バーボン界の新鋭マスターブレンダー

ジェファーソン・バーボンのマスターブレンダーを務めるアレ・オチョアが、その半生とウイスキーへの情熱について語ってくれた。
文:マギー・キンバール
アレ・オチョアは、これまでも風味の探求に情熱を注いできた。きっかけは、大学在学中に出会った教授との会話だ。外国旅行に興味があったアレは、アイルランド、スコットランド、カナダ、米国の蒸溜所を訪ね歩いてきた教授の話に聞き入った。そしてウイスキーの風味が、どのように形成されるのかを考え込むようになったのだという。
ウイスキーの風味を構成するさまざまな要因について、それまで真剣に考えたことはなかった。そんなアレが、現在はジェファーソン・バーボンのマスターブレンダーを務めている。テキサス州出身のアレがウイスキー業界のキャリアを選んだのは、風味構成へのあくなき好奇心が理由だったと本人が振り返る。
「穀物、酵母、水、樽というシンプルな組み合わせで、これほどまでの違いが生み出されるのはなぜ? まだウイスキーについて何も知らなかった頃から、漠然とした疑問を抱いてきました。だからこそ教授の話を聞いて同じ疑問が再燃し、風味の形成を理解したいという情熱が高まりました。そしてテキサス農工大学で食品科学の学位を取得したんです」
研究の対象は、アイスクリームからシリアルまであらゆる食品に及んだ。それでも心の片隅にはいつもウイスキーに関する疑問があった。それはまるで特別な位置に置かれたトピックのようだったとアレは語る。ウイスキーにおけるテロワールの影響に魅了され、化学と官能科学から専門的に研究しようと修士課程に進んだ。
「当時はコーヒーの風味を研究していました。実はコーヒーもやめられないほど好きなんです。でも土壌と作物の科学を研究していた教授が、ウイスキーの研究をしたいという私の希望を聞いて共同研究者を紹介してくれたんです。フォートワースの『TXウイスキー』で、マスターディスティラーを務めるロブ・アーノルドでした」
当時のロブ・アーノルドは、博士課程の学生だった。アレもロブも、テキサスでのウイスキー熟成を科学的に理解したがっていた。教授の紹介がきっかけで、2人は共同プロジェクトに取り組むことになる。ロブは博士号、アレは修士号のテーマとして、テキサスのテロワール解明に乗り出したのだ。
「テキサス各地で栽培されたコーンから、スピリッツをつくります。気候、土壌、栽培方法をすべて変え、さまざまな品種を用いたスピリッツの風味を定量的に分析しました。バーボンのスピリッツで、テロワールの定量化が可能なのか検証したんです。この研究がきっかけで、TXウイスキーに就職できました。まさに望んでいた仕事だったので、素晴らしい成り行きでした」
修士論文を通じて、コーンの品種とテロワールの両方が風味に影響を与えるとアレは結論付けた。それでも熟成によって、長期的にどんな違いが生じるのかわからない部分も多い。この分野は、実際に研究が極めて難しいことで知られている。
「同じ穀物であっても、栽培地が異なれば外観さえ異なってきます。さらに樽熟成の複雑な変化も加わるので、風味のメカニズムを探るのは簡単ではありません」
複雑な要因を実地のブレンディングで理解
TXウイスキーでの最初の役職は「ウイスキー・サイエンティスト」だった。最初の数ヶ月間は、スピリッツ製造、樽詰め、ボトリングまで、蒸溜所のあらゆる業務を担当した。その後、TXウイスキーが現在の場所に移転し、品質管理とブレンド業務に専念するようになった。
大学で官能評価の経験があったとはいえ、アレにはウイスキーに関する知識が不足している自覚もあった。風味と向き合ってきたのは、TXウイスキーのスピリッツや、ここ数年で試飲した数種類のウイスキーに限られていたからだ。
予算が許す限り、できるだけ多様なウイスキーを探し求め始めた。すると同僚のジム・マンリーが自分のウイスキーコレクションをテイスティングさせてくれた。
「最初はその種類に圧倒されました。でもある瞬間から、すべてが腑に落ちたんです」
ブレンディングは、同僚であるエヴァン・ブリューワーが時間を割いて教えてくれた。ワインガロンではなく、プルーフガロンを用いて計算しながらブレンドするのもエヴァンから学んだのだとアレは振り返る。
「規定の熟成完了を1ヶ月後に控えた樽が60本あったので、最適な風味になるように樽ごとの原酒をブレンドしていきました。食品科学の知識を活かしながら、『これを加えたら?』『抜いたらどうなる?』『どうやって全体に調和させる?』と試行錯誤を重ねたんです」
このプロセスから、ブレンディングがただの足し算ではないことをアレは確信した。
「特定の風味要素は、必ずしも『1+1=2』のような結果にならないこともあるんです」
やがてアレはTXウイスキーを離れ、テキーラ業界の仕事に就いた。テキサス育ちのヒスパニック系女性として、テキーラの仕事は魅力的に感じられたのだ。
「でも結局はウイスキーに戻ってきます。このテキーラ時代のことは、愛着を込めて『テキーラ休暇(サバティカル)』と呼んでいます」
このテキーラ会社はテキサス州を拠点とする「ラ・プルガ」だが、やはりテキーラの生産はメキシコだ。そのためアレは、ウイスキーと異なるテキーラ特有の生産方法についてゆっくり学ぶことができた。
「メキシコへ行って、私たちのブランド用にテキーラを製造してくれているパートナーと仕事ができました。興味を持ったことは、何でもやらせてくれるパートナーでした。ある寒い朝、上司と私はアガベの処理を競争しました。私たちがのろまなので、現場の作業員たちは休憩が延びて喜んでいましたよ」
多様な原酒の組み合わせで一貫性を守る
そして2024年、アレはジェファーソン・バーボンのマスターブレンダーとなるべくケンタッキー州へ移った。TXウイスキーもジェファーソン・バーボンも、ペルノ・リカール傘下の企業である。ラ・プルガへ赴任する前から、アレは業界のさまざまな分野の人々と知りあっていた。
マスターブレンダー募集の求人情報を目にしたアレは、バーボンの仕事に戻りたいという一心でチャンスに飛び込んだ。現在は主にバーボン銘柄「ジェファーソンズ」に注力しているが、引き続き「TX」など傘下ポートフォリオのウイスキーブランドも手掛けている。
「TXのマッシュビルは1種類ですが、ジェファーソンズは数種類のマッシュビルでつくった原酒をブレンドしています。TXでのサンプリングは、以前よりずっと簡単になりました。全拠点で使用している全原料からサンプルを事前に集め、以前よりはるかに多い手順でブレンドされます」
サンプリングには、以前よりも多くの時間を費やしている。あらかじめ一定条件で選別したり、工程ごとに決まったパターンを確立したりする必要があるのだという。
「ジェファーソンズの仕事は、TXよりもはるかに難易度が高まります。最大の課題は、さまざまな供給源の違いを理解しながら、自分たちが取り組んでいるすべての作業で一貫性を保つことです」
ウイスキーのブレンディングを学び、ブレンダーとしてのキャリアを歩みたい人に、アレはアドバイスを語ってくれた。
「特にブレンディングの分野を目指しているなら、感覚を鍛えるのがおすすめです。感覚を磨くことがとても重要なのは、ブレンダーが最も頻繁に用いるツールが自分の感覚だからです」
そして責任を持って楽しむことも不可欠だ。探求心を持ち続け、柔軟な考え方でスピリッツを探求し続ける。そして何かやりたいことがあれば、必ず誰かに尋ねてみればいいとアレは言う。






