敬意と絆のアジア市場【後半/全2回】
文:マリー=イヴ・ヴェンヌ
日本におけるウイスキー文化は、精密さと革新性の融合を反映している。儀式のように手間を掛けて用意されるハイボールはその象徴だが、アジアで最も活気のあるウイスキー市場のひとつは依然として日本である。国内のウイスキー販売量は2015年から2020年の間に約50%増加し、2023年の消費支出は約35億米ドル(約5,400億円)に達した。日本におけるウイスキー消費は、居酒屋文化にも深く根付いている。料理と共に味わわれることで、その香味の調和とバランスが強調されるのだ。
アジアのウイスキー市場を語る上で、無視できないのが独特の贈り物文化だ。限定版や美しいパッケージのウイスキーは特に人気で、コレクターズアイテムのように希少な商品は祭事や儀式での交換に登場する。珍しいブレンデッドウイスキーやシングルモルトウイスキーは、繁栄や幸運の象徴となって永続的な人間関係の約束を象徴してくれることもある。カバランのブランドアンバサダーを務めるケイトリン・サイは、次のように説明する。
「文化によって、カバランの魅力の捉え方も異なってきます。アジアで特に人気なのは『ソリスト』のシェリー樽熟成です。贈り物やコレクションとして購入される方が多く、濃厚で甘い香りや深い琥珀色が好まれるからです。その一方で、若い層や新興国の市場では、より滑らかで汎用性の高い『ディスティラリーセレクト』や『コンサートマスター』などのシリーズが強く支持されています。どちらもカクテルのベースになったり、料理とのペアリングにも適してます」
アムルット蒸溜所を経営するラキシット・ジャグデールも、国境を越えたブランドの影響力を実感しているのだという。
「当社の『アムルット フュージョン シングルモルトウイスキー』や『アムルット ツーコンティネンツ』やアムルット スペクトラム』などのラインナップは、さざままな文化的背景の消費者層に受け入れられています。人々は製品そのものだけでなく、その背景にある感情、伝統、物語にも共感しているようです。そのようなブランドのストーリーは、文化の境界を超えて普遍的な魅力を生み出すこともあります」
ウイスキーは各国の伝統にどうやって適合し、現代の消費者に訴求することができるのか。そんなテーマに、ますます多くのウイスキーメーカーが注意を払うようになってきた。地元のアーティストや書道家と協力して、伝統文化に通じる洗練を表現したボトルデザインが生まれる。また春節やディーワーリーなどの重要な年間行事にあわせ、特定のボトルの発売時期を調整するメーカーも出てくる。
カバランは、まさにこのバランスを体現しているのだとケイトリン・サイは語る。
「カバランは、台湾に深く根ざしています。その亜熱帯気候が、品質に重要な役割を果たしるのです。暑い夏は樽材から香味が抽出されて蒸発も活発になり、涼しく湿った冬には酸化とエステル化が促されます。風土が由来の作用が相まって、パイナップル、マンゴー、ライチなどを思い起こさせる独特なトロピカルフルーツ風味が生まれます。でも環境だけがすべてではありません。台湾の職人技とホスピタリティも、豊かなアロマをDNAとする味わい深いウイスキーの創造に寄与しています」
インドのアムルットも、カバランと同様のバランスを保っているようだ。ラキシット・ジャグデールが説明する。
「ウイスキー文化が根付いた市場では、正統性や高級化に焦点が当たってきます。経験豊かな消費者に響くような職人技、熟成年数の表示、繊細な味わいなどの体験を強調する必要があるのです。その一方で、ウイスキーを受け入れ始めたばかりの新興市場では、より教育に重きをおいた体験的なアプローチを取っています。親しみやすい表現、現代的な楽しみ方、消費者参加型の企画などを通じてウイスキーを紹介しています」
このように二面的なアプローチが、伝統への敬意と新たな顧客層への訴求を両立させているのだろう。
伝統に根ざしながら新しい流行に適合
国際的な舞台で品質を認知されることは、カバランとアムルットのアイデンティティにおいて重要な要素になっている。ケイトリン・サイは、カバランの国際的な受賞歴を重視している。その一方で、ラキシット・ジャグデールは、ウイスキー市場全体のグローバル化に注目しているのだと語る。
「ウイスキーは単なる飲み物から、社会的つながりや祝祭の象徴へと進化しつつあります。世界的に見ても、ウイスキーは職人技と共有体験の象徴であり続けるでしょう。アジアの社会的な儀式におけるウイスキーの役割は、カジュアルな消費から、特別な意味のある瞬間の創出へと変化している最中です」
これらの物語の核心にあるのは、ウイスキーが国境を越えて人々をつなぐパワーなのだとケイトリン・サイは語る。
「アジア全域で、ウイスキーは人生の重要な場面に欠かせない存在となりました。職場の宴会、結婚式、春節のお祝い、節目の行事などにおいて、ウイスキーは今や敬意と寛大さの象徴になっているのです」
ラキシット・ジャグデールも、アジア的なウイスキーの象徴性がさらに広がってきたことを実感している。
「卓越した品質、長い伝統、洗練された香味などの価値が、ウイスキーを特別な存在に押し上げています。アジアのみならず、世界中で重要な瞬間にふさわしいドリンクとしての地位を固めてきました」
アジアにおけるウイスキーの物語は、もはや西洋から輸入された商品という枠組みを超えてしまった。それは各国の文化に根深く適応し、ただのお酒ではない特別な地位を確立したのである。それは伝統と現代をつなぎ、世代や東西のギャップを埋める架け橋でもある。ケイトリン・サイは、次のように締めくくった。
「どんな国の市場でも、人々は職人技、本物さ、テロワール、物語性を重視しれくれます。ウイスキーの味を知りたいだけではなく、つくられた場所、製造者、そこで体現される価値観を理解したいのです」
ラキシット・ジャグデールも、同じ見解を示してくれた。
「伝統を尊重しながら未来に向けて革新を続けることで、これからもウイスキーは世界中の意義ある瞬間に寄り添うことでしょう。そのための努力がますます必要です」
ウイスキーというドリンクは、アジアをはじめ世界中で新たな意味を獲得している。敬意、絆、祝祭の象徴として、今後もその役割をさらに深めていくに違いない。







