ウイスキーへの投資は、分かち合う喜びへの投資。コレクターも愛飲家も、業界の発展に不可欠なプレーヤーだ。

文:マーク・ジェニングス

近年のコレクターに関するありがちな誤解のひとつに、彼ら自身がウイスキーを飲まない人々だという噂がある。だが事情を探ってみると、真実はもっと複雑である。

資産家コレクターを顧客とするウイスキーブローカーのブレア・ボウマンは、アジア全域の顧客と取引しながら両極端のケースを目撃しているのだと語る。

「多くのお客様は投資目的ではなく、自分で飲むためにウイスキーを購入されています。いずれ適切なタイミングで栓を開けるつもりなのです。なかには5000本以上を所有するお客様もいらっしゃいますが、そんな人でもすべてのウイスキーを味わい、楽しみ、共有するのが目的で収集されています」

高額なウイスキーを収集するコレクターも、その多くはウイスキーファンだ。いつの日か大切な仲間たちと分かちあうために、とっておきのウイスキーを探し求める。

だがやはり、なかにはウイスキーを展示目的で収集するコレクターもいる。自身は飲まないが、豪華なプライベートバーや展示室に相応しいボトルを並べたいという思いからウイスキーを手に入れる人たちだ。ボウマンいわく、このようなタイプは主に中国のコレクターに多いのだという。

レア・ウイスキー・ホールディングスの共同創業者であるリー・タンも、このようなコレクター心理について見解を述べた。

「投資家の中に、金銭的なリターンのみを重視する方がいらっしゃるのは事実です。でも他の多くのコレクターは、ウイスキーを『喜びへの投資』と捉えています。友人から聞いた話ですが、400ポンドで購入したボトルが2年後に600ポンドの価値になった場合、それをみんなで飲めば200ポンド得したことになります。つまり、その『共有する喜び』への投資なのだという話には説得力があります」

だがオークションにまつわるすべてが順風満帆というわけではない。英国でオークションを主催してきたマーク・リトラー(ブローカー兼アナリスト)は率直に指摘する。

「最大のリスクは偽造のボトルではなく、もっと手の込んだ詐欺です。それは主に樽単位で売買される原酒に発生しています」

樽原酒の不正販売はアジアに傷跡を残し、香港やシンガポールの企業が倒産したこともある。リー・タンは、樽の売買に厳格な姿勢で臨んでいる。

「私が販売するのは、既に自分が所有して検査済みの樽だけ。実は中味が半分しか入っていない樽なんて、絶対に売りたくはありませんから。売った後にそんなことが発覚したら、原因の究明さえ覚束ないでしょう」
 

課題を克服してさらに成長

 
世界的なウイスキーブームの影響で、欲しいボトルがなかなか手に入りにくくなってきている問題もある。品薄を好機と捉えた投機的な人々が増えたことにより、一般の愛飲家に手の届かない値段になっている状況をベトナムのハイ・ダン・グエン(ダンタウ・ウイスキー代表)は懸念している。

「これはコレクターのせいではなく、むしろ蒸溜所の問題です。コレクター向けではないウイスキーを販売することも可能なのに、どの蒸溜所もそのような方針には興味がなさそうです。スプリングバンクでさえ、ボトルを美しく装飾した特別な商品でコレクターの関心に訴えていますから」

もう一つの傾向は、延々と続く「ラグジュアリー」な限定商品リリースへの満腹感だとリー・タンは続ける。

「ラグジュアリーを謳う商品が次々とリリースされ、ファンに一部はちょっと飽きてきたようです。ブランドには、パッケージだけでなく感情的につながる何か特別な要素が必要です。そうでなければ、人々はテキーラやジンなど、感情的なつながりを提供してくれる他の酒類に移ってしまう懸念もあると感じています」

投資や高額な贈答品の対象になっていた「ザ・マッカラン」や「軽井沢」ではなく、新しいウイスキーマニアたちは香味ベースの希少性に惹かれてブランドを選ぶ。その代表的な銘柄が「スプリングマンク」や「ブローラ」などだ。

マーク・リトラーは、この問題について異なる視点で捉えている。ウイスキー業界がファッション業界を模倣しているのではないかという指摘だ。

「こうしたラグジュアリーなコンセプトの特別な商品は、オートクチュールのようなものなので大量販売が目的ではありません。このようなラグジュアリーな価値観を提示することで、コア商品への憧れを創出できるのです。ちょっと高級なストリートブランドへの憧れを刺激するファッションショーのようなものです」

アジアのウイスキー市場は、これからどうなっていくのだろうか。マーク・リトラーによれば、経験豊富なコレクターがますます賢明になったおかげで、出所や真の希少性にうるさくなってきた。誇大な宣伝で値を吊り上げられたウイスキーには、関心を示さなくなっているのだという。

次の10年は新たな富裕層、新たな地域、新たな技術によって形作られていくだろうとリー・タンは予想する。

「モデルは進化しなければなりません。透明性、誠実さ、そして卓越した技術をもってこそ、ウイスキーはその地位を維持できるのです。それがなければ、人々の心は離れていくでしょう。」

アジアのウイスキーシーンは、単一のストーリーとして語れるほど単純なものではない。香港のオークションハウス、台湾のシングルカスク、シンガポールのカラオケバー、ベトナムの贈答文化、中国市場の成熟、インドの富裕層の台頭などがパッチワークのように織りなす大きな潮流だ。

国が変われば、ウイスキーを求める動機も異なってくる。だがすべての市場に共通する本能が再び現れることもある。それは価値あるものを所有し、共有し、展示し、保存したいという欲求だ。

カラオケバーで開けられるボトルであれ、ガラスケースに保管されるボトルであれ、アジアにおけるウイスキーは単なる液体をはるかに超えた存在だ。そこにはウイスキーづくりの記憶があり、ブランドのアイデンティティがあり、皆が認めるステータスがある。

この事実さえ理解できれば、世界中のウイスキー愛好家たちもコレクターの世界をさほど異質だとは感じなくなるだろう。