既存のウイスキーファンによって受け入れられている。

ドイツで開催されるウイスキー関連イベントは、ローカルなものから大規模なものまで多岐にわたる。「ウイスキーヴィレッジ」(ニュルンベルク)や「インターウイスキー」(フランクフルト)などの大規模な見本市もあれば、「ウイスキースプリング」(シュヴェツィンゲン城)や評論家のタッケが個人的に推す「ラデボイル・ウイスキーフェスティバル」などの祝祭的な雰囲気のイベントも人気だ。

ドイツにはウイスキー愛好家による交流会がたくさんあり、ウイスキー業界のエコシステムを構成する重要な一部になっている。ウイスキーファンであるアドリアン・フバ・タカーチが2018年に創設したウイスキー・アマチュアクラス・フランクフルトもそのひとつだ。

タカーチいわく、フランクフルトのウイスキーシーンは成長し続けている。多彩なテイスティングイベント、SNSグループ、毎年開催のフェア、ウイスキーショップなどの企画に愛好家たちは満足しているようだ。このクラブのメンバーは世界中のウイスキーをテイスティングしているが、メンバーのほとんどがスコッチのシングルモルトを「ウイスキー界の不動の王」と見なしている。

ウイスキー・アマチュアクラス・フランクフルトに見られるスコッチ至上主義は、多くのウイスキー消費者がジャーマンウイスキーの優位点にまだ納得できていない現状を表している。タカーチ自身も、これまでに試した12種類のジャーマンウイスキーについて「心から感動したり納得したりしたことはなかった」と告白する。

それでもジャーマンウイスキーの品質は着実に向上しており、ジャーマンウイスキーへの敬意も高まっている。タカーチは「ドイツの蒸溜所にはユニークな存在意義がある」という信念も持っており、これはジャーマンウイスキーに対する慎重な楽観論が徐々に広がっている現状の反映でもあるだろう。

ドイツの蒸溜所が、優れたウイスキーをつくれるのか。そのような専門的な技量の問題は、もはや全体としてなくなってきたと見てもいいだろう。ジャーマンウイスキーのメーカーは、スコットランドなどの他地域で生産されるどんなウイスキーにも対抗できる知識と設備を持っている。シュリアスのようなドイツでも古株に入るウイスキー蒸溜所は、今や12年熟成を謳ったウイスキーをリリースできるまでになった。

熟成年数も品質も、新たな基準に到達してきたジャーマンウイスキー。それでも世界の市場で戦うには、依然としてニッチなニーズへの適応を期待される。その多様な内実は、いまだに変化と成長を重ねている最中だ。

さらに言えば、ドイツには熱心なウイスキーファンが確固たる市場を作っているのにもかかわらず、コロナ禍の影響から完全には立ち上がっていない。評論家のタッケは「コロナ禍の前には、ドイツのウイスキー市場がもっと活況な時期もありました」と指摘する。

ジャーマンウイスキーが地位を確立するには、もっと多くのウイスキー愛好家たちを納得させる必要がある。多彩な生産者たちが連帯して、未体験の人々にその品質を実感してもらう努力も期待したい。