名優とウイスキーの邂逅【前半/全2回】
文:ブラッドリー・ウィアー
それは1980年代初頭に大ヒットしたポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンの「セイ・セイ・セイ」である。おそらく二人の音楽スタイルは、あまりにかけ離れていると考えていた人も多いだろう。だがその個性の違いゆえに成功するパターンもあるのだ。
もしポールとマイケルが似たような個性とスキルセットの持ち主同士だったら、コラボはどうなっただろう。そんな共演に、いったいどんな意味があるのだろうか。
いずれにしてもコラボレーションの当事者は、両者とも明確な個性の持ち主でなければならない。名優ウィレム・デフォーとラフロイグ蒸溜所によるパートナーシップは、この条件をクリアしている。
驚くべき組み合わせは、待望のウイスキー「ウィレム・バイ・ウィレム」の発売という形で結実した。その相乗効果は、両者の強烈な個性と評判によってさらに高まる。薬のような風味、強烈なピート香、そして妥協のない味わいで有名なラフロイグ。ウイスキー愛好家なら、目の前に置かれたウイスキーがラフロイグであることは香りを嗅ぐだけでわかるだろう。
一方のウィレム・デフォーも、一癖も二癖もある強烈な役柄を演じることで称賛されてきた俳優だ。映画『ノスフェラトゥ』(2024年)では吸血鬼ハンターを演じ、『シャドウ・オブ・ザ・ヴァンパイア』では自ら吸血鬼を演じた。どちらの役にも、デフォーにしか出せない独特な自信と存在感がにじみ出ている。
ウイスキー業界におけるラフロイグと同様に、ウィレム・デフォーも映画ファンなら一目でわかる存在だ。唯一無二の個性が、映画監督や熱心な映画ファンに高く評価されている。デフォーは1987年以来アカデミー賞に4回ノミネートされているが、不思議なことにまだ受賞は経験していない。この事実が、近年はかえって「世界最高の無冠俳優」という地位へデフォーを押し上げてきた。
ウィスコンシン州出身の名優ウィレム・デフォーは、いずれ金色のオスカー像を手にすることになるのだろう。それまでの間、ラフロイグのボトルがオスカー像の代用品となるのならそれも面白い。
短編映画の撮影から関係が発展
このコラボレーションは、2025年9月の「Unphorgettable」キャンペーンとともにスタートした。忘れられない存在を意味する「アンフォゲッタブル(Unforgettable)の綴りをラフロイグ(Laphroaig)の綴りに寄せた言葉遊びである。
キャンペーン用にティム・ポープ監督が製作した短編映画『The Taste』 は、デフォーが自身の経験をもとにラフロイグのウイスキーを表現しようとさまざまな言葉を探すストーリーだ。
最終的に、デフォーは「フレンズ・オブ・ラフロイグ」のメンバーから寄せられたウイスキーの解説を読み上げ、キャンペーンのビジョンに立ち戻っていく。このパートナーシップの開始当初に、デフォー自身は次のように語っている。
「初めての海外旅行は、スコットランドでした。まだ子供でしたが、地面に足を踏み入れた瞬間に、すぐ懐かしいような不思議な感覚がありました。まるで故郷に帰ったような気がしたんです。大地がそっと語りかけてきました。祖母がグラスゴー出身だったから、遺伝子に刻まれているのかもしれませんね。短編映画『The Taste』は、ラフロイグを探求しながら、そんな親近感を見つけるプロセスについて描いています。それはさまざまな香味による調和の物語でもあります」
世界的なクリエイティブ・キャンペーンとして始まった取り組みは、映像作品の公開で終わってもよかった。だがその後、デフォーがウイスキーのブレンドに携わるコラボレーションへと発展していく。
シニアウイスキーブレンダーのサラ・ダウリングが、ラフロイグに入社したのは2024年2月のこと。グラスゴー北部のスプリングバーンに常駐するブレンドチームと協力し、熟成中の原酒を評価しながらブレンドの処方を考えるのがサラの仕事だ。ラフロイグ製品の個性の維持し、同時に絶え間ない革新も追求する。
ウィレム・デフォーがこのコラボレーションの顔ならば、サラ・ダウリングはその背後にいる創造の天才である。圧倒的なウイスキーの知識量は、会話が始まってわずか数分で明らかになる。そんなダウリングが、俳優ウィレム・デフォーについて次のように語っている。
「ずっと以前からウィレム・デフォーという俳優のファンでした。だから本人や出演作のことを思い浮かべるたびに、特別な思いを抱いてきました。いつも大胆で、いつもちょっと変で、一癖も二癖もある存在。言葉では説明できない個性と魅力が、世の中のラフロイグに対する印象とかなり似ています」
(つづく)







