竹鶴ピュアモルトの限定品を深堀り
ニッカの限定品「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」は、ブランド30周年を見据えたシリーズの第1弾。チーフブレンダーと共に、その繊細な香味を探訪した。
文:WMJ
ニッカウヰスキーの「竹鶴ピュアモルト」は、日本を代表するブレンデッドモルトウイスキーだ。ノンエイジ(熟成年数非表示)の現行品は、2023年のワールド・ウイスキー・アワードで世界最高賞を受賞。熟成年数を表記した各商品(2020年3月で終売)を含めると、同アワードでの世界最高賞は通算10回にも及ぶ。
そんな輝かしい歴史にも、振り返ってみれば多くのチャレンジがあった。そもそも「竹鶴ピュアモルト」が誕生した2000年は、ウイスキー人気が低調な時代。ブランド名に亡き竹鶴政孝の名前を冠するアイデアについても、一部の社員から「創業者の名前にまで手を出すのか」「商品名であっても呼び捨てになどできない」といった反発も上がったのだという。
そして余市と宮城峡の原酒は、特性がまったく異なる。竹鶴政孝が、互いに対照的な酒質を求めて設計したのだから当然だ。その異質な香味を足し算して、豊かな味わいができるほどブレンドは単純ではない。両者の特徴を組み合わせながら、なおかつスムーズな飲み心地を実現するのは至難の業だった。
そんなさまざまな覚悟と挑戦心を胸に、「竹鶴ピュアモルト」は荒れ模様のウイスキー市場へと船出する。発売から半年後、ブレンダー室には営業統合したばかりのアサヒビールから初めての出向社員がやってきた。それが現チーフブレンダーの井関潤治氏だ。当時のブレンダー室の様子を、井関氏が振り返る。
「初めての挑戦で、美味しいブレンドが完成したばかり。リーズナブルな価格でお客様の反応もよく、ブレンダー室のモチベーションも高まっていました。低調だったウイスキー人気が、これで盛り返せるのではないかという希望を感じながら、頻繁に処方を手伝ったことを憶えています」
ブランド30周年に向けた新シリーズ
そんな「竹鶴ピュアモルト」も、2030年にはブランド誕生30周年を迎える。そこでニッカウヰスキーは「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズシリーズ」という限定品を2026年から2030年までの5年にわたってリリースしていくのだという。エッセンシャルズという言葉は、「本質」や「不可欠な要素」を意味する。本物のウイスキーを追い求めた竹鶴政孝の精神に立ち返り、ブレンドを通してニッカのDNAを再発見していくのがシリーズの目的になる。
その第1弾が、6月16日に発売される「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」だ。ニッカ創業の地である余市蒸溜所に注目し、特に竹鶴政孝がこだわった石炭直火蒸溜を表現したブレンドなのだという。

白地に「竹鶴」の「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」(写真右)。ラベル下部の色帯は『竹鶴ピュアモルト』のブランドカラー(黒)と『シングルモルト余市』のブランドカラー(濃藍)のグラデーションだ。
余市蒸溜所で約7年半にわたって勤務経験のある井関氏が、今では世界的にも珍しい石炭直火蒸溜について想いを馳せる。
「あの石炭直火蒸溜の作業をしたいから、ニッカに入社したという社員も少なくありません。でも短時間の体験なら楽しい作業ですが、30分も続ければ苦しさに変わってきます。夏場は職服が溶けそうなくらいに暑く、メンバーを交代しながら灼熱地獄で作業します。その苦しさにニッカの味を守る誇りも入り混じり、まさに魂が燃え上がるような作業です」
人力で焚べる石炭が、ストレートヘッド型のポットスチルを直火で熱する。下向きのラインアームを通った蒸気は、力強く重厚な余市らしいモルト原酒を生み出す。ヘビリーピーテッドのスモーキーな原酒も、余市のキャラクターに欠かせない。
だが「竹鶴ピュアモルト」は、「シングルモルト余市」ではない。モルト100%であっても、ブレンデッドウイスキーに負けないくらい優しい飲み心地がブランド創設時からの身上だ。
「滑らかな飲み口にするため、基本的には宮城峡モルトを中心にブレンドを構成します。今回はそこに石炭直火蒸溜ならではの香ばしさが感じられ、モルティで力強いタイプの余市モルトを加えました」
両方の蒸溜所から、「竹鶴ピュアモルト」が発売された2000年蒸溜の原酒もブレンドした。当時のニッカは原酒の生産ペースを落としており、その後のウイスキーブームで大半の原酒を使い果たした。「エッセンシャル」に使用されるのは、いずれにしても極めて希少な長期熟成原酒である。
比較テイスティングでブレンドを分析
井関チーフブレンダーの手引きで、現行品の「竹鶴ピュアモルト」と「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」をテイスティングする。現行品のグラスを持ち上げると、濃厚なリンゴの香りが放たれた。
「リンゴや杏のフルーティーな甘酸っぱさ、トーストを焼いた香ばしい甘さ、バニラの香りなどを探してみてください。味わいのポイントはフィニッシュで、ビターチョコのような甘い余韻が残ります」
ふたつの蒸溜所の個性を集めながら、驚くほど飲み口がやわらかい。複雑だが難解ではなく、うっとりするような成熟と豊かさを感じる。井関氏は、次に「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」を手に取った。
「こちらは印象的なピートの香りが、トップノートから感じていただけるはず。口に含むと、さらに余市らしい風味の厚みがあります。実はピートの香りによって、全体が不思議なくらい甘くなることもあるんです。モルトの甘さをピート香でうまく引き出しました。石炭直火蒸溜の余市モルトが、少しだけ印象深く感じていただけるブレンドです」
井関氏は、処方した余市モルトと同種の原酒(非売品)も用意してくれた。香りも味わいも、余市の個性がぎっしりと詰まっている。強いスモーク香や濃厚なモルトの甘みは、アイラモルトにも比肩するほどパワフルだ。
「口の中に煙が広がるような余市モルトで、『竹鶴ピュアモルト』では感じられなかった個性があります。今回はこの個性をどのようなバランスで統合するのか、その細かな調整に苦労しました」
あらためて「エッセンシャルズ」を味わってみる。熟成感に満ちた穏やかな樽香。モルトの甘さ、ピートのコクが調和した厚みのある味わい。そして甘くほろ苦い余韻。「竹鶴ピュアモルト」らしい繊細な飲み心地はそのままに、石炭直火蒸溜由来の香ばしさや深みを際立たせたウイスキーだ。
個性の違う原酒を組み合わせ、滑らかな飲み口にまとめるのは「竹鶴ピュアモルト」創始以来の一貫したチャレンジだ。井関潤治氏が、そんなブレンドの難題に挑む秘訣についても教えてくれた。
「われわれ技術者は、迷ったときに『竹鶴政孝さんなら、どう考えるだろう』と原点に立ち返ります。ニッカは創業以来の開拓精神や冒険心で、さまざまな原酒をつくってきました。その歴史を継承し、胸を張って『ニッカウヰスキーの竹鶴です』と世界のお客さまに届けられるようなブレンドを心がけています」
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