グレンカダムの新しいビジターセンター【後半/全2回】

3月 16, 2026

ハイランドの歴史を陰で支えてきたグレンカダム。完成したビジターセンターには、スコッチの明るい未来が見える。

文:ガヴィン・スミス

かくしてグレンカダム蒸溜所の旧事務所棟は取り壊され、代わりに新しいビジターセンターが建設された。もともとあった石造りのファサードは残しつつ、その背後に真新しい施設が造られた。ビジター体験を開発したブランドホームマネージャーのマイケル・ファン・デル・フェーンが、この創業200周年プロジェクトについて説明する。

「この周辺は、特にウイスキーの一大産地というわけでもありません。でも由緒ある蒸溜所に新しいビジターセンターができれば、ウイスキーファンを引き寄せる拠点になれるのではないかと考えました」

施設は建設したので、あとはゲストを迎え入れるだけ。これまで蒸溜所を見学したかった人へのアピールにもなるし、ダンディーとアバディーンを結ぶA90道路から車でわずか数分という理想的な立地になるのだとファン・デル・フェーンは言う。

アンガス・ダンディー・ディスティラーズのマイケル・ファン・デル・フェーン(右)とローレン・オリバー(左)。バルク原酒とシングルモルトを両輪にしたグレンカダムの歴史に誇りを持っている。

「この新しいビジターセンターでウイスキーファンの関心を集め、これから5年間でグレンカダムの売上を増やし、ブランド認知を向上させようと目標を立てています」

新しいビジターセンターの建築は、設計、素材、仕上げともに一切の妥協がない。伝統と現代的な感覚が見事に融合したデザインだ。最初は2種類のツアーを用意し、ベーシックなコースは約90分間の内容だ。

加えて2026年にはビジター体験を追加した上級コースもいくつか導入する予定で、そのひとつはウイスキーのブレンディングに特化したコースとなる。モルトウイスキーのブレンディングは、アンガス・ダンディー・ディスティラーズの事業において極めて重要な要素である。

家族経営のアンガス・ダンディー・ディスティラーズは、1950年にアーロン・ヒルマンによって設立された。もともとはバルクウイスキーの輸出と国際的なプライベートブランド事業に注力してきた会社である。スペイサイドのトミントゥール蒸溜所と東ハイランドのグレンカダム蒸溜所を所有し、現在中国浙江省に自社のモルトウイスキー蒸溜所とビジターセンターを建設中だ。

マイケル・ファン・デル・フェーンは説明する。

「グレンカダムでは世界中のウイスキーのレシピに対応すべく、グレーンやモルトの原料を調達して原酒を蒸溜しています。トミントゥールにも同様の設備があります。自社製品の大半のボトリングは、グラスゴー近郊のコートブリッジにあるボトリング工場でおこなわれます。ブレンデッド用のバルクスピリッツは、顧客企業に直接出荷されます」

現在は、多くの蒸溜所が生産量を減らすような不確実な時代に差し掛かっている。そんななかでも、グレンカダム蒸溜所が年間130万リットルのフル稼働を維持している事実は心強い。ここでは1日3交替制のシフトで、週7日休みなしの操業を続けている。週ごとのマッシングは計16回というペースだ。

ケルトの歴史からボブ・ディランの別荘まで

蒸溜所の新しいビジターセンター内では、受付とショップの2箇所に「セルフボトリング」のサービスが設けられている。さまざまな種類のモルト原酒が、カスクストレングスでボトリングできるのだとマイケル・ファン・デル・フェーンは説明する。

「できたばかりの真新しいビジターセンターですが、グレンカダムとトミントゥールの多彩な原酒を取り揃えています。なかには40~50年熟成のウイスキーまでありますよ」

見学ツアーは導入ビデオの鑑賞から始まり、昔ながらの蒸溜師と画面上で対話する形式のプレゼンテーションが用意されている。さらにはここブレキンと周辺地域の紹介があって、ケルト系ピクト人が住んでいた太古からの歴史を振り返る。グレンカダム蒸溜所の出自が、古代から現代に至る絵巻物のように理解できる展示内容だ。

そしてツアーは、生産エリアの見学に移行する。蒸溜所のスペースは改装され、一般公開に適した階段が新たに設置された。蒸溜所には容量5トンのステンレス製マッシュタンと6基の木製ウォッシュバックが設置されている。このウオッシュバックは、既存のステンレス製ウォッシュバックに代わって導入されたものだ。蒸溜所の歴史も感じさせ、木製だから見栄えもいい。

文化史からウイスキーづくりまでを学び、ボブ・ディランが所有した邸宅にも滞在できる。そんなビジター体験が、グレンカダム蒸溜所の新しい魅力だ。

蒸溜器2基はすぐそばに並んで配置され、上向きのラインアームを備えている。これが還流を増大させ、ニューメイクスピリッツのフローラルな香りやペアドロップキャンディのような風味に大きく寄与している。蒸溜器の横には、かつて蒸溜所全体を動かしていた水車の実物大模型が照明付きで展示されている。

ツアー参加者は、貯蔵庫も見学する。オリジナルのダンネージ式貯蔵庫(1825年建設)と、近代的なラック式貯蔵庫がある。その後、豪華ながら落ち着いた雰囲気のウイスキーラウンジで、さまざまなグレンカダムのウイスキーを試飲する流れになっている。

試飲に使用されるラウンジは、一般客にもときどき開放されている。ビジターセンター1階のカフェは、蒸溜所ツアーに参加しないビジターも常時利用可能だ。グレンカダムのチーム一同は、ここが地域住民の憩いの場となることを期待している。カフェには屋外席があり、13世紀に建設された大聖堂や地元のサッカークラブ「ブレキン・シティ」のホームグラウンドを見晴らすパノラマ展望が魅力だ。

グレンカダムのビジター用施設は、海外からの顧客を迎え入れる豪華なVIPエリアで完結する。賓客たちは敷地内の邸宅に宿泊したり、スペイサイドのネシーブリッジにあるアンガス・ダンディー・ディスティラーズの「トミントゥール・ハウス」に宿泊したりできる。

この「トミントゥール・ハウス」は、グレンカダムの兄弟分であるトミントゥール蒸溜所から数マイル離れた場所にある邸宅で、かつてボブ・ディランが所有していた物件というから驚きである。

かつてディランが歌ったように、ウイスキーの未来もまた風に吹かれている。時代は再び変わるのだ。そんな今こそ、グレンカダム蒸溜所を訪れる価値は十分にあるだろう。

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