香港のオークションや、台湾のウイスキークラブでモルト愛を深める人々。アジア各国のウイスキー市場を分析する3回シリーズ。

文:マーク・ジェニングス

多くのウイスキー愛好家にとって、オークションは遠い世界の話に聞こえるかもしれない。マッカランを5000本も購入したり、1本で10年分の酒代に匹敵するウイスキーを手に入れたりする発想が、そもそも考えられないという人も多いだろう。

香港やハノイに住む高級ウイスキーのコレクターは、地元のスーパーで「グレンリベット12年」を物色している一般のウイスキーファンからはかけ離れた人々にも思えてくる。両者のどこに共通点があるのだろうか。そもそも同じウイスキーファンと呼べるのだろうか。

それでもアジア各地のコレクター、ブローカー、クラブ運営者たちの声に耳を傾けるうち、コレクターたちが想像以上に人間的で、親しみやすい存在であることがわかってくる。人間の収集欲求は普遍的なものだ。それは誇りや、好奇心や、贈答の喜びにも繋がっている。

香港のオークションにおける西の横綱が「ザ・マッカラン」だ。メイン写真は、ハイ・ダン・グエン(左)がベトナムのハノイに設立したダンタウ・ウイスキーのメンバー。

いつか訪れる特別な瞬間を祝うため、何か特別なものを秘蔵しておきたいという願望も自然なものだ。スプリングバンクのケージボトルであれ、「ザ・マッカラン1926」であれ、ウイスキーはただの液体ではない。それは誰かの記憶であり、アイデンティティであり、帰属意識の象徴なのだ。

コレクターの心理が普遍的なものであるとはいえ、アジア各国のコレクション市場がみな似たようなものだと考えるのは安直にすぎる。実際は各国に独自の特性とリズムがあり、それでいて個々が完全に独立しているわけでもない、市場同士が互いに影響を与え、学びあっているような関係だ。

ベトナムのダンタウ・ウイスキーを主宰する起業家のハイ・ダン・グエンは、次のように語っている。

「私もウイスキーが大好きで収集していますが、コレクターは自分の好みにあったウイスキーを求めて国境を越えるものです。韓国、日本、香港の方々も、ここベトナムへ飛んで来られます。このアジアという商圏で、小さな貿易をやっているような感じですね。コレクターの活動は特定の国に限定されず、むしろ近隣諸国によるネットワークのようなもので成り立っています」

アジアのウイスキーの物語は、モザイクのようなものだと考えてみてもいいだろう。全体として大きな絵を描いているが、それぞれが独自の輝きを持つピースの集合体なのだ。

ウイスキーオークションの中心地といえば、今でもやはり香港が挙げられる。アジアの交差点で人や情報が集まりやすく、税制面での優遇措置も多い。そして高級品を購入できる富にもあふれている。そのため香港は、サザビーズ、クリスティーズ、ボナムズといったオークション会社がアジア圏の買い手を獲得するための拠点として成長してきた。

英国でオークションを主催してきたマーク・リトラー(ブローカー兼アナリスト)は、香港のコレクターのおおらかな態度を何度も現場で目撃している。彼のクライアントの一人である香港在住の外科医は、ボウモアに夢中だった。極めて希少なボトル数本を収集したが、いつでも開栓して楽しむことを厭わなかったという。

「1万ポンド(約170万円)もするボトルが、まるでパブのような軽い乗りで気安くグラスに注がれるのを目撃しましたよ」

潤沢な可処分所得、鑑定家の知識、そして味覚への欲求。この組み合わせが、香港を独特な場所にしているのだろう。香港は巨大なウイスキー保管庫ではなく、ウイスキーを展示し、劇場のようなオークション会場で売買を楽しめる環境が揃った稀有な都市なのだ。
 

香港と台湾の質的な違い

 
アジア全域の資産家コレクターを顧客とするウイスキーブローカーのブレア・ボウマンは、オークションの役割について現実的な見解を示している。

香港のオークションで、東の横綱といえば「軽井沢」「山崎」「響」などのジャパニーズウイスキー。特に蒸溜所が閉鎖された「軽井沢」は、ほぼすべてが数量限定のプライベートボトリングだ。

「価格が上昇している時もあれば、停滞している時もあります。どちらの場合でも、オークションはいいものです。なぜならウイスキーの話題がニュースになって、業界への注目を維持できるから。ウイスキーの認知度を高めてくれる動きは、いつもウイスキー業界にとって有益なのです」

香港が高額商品のスペクタクルで注目されているウイスキー市場なら、台湾は人々の鑑識眼によって名声を築いてきた市場だ。台湾では、かなり以前からウイスキークラブの活動が盛んである。会員が資金を出し合ってシングルカスクを購入し、ボトリングしている例が無数にあるのだ。台湾のウイスキークラブ向けにボトリングされた「軽井沢」「グレンドロナック」「マッカラン」などは、常にオークションで注目の的になっている。

ベトナムのハイ・ダン・グエンにとっても、台湾は模範とすべき存在だ。ベトナムのコレクターたちは、台湾がたどってきた軌跡を後追いしているようにも見えるのだと言う。

「ベトナムも今から10年前はブレンデッドウイスキーが人気で、現在はシングルモルトウイスキーが高く評価されています。そして次の関心は、シングルカスクウイスキーへと向かっています。シングルカスクには、ウイスキーが到達し得る究極の純粋さがあります。今や多くの人々が、本来の自然な状態でボトリングされたウイスキーを評価したいと望んでいるのです」

このような進化の道筋は重要だ。なぜならアジアのオークションを賑わすウイスキー文化が、単なるステータスや投機を目的としたものではないという証拠となるからだ。味覚を探求する好奇心や、他に誰も保有していないボトルだという嬉しさを得られるのがコレクションの本質なのである。
(つづく)