名優とウイスキーの邂逅【後半/全2回】
文:ブラッドリー・ウィアー
このようなデフォーの創造的な献身は、ブレンディングのプロセスにも直接的な影響を与えた。サラ・ダウリングやマスターブレンダーのカラム・フレイザーをはじめとするラフロイグのチームは、合同テイスティングのセッションに数ヶ月かけて臨み、新しいブレンドの可能性を丹念に絞り込んでいった。ダウリングが、そのプロセスを振り返る。
「ウィレムと会う前に、約20種類のパイロットブレンドを作成しておきました。そこから、ウィレムと一緒に伝えたい物語を表現できそうな6種類に絞り込んでいったのです。どれも素晴らしい味わいでした。スモーク香の度合いや、余韻の感触、原酒の熟成期間などをいろいろと試しました」
最終候補に残った6種類のブレンドを評価する段階では、ウイスキー業界で通用する標準的な表現をあえて使わないようにした。その代わりに、ウイスキーの香りや味わいが、もっと本能的な深いレベルで五感にどう響いてくるのかを俳優と話しあったのだという。
「ウィレムと一緒にウイスキーを選びました。共同作業の間は、テイスティングノートにもあまり注目しません。毎回の体験そのものに焦点を当てて、どのサンプルが彼の好奇心をもっとも掻き立てているのか探りました。ウィレムの心が、どのブレンドの味わいにいちばん共鳴しているのかを見極めるためのプロセスでした」
ウィレムが選んだ原酒をヒントにブレンドが完成
そんな選定の過程で、ウィレム・デフォーは特定の香味プロフィールに惹きつけられる。それがはっきりとわかった瞬間について、ダウリングは振り返る。
「ウィレムが気に入ったのは、オロロソシェリー樽で熟成したウイスキーの香味でした。その香味が、もっとも強く訴えかけてきていたと押してくれたんです。そのウイスキーの香味がもたらす感情面での効果について語り、それがどんな感情なのかもしっかり説明してくれました」
最初の選定が終わると、ダウリングはアイラ島のブレンダー室に戻った。ウィレム・デフォーが希望するブレンド構成で、実際に生産できるウイスキーの数量を調整するためである。この熟成期間にもデフォーを定期的に関与させながら、熟成の経過を注意深く見守ることになった。
「一連のプロセスでとても楽しかったのが、1年を通していろんな場所でウィレムに会えたこと。ウィレムはベーススピリッツのサンプルを試飲するのが大好きでした。樽で数ヶ月熟成させた後も、さらに数ヶ月経った時点でも、同じ原酒を試飲しました。だから文字通り本当にコラボレーションのようなウイスキーづくりだったんです」
その結果生まれたウイスキーが、「ウィレム・バイ・ウィレム」というわけである。熟成年数が14年熟成と明記され、アルコール度数53.7%というカスクストレングスの味わいが力強い。
通常の商品なら、ラフロイグが公式のテイスティングノートを発表するところだ。しかし「ウィレム・バイ・ウィレム」のテイスティングノートは、あえて空白の状態で発売された。ダウリングいわく、購入者が先入観なしにウイスキーを味わえるための配慮でもある。
「テイスティングノートには、書いた人の人生がにじみます。なぜならノートを見れば、その人が世界をどう体験し、どんな人生を積み重ねてきたのかわかるから。その場でプロのブレンダーが『レモンの香りがする』と言えば、誰もがレモンの香りを感じるでしょう。でもそれではちょっとつまらない。みんなが『まだ何も決めつけられていない』と感じられるような心地よい環境を作り出し、一緒に旅に出るような気持ちで味わってほしいウイスキーです」
蛇足かもしれないが、ウイスキーマガジンによるテイスティングノートをご紹介しておこう。香りはドライフルーツ、ローストしたクルミ、タバコの煙、革製品、ジャスミンティー、レモンの皮など。口に含むと、レーズン、濃厚なトフィープディング、ミント、ラベンダー、ピートなどの風味が感じられる。舌触りはリッチで、ベルベットのように滑らかだ。余韻の長さはミディアムで、サルタナレーズンや花のようなニュアンスが感じられる。
このたび発売された「ウィレム・バイ・ウィレム」は、先入観に縛られずに風味を探求できるウイスキーだ。アイラ島で屈指の歴史を誇るウイスキーブランドと、ハリウッドを代表する俳優が創造的な好奇心を持ち寄ったコラボレーション。この組み合わせは、おそらく始まる前からすでに成功が約束されていた。
いつかウィレム・デフォーがアカデミー賞を受賞した際には、誰もが祝杯としてラフロイグのグラスを掲げることになるだろう。







