ウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」2026年度表彰者発表

ウイスキーマガジンアワードの一環として2004年にスタートし、今回で23回目を迎える「ホール・オブ・フェイム」。このたび4人の功労者が新たに殿堂入りを果たした。その素晴らしい功績をプロフィールとともにご紹介。
デービッド・クイン
(アイリッシュ・ディスティラーズ)

1983年にアイリッシュ・ディスティラーズに入社。ミドルトン蒸溜所常駐の化学研究者として数年間を過ごし、その後ヘリオットワット大学で醸造を学んだ。1987年に醸造技術の修士号(MSc)を取得してミドルトンに戻り、製造工程マネージャーに就任。研究者から製造現場へと活動の場を移した。
1996年にはブッシュミルズ蒸溜所に移籍して、マスターディスティラーに就任。醸造、発酵、蒸溜、貯蔵、ブレンディング、品質管理などの多様な役割を担い、新しいウイスキーの開発から供給計画までを管轄した。
ブッシュミルズでの濃密な6年間を経て、2002年にはミドルトン蒸溜所に復帰。アイリッシュ・ディスティラーズ・グループの技術部長に就任し、現在までウイスキー製造のあらゆる技術的側面を統括している。
過去20年間にわたって科学への情熱を絶やさず、スピリッツ蒸溜業界での人材教育や実地研修でも重要な役割を果たしてきた。その一例が、チャータード・インスティテュート・オブ・ブリュワーズ・アンド・ディスティラーズ(CIBD)における人材育成プログラムへの支援である。
「アイリッシュウイスキー技術仕様書」の策定にも関わり、アイリッシュウイスキーの地理的表示(GI)における条件設定でも重要な役割を果たす。さらには2012年のアイリッシュウイスキー協会(IWA)設立にも関与した。
現在もアイリッシュ・ディスティラーズを代表してIWAの技術委員会に参画し、その技術的な知見とウイスキーの幅広い知識をいかんなく発揮している。
ジェローム・コタン=ビゾンヌ
(ペルノ・リカール中国)

ワイン&スピリッツ業界で27年にわたって活躍し、4大陸にまたがる功績を残してきた。現在はペルノ・リカール中国のCEOを務め、戦略的な洞察力と地域文化への深い理解によって豊かなストーリーを紡いでいる。象徴的なブランドを立ち上げ、新たなフロンティアを切り拓くことで、ウイスキー業界においても強力なリーダーシップを発揮してきた。
その輝かしいキャリアは、1998年にフランスのペルノ・リカールで始まった。2003年までに韓国の財務責任者として変革的な取引を主導し、ウイスキー市場が絶頂期にあった時期に真露とバランタインの合併を実現。2008年から本社に戻り、V&Sグループの買収資金を調達するために10億ユーロ規模の資産売却(ワイルドターキーやティア・マリアなど)も主導している。このような実績は、東洋と西洋をつなぐディールメーカーとしての高い能力を証明するものだ。
その後もハバナ・クラブ・インターナショナルのCEO(2011年)、ペルノ・リカール北ラテンアメリカ地区社長(2017年)を歴任しながら、伝統あるブランドの刷新に尽力した。ハバナクラブのプレミアム化を推進し、シーバスリーガルを再生させ、メスカルの新ブランドやメキシコ産ウイスキーブランドもポートフォリオに収めている。
2021年にはペルノ・リカール中国の社長に就任し、2023年からはCEOを務める。グループが総力を挙げて、初めてのプレミアム中国ウイスキーブランド「ザ・チュアン」(叠川蒸溜所)の開発に尽力した。この10年がかりのプロジェクトを実現させ、なおも継続的な革新と発展を主導している。
2026年には、中国産オークのスモーク樽で追熟した「ザ・チュアン ピュアモルトウイスキー」の発売で、チャイニーズウイスキーの概念を拡大。卓越したリーダーシップでペルノ・リカールのポートフォリオを拡大し、世界のウイスキー文化における中国の潜在力を引き出している。
佐久間 正
(ニッカウヰスキー)

北海道大学農学部で農芸化学を学び、1982年にニッカウヰスキー入社。ニッカ誕生の地である北海道の余市蒸溜所で、ウイスキー製造の世界に足を踏み入れた。
1987年には東京の本社で、ニッカのすべての蒸溜所と工場の生産を統括する生産部に配属。原料調達の分野で9年間にわたって活躍し、ウイスキー市場におけるニッカウヰスキーの変革に貢献した。
1995年にはロンドンの欧州事務所長として渡英。約5年8ヶ月にわたってヨーロッパ各地の業務を担い、サプライヤー各社とのさまざまな取引に携わった。またハイランドのベン・ネヴィス蒸溜所の運営も監督し、国際的なウイスキー業界内でネットワークも拡大している。
その後2001年に日本へ帰国すると、再び本社の調達部門に配属。原料サプライヤーおよび蒸溜所でのスピリッツ製造に関する知識をいかんなく活かし、ニッカウヰスキーのサプライチェーンを包括的に監督した。
2010年から栃木工場の工場長を務め、2012年4月にはブレンダー室長兼チーフブレンダーに任命。創業者の竹鶴政孝から受け継がれたニッカのブレンディング技術の継承者となった。2022年3月までの任期を通して、さまざまな資産を駆使しながら独自の香味表現を生み出し続けた。急激な人気上昇による原酒不足という厳しい状況にあっても、ブランドを支え続けた功績は極めて大きい。
その誠実で気取らない人柄は、世界のウイスキー愛好家や業界関係者にもおなじみだ。
セルジュ・ヴァランタン
(Whiskyfun.com)

アルザス出身のセルジュ・ヴァランタンは、近年のウイスキー業界に欠かせない存在として注目されてきた。独学によって情熱的なウイスキー愛好家となり、2002年にブログ「Whiskyfun.com」を立ち上げ。瞬く間にウイスキー愛好家と専門家の注目を集め、世界の多くの人々が情報源として活用した。
その一方で過度な専門化や収益化からは距離を置き、あくまで「見識ある愛好家」であるという立場を貫いている。広告収入やブランドとのタイアップで発言を縛られないように、世界のフォロワーたちと妥協なく情熱を分かち合うアプローチを採用した。独自の価値観に忠実で、初心を忘れない姿勢が称賛されている。
主宰するWhiskyfun.comには、すでに28,000件以上のテイスティングデータが掲載されている。ウイスキーのテイスティングノートにおいて、世界で最も頻繁に参照されるウェブサイトのひとつだ。ユニークな口調やユーモアを交えながら、簡潔でわかりやすいテイスティングノートを定期的に公開している。その影響力は絶大であり、セルジュの評価によってウイスキー自体の評判が決まってしまうことも珍しくない。ウェブサイトでのウイスキー評価は、世界中のコレクターや専門家から注目されている。
そのシンプルな哲学は、ウィスキーを気取らずに心から楽しむこと。ウイスキーへの評価は純粋な愛情から生まれるべきもので、Whiskyfunを商業的な事業に変えるつもりはない。このような姿勢が、ウェブサイトの独立性と信憑性を守ってきた。ミニマルで飾り気のないデザインも印象的で、テイスティングの体験を共有するという本質に忠実であり続けている。
20年以上の歴史を持つWhiskyfun.comは、いまや単なるブログを超えた存在だ。ウイスキーファンに、偽りのない情報を共有する重要な機関のひとつである。
2004年に創設されたウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」の全表彰者はこちらから。




