古くよりウイスキーの名産地でありながら、一時は蒸溜所の閉鎖も相次いだスコットランドのローランド地方。力強く復活している現状を地域ごとに報告する4回シリーズ。

文:パトリック・コンネッリ

 

かつては名だたるウイスキーメーカーを輩出し、ヘイグ家やスティーン家といった名門も生み出してきたスコットランドのローランド地方。だが過去100年を振り返ると、ウイスキー業界と同様に盛衰を繰り返してきた地域でもある。そんなローランドが、ここに来て再び勢いを取り戻している。

ローランド地方とハイランド地方の地理的な区別は、1784 年制定の通称「ウォッシュ法」で定められた「ハイランドライン」によって生まれた。ハイランドラインは西海岸のクライド湾(グリーノック)に始まり、東海岸ではテイ川の河口(ダンディー)に至る1本の線だ。この線の下にある地域で生産されるウイスキーが、ローランドウイスキーと呼ばれる。

スコッチウイスキー協会によると、ローランドのウイスキーは伝統的に「ソフト」「スムーズ」「軽やか」といった言葉で表現される。しかしこのような地域的な特徴が、現代においてもまだ一般的に通用するかどうかは議論の余地があるだろう。

1840年に創業して、ローランドの王者と呼ばれたローズバンク蒸溜所。だが1993年から建物は放棄され、2008年には窃盗団に設備を持ち去られた。再興の望みは潰えたかと思われたが、2017年に再興計画がスタート。今やローランド復活の象徴的存在だ。メイン写真はウィリアム・グラント&サンズがエアシャーに創設したアイルサベイ蒸溜所のチーム。

西のリトルミルやレディバーンから、東のセントマグダレンやローズバンクまで、かつてのローランドには有力な蒸溜所が点在していた。だが1980年代から90年代初頭にかけて閉鎖ラッシュに見舞われ、多くの生産拠点が休業や廃業に追い込まれた。この苦難の時期を乗り越えたのは、数えるほどのシングルモルト蒸溜所のみ。誇り高きローランドの歴史は、風前の灯となるまでに追い詰められた。

その後の数十年にわたり、スコットランドを訪れてローランドスタイルのモルトウイスキーを味わいたいと思った人は、オーヘントッシャン(グラスゴー近郊)、グレンキンチー(エディンバラ近郊)、そして90年代と2015年に休業を経験したブラッドノック(ダンフリーズ&ガロウェイの南)のいずれかを目指すしかなかった。

しかし近年になって、シングルモルトウイスキーへの関心が世界中で高まった。シングルモルトウイスキーの輸出量は、2012年から2021年にかけて96%も増加している(スコッチウイスキー協会の資料より)。この変化によって、ローランド地方では新しい生産者や関連企業が勃興しただけでなく、すでに閉鎖されていた有名蒸溜所までが復活するようになった。フォルカークにあるローズバンク蒸溜所は、新しい所有者のもとで奇跡的な復活がなされた「幽霊蒸溜所」の最新事例である。

90年代前半にはわずか2軒を残すのみとなったローランド地方のシングルモルト蒸溜所も、現在はすでに20軒に迫る勢いだ。今でも多くの蒸溜所が建設中であり、今後数年のうちにスピリッツの生産を開始する新しいメーカーも増えるだろう。ローランド地方のウイスキー産業には、明るい未来が待っている。
 

エアシャー(Ayrshire)

 
ウィリアム・グラント&サンズは、2019年にエアシャーでレディバーン蒸溜所の後継に相応しい蒸溜所を創設した。グレーンウイスキーの生産拠点であるガーヴァン蒸溜所の敷地内に、年間生産量1200万リットル(純アルコール換算)という大規模なモルトウイスキーの生産拠点を建設したのだ。これがアイルサベイ蒸溜所である。

蒸溜所の新設プロジェクトを率いたのは、ディレクターのピーター・ゴードンとマスターブレンダーのブライアン・キンズマン。この地でピートの効いたローランド産のスピリッツを3種類も製造していることは注目に値するだろう(蒸溜所で製造しているスピリッツは全部で5種類)。

ウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマンはアイルサベイ蒸溜所の創設を担った一人。先端技術も駆使しながら、幅広いスタイルのモルト原酒を製造する。

さらにアイルサベイで興味を惹くのは、「マイクロ・マチュレーション」と呼ばれる高速熟成のプロセスだ。これはニューメイクスピリッツをハドソンベイビーバーボンの熟成に使用した小型樽(通常は容量25〜100リットル)で6〜9ヶ月間貯蔵するもの。蒸溜所のチームは、樽材とスピリッツの接触を最大化することで濃厚な短期熟成が可能になったと説明している。

アイルサベイのウイスキーは、ローランド地方では数少ないピーテッドモルトとなる。原料だけでなく、最終的なウイスキー自体でフェノール値のレベルを調整する点もスコットランド唯一という点が注目されている。

エアシャーの反対側では、スコットランドの国民的な吟遊詩人として知られるロバート・バーンズ(1759〜1796年)の旧農場跡地に蒸溜所が新設された。「ラビー」の愛称でも知られるロバート・バーンズは、ウイスキーにまつわる詩をたくさん創作した国民的詩人だが、徴税官としても働いたユニークな人物である(日本では『蛍の光』の原曲の作詞者として有名)。

バーンズゆかりのロッホレア蒸溜所は、2014年に設立された。年間生産量は20万リットル(純アルコール換算)である。蒸溜所を運営するのは、ラフロイグ蒸溜所長を務めたジョン・キャンベルだ。自前の大麦原料を使用し、農事暦にまつわるテーマで季節ごとの商品を発売している。
(つづく)