東京インターナショナル バーショーに、デイヴ・ブルームが2年ぶりの登壇。アイリッシュウイスキーの歴史を追いながら、多様性を賛美すべき理由を訴えた。

文:WMJ

ドリンクを愛する人々にとって、「東京 インターナショナル バーショー」は年間でもっとも楽しみなビッグイベントのひとつ。今年は、ウイスキー評論家のデイヴ・ブルームが2年ぶりに来日してメインステージに登壇した。

変わり続ける世界のウイスキー業界で、デイヴが現在もっとも注目しているのはアイリッシュウイスキーなのだという。その理由は、歴史的な衰退からの見事な復活劇だ。

一説によると、アイリッシュウイスキーの歴史はスコッチウイスキーよりも古い。かつては多様な穀物からウイスキーがつくられ、トディなどのカクテルも発達した。変化が起こったのは19世紀だ。ダブリンの蒸溜所で大量生産が始まると、風味の個性よりも品質の一貫性が重視されるようになった。

国際市場に躍り出たアイリッシュウイスキーに、厳しい20世紀がやってくる。アイルランド南部の自治領が1922年に大英帝国から独立すると、その余波で大口の消費地から分断。新天地の米国でも禁酒法が施行され、恐慌、戦争、酒税などの打撃によって、ついに島内の蒸溜所が2軒にまで減ってしまった。

豊富な知見をもとに、ウイスキーの未来像を提示してくれるデイヴ・ブルーム。アイリッシュウイスキーへの固定概念を覆しながら、日本のウイスキー業界にもエールを送った。

ここでデイヴが特に問題視しているのは、アイリッシュウイスキーというカテゴリーの物語を2社だけが独占するようになったことだ。

「以前はピートを使った2回蒸溜のアイリッシュもあったし、ブッシュミルズも70年代まではスモーキーでした。たとえば3回蒸溜、ノンピート、スムーズな飲み口というアイリッシュウイスキーのイメージは、生き残った2社の物語に過ぎなかったんです」

しかしここ10年で、アイルランドでは小規模のウイスキーメーカーが急増した。その結果、再び脚光を浴びているのが、伝統的なシングルポットスチルというカテゴリーだ。それぞれの蒸溜所が工夫をこらしたマッシュビルで、多彩なウイスキーを追求している。

シングルポットスチルウイスキーは、原料に大麦モルトと未精麦の大麦を使用する。だがこの知識も不十分なのだとデイヴは言う。なぜならシングルポットスチルには、大麦だけでなくオーツ麦やライ麦なども使用されてきた歴史があるからだ。

「オーツ麦やライ麦は、シングルポットスチルウイスキーの風味構成において重要な働きをします。嬉しいのは、これまで5%までしか許されなかった大麦以外の穀物が、今後の法改正によって30%まで認められるようになること。同様のスタイルはカナダやアメリカにも広がっており、日本でも嘉之助蒸溜所がシングルポットスチルウイスキーを製造しました」

大企業の寡占から、クラフト群雄割拠の時代へ。アイリッシュウイスキーは、最近のジャパニーズウイスキーにも状況がよく似ている。

「映画、美術、音楽などの世界でも、画一化を拒んだ多様な個性が注目される時代。新しいアイリッシュの挑戦を称えて、いろんなメーカーのウイスキーを楽しみましょう」

国内最大級のドリンクフェスティバル

今年も「東京 インターナショナル バーショー」の会場には、国内外の酒類ブランドが集合した。

出展者ブースでは、それぞれに進化を続けるジャパニーズウイスキーのメーカーがしのぎを削った。御岳蒸留所、嘉之助蒸溜所、三郎丸蒸留所、サントリー、静岡蒸溜所、長濱蒸溜所、ニッカウヰスキー、富士御殿場蒸溜所、本坊酒造、ベンチャーウイスキー、六甲山蒸溜所(50音順)のカウンターには、試飲を求める来場者が行列を作った。定番の輸入ウイスキーブランドも存在感をアピールし、趣向を凝らしたカクテルでウイスキーの楽しみ方を広げてくれた。

バー文化の最先端を実感できた「東京 インターナショナル バーショー 2026」。出展者と観客との一体感が会場を盛り上げた。

おなじみのバーショー記念ボトルは、会場での有料試飲というスタイルで提供された。ベンチャーウイスキーの「イチローズモルト秩父」は、2015年に蒸溜してホワイトオーク新樽で10年間しっかりと熟成させたヘビリーピーテッドのシングルカスクウイスキー。また「メーカーズマークプライベートセレクション」は、日本バーテンダー協会とカクテル文化振興会のためにボトリングされた特別なカスクストレングスのウイスキーだ。これに加えて、2025年記念ボトルの「厚岸」と2023年記念ボトルの「静岡」も提供され、ファンには貴重なテイスティングの機会となった。

メインステージのスペシャルゲストには、デイヴ・ブルームの他にも伝説のミクソロジストとして知られるヨルグ・マイヤーが登場。各社が趣向を凝らしたブランド紹介の時間にも、熱心な観客がステージ前に集まった。才能ある女性バーテンダーたちが「なでしこカップ」で競い合い、フレアバーテンディングの猛者たちが「IBAフレア・ジャパンファイナル」で妙技を披露する。会場の盛り上がりは、例年を上回る印象もあった。

カクテル、ウイスキー、各種スピリッツ、ツール類などが一堂に会し、世界の業界リーダーたちが交流した「東京 インターナショナル バーショー 2026」。今年も62社が東京ドームシティ・プリズムホールに出展し、5月9日(土)と10日(日)の2日間で約13,900名の来場者が思い思いに最新のドリンクを満喫した。