冬に訪れたいモルトバー【2】「THE MASH TUN」

January 14, 2013

吐く息が白い季節には、ウイスキーの温かさが恋しくなる。バーの扉を開け、バックバーを眺めて、さて今日はどのウイスキーにすべきか、としばし迷うのも楽しい。しかし時にはそんな悩みは、知識豊富なバーテンダーに任せてしまおう。新しい発見と至福の時間が訪れるモルトバーへ、酔っぱライター 江口まゆみが訪れる―今回は目黒の「THE MASH TUN」へ。

THE MASH TUNは、目黒の駅から歩いて数分だが、看板も出ていないので、初めての人には少々わかりにくいかもしれない。こういうのを隠れ家バーというのだろう。

バーテンダーの鈴木徹さんが、このお店を始めて8年になる。カウンター越しに見える棚には、300種類以上のモルトがずらり。「お店のおすすめを」と頼んだら、「初めてのお客さんは、レベルや好みがわかるまでお話してからおすすめしています」と、けして押しつけないところが好ましい。

私がスモーキー&ソルティーが好きとわかると、ボウモア10年を山崎プレミアムソーダで割って出してくれた。味が濃く、度数も高い(55.1度)ボウモアを、強めの炭酸で割ることで、よりスモーキーさが引き立ち、ぐっと旨くなった。「でも値段は高くないんですよね」と鈴木さん。こちらの懐具合もさりげなく思いやってくれる。
「この流れでよりスモーキーな感じで行くなら、ラフロイグの10年はいかがですか? うちで年間一番人気なのがこのラフロイグなんです」

今度はオンザロックだ。ラフロイグは私が最も好きなモルトのひとつ。このヨードチンキのような香りがたまらない。もちろんぐっとくるスモーキーさも素晴らしい。
「初めてモルトを飲むという人におすすめするのが、やわらかめのグレーンモーレンジ10年か、このクセの強いラフロイグです。すっと入る飲みやすいモルトもいいけれど、あれ?こんな味もあるんだ!という驚きがあったほうが、初めての人には意外とウケるんです」
ラフロイグは氷が溶けるにしたがって、スモーキーさが和らぎ、甘くなっていく。ラフロイグにはクオーターカスクもあり、こちらはもっと若くてスモーキーさも強いという。どちらを飲むかはお好み次第だ。

鈴木さんは、アイラ島にこそ行っていないが、スコットランドには何度も訪れ、主にダンカンテイラーなどのボトラーめぐりをしているらしい。グラスゴーのダグラスレインでは、30種類の原酒をテイスティングし、樽を2つキープ。今お店のプライベートボトルを制作中だという。

ビールも「ウイスキーのチェイサーとして旨いビール」をコンセプトに、北海道のビール工場でレシピづくりから自分で行い、オリジナルビールをつくっている。
「クラフトビールの樽を置き始めたのが4年前。そうしたら、クラフトビールブームが来た。音楽も、インディーズのケルト系バンドを、流行る前に発掘したり。とにかく、ちょっとマイナーなものが好きなんですよ」

最後に出されたのがリトルミルの22年。ローランドの閉鎖蒸留所のレアモルトだ。ストレートで舐めるように飲むと、トロピカルフルーツのような華やかな香りがあり、スパイシーさの中に甘みがある。これはおいしい!
「僕の信念は決めつけないこと。ものごとは、自分の見える範囲の外にも真実がある。だからウイスキーも、変なこだわりで飲み方を決めつけない方がいいと思います」
この意見には激しく同意! お酒は嗜好品なんだから、なんでもあり。決めつけたら楽しくない。隠れ家バーの店主なので、クセのある人かなと思ったけれど、思いの外話が弾んで楽しかった。また酒談義をしに来よう。そのときは、オリジナルビールをチェイサーに、プライベートボトルのモルトを飲んでみたいものである。

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