アジアは世界的なウイスキーの消費地だ。カナダ人ライターが、西洋とは異なる消費スタイルについて分析する2回シリーズ。

文:マリー=イヴ・ヴェンヌ

アジア全域で、ウイスキーは生活文化の一部に組み込まれている。外国産のウイスキーは、もはや単なる贅沢な輸入品ではない。現代の憧れと各国に根付いた伝統が融合し、それぞれの地域で文化的象徴の機能を果たしている。東京、台北、ソウル、ムンバイなどを旅すれば、そんな現場に出会うことだろう。ウイスキーが楽しまれるのは、祝いの場だけではない。他者に敬意を表し、絆を深めるコミュニケーションの象徴としてグラスに注がれることが多いのだ。

多くのアジア社会において、ウイスキーを贈る行為は特別なおもてなしだ。高級なスコッチウイスキーや日本のシングルモルトはもとより、近年では台湾やインドのウイスキーのボトルが贈答品の定番になっている。高級なウイスキーはビジネス界における伝統的な贈り物であり、洗練された敬意と気前の良さを示すアイテムだ。

西洋から見た日本のウイスキー消費は、茶道のような洗練に満ちている。同じメーカーがモルト原酒とグレーン原酒の両方をつくるのも、世界的には珍しい業界構造だ。

中国や韓国では、結婚式や旧正月の集いにウイスキーが欠かせない。またキャリアの節目にウイスキーを贈る習慣も広まりつつある。これまで中国の宴会席では、伝統的な高級スピリッツである白酒が主流だった。だがわかりやすい高級品のシンボルであるウイスキーは、階層や礼儀作法が席次を決める企業接待や公式行事でも頻繁に選ばれるようになってきた。特に年長者や目上の人へウイスキーを注ぐ慎重な動作は、何世紀も続く慣習を受け継ぎながら現代の国際的な消費スタイルにも融合させた敬意の象徴になる。

日本の茶道や中国の白酒の乾杯と同様に、ウイスキーの注ぎ方そのものがパフォーマンスとなる場面はアジアで多く見られる。日本では、1杯のハイボールを用意するのに精密で意図的なプロセスが求められる。手作業で削られた球状の氷に、ゆっくりと注意深く注がれるソーダ。最初の一口を味わう前に、静かな鑑賞の瞬間があるのだ。この細やかさは、茶道に見られる文化的細部への愛着を反映したものであろう。ウイスキーは飲料であると同時に、儀式の道具でもあるという二重の役割を強調しているのだ。

ウイスキー評論家のニール・リドリーは、この日本的な精密さがウイスキーの製造工程にも反映されていると指摘する。

「日本では、ブレンデッドウイスキーに対する考え方がまったく異なっています。大手蒸溜所の蒸溜室には、あらゆる形状の蒸溜器を備えてられています。より幅広いスタイルのスピリッツを生産し、ブレンドすることで理想の香味を実現しているのです」

グレーン原酒を自社で製造する日本ならではの伝統が、社内で多様なスピリッツを用意する企業努力を育ててきた。これが世界では日本的な革新性として評価され、グラスに注がれるまで全製造工程で制御と洗練を重んじる文化を強化しつづけているのだ。

儒教的な価値観が根強い韓国では、お酒は自分で注がずに他人に注いでもらうという慣習がある。だが今日では、韓国の若年層もハイボールの流行を取り入れはじめている。ハイボールは韓国風の焼き肉や居酒屋風のおつまみと共に楽しむことが多く、現代的な味覚と伝統的な飲食習慣を融合させている。

韓国では、ウイスキーがドリンクのみで消費されることは稀である。あくまで集団体験の一部として楽しまれることが多いのだ。このような飲酒の儀式は人々の絆を強め、祝宴の雰囲気を醸し出し、今日ここに集まった意義を強調してくれる。

人と人を結ぶためのウイスキー消費

大国インドでも、ウイスキーは文化生活に深く根ざしている鮮やかな例だ。アムルット蒸溜所を経営するラキシット・ジャグデールは、アジアにおける消費スタイルの違いを次のように説明する。

「アジアでは、ウイスキーが人々の敬意と繋がりを育んでいます。その役割は各国に共通するものですが、その表現は国ごとに異なってきます。インドは大規模な祝宴が好まれますが、日本や韓国では儀式、礼儀、料理との組み合わせが重視されています。高級ウイスキーの贈呈が、特に祭事や結婚式、ビジネス交流において敬意と感謝を表すのも日韓の特徴だと思っています」

人口で世界一になったインドは、スコッチウイスキーの消費量でも世界一。だがそのスコッチの消費量を、アムルットなどの国産ウイスキーの消費量が追い抜いている。

ジャグデールいわく、インドではウイスキーが単なる消費から意識的な楽しみへと移行しつつある。そのため厳選された銘柄のテイスティング、フードペアリング、少人数でのセッションといった儀式が人気を集めているようだ。

統計として重要な事実は、インドが2022年にスコッチウイスキーの輸入量で世界一となったことだ。その後2023年にフランスに抜かれたものの、2024年には1億9200万本という輸入量で首位を奪還した。また国内市場では、2023年にインド産シングルモルトが輸入スコッチシングルモルトの販売量を追い抜いた。その牽引役となったブランドは、アムルットとポールジョンである。

台湾に来ると、このように進化するアジアの伝統も別の角度から捉えられる。カバランのブランドアンバサダーを務めるケイトリン・サイは、次のように説明する。

「台湾ではウイスキーが日常の社交文化の一部になっています。宴会や家族の集まりで楽しまれ、大切な人への贈り物としても購入されます。ビジネスのシーンでは成功の象徴でもあり、乾杯の文化は重要な儀式となっています」

さらに興味深いのは、コロナ禍を契機として始まった「宅飲み」だ。若い世代が自宅でウイスキーを積極的にアレンジするようになり、ミニチュアボトルのウイスキーをソーダ水やコンビニのソフトドリンクで割って楽しみはじめたのである。

このような自宅でのバーテンディングにあらわれた創造性は、台湾が世界有数のウイスキー市場として評価を高めている現状にも寄り添っている。台湾における2019年のウイスキーの売上は、小売ベースで約550億台湾ドル(約2800億円)に達し、2024年にはスコッチウイスキーの輸入額で世界第4位の地位を獲得している。

また台湾を代表するシングルモルトウイスキー「カバラン」の躍進も目覚ましい。「カバラン ソリスト ヴィーニョ バリック」は、2015年のワールドウイスキーアワード(WWA)でワールドベストシングルモルトに選ばれた。その世界的評価は、今や確固たるものとなっている。
(つづく)