カナディアンウイスキーの基礎知識【第1回/全3回】
文:メル・ハック
カナディアンウイスキーといえば、多くの人が軽やかなボディのブレンデッドウイスキーを連想することだろう。あの口当たりのいい飲みやすさの裏には、各メーカーの反骨心と静かな進化の歴史がある。そして現在もなお世界市場で屈指の刺激的で革新的なプレミアムウイスキーを生み出しているのだ。
複数の穀物原料を混合し、革新的なブレンディング技術が発達
もっとも古い文献が残っている1769年の時点で、カナダにはすでに数百軒もの小規模な蒸溜所が存在した。だが商業的なウイスキー製造が本格的に始まったのは、19世紀に入ってからである。その一例は、モントリオールで1801年にモルトウイスキーを生産していたジョン・モルソンだ。当時の多くのウイスキー生産者は、モルソンのようなビール醸造業からの転身組だった。ちなみにそのようなウイスキー生産者は、その多くが再びビール醸造業に戻っている。
その後ほどなく、スコットランドやアイルランドからの移民がカナダに押し寄せてきた。彼らがヨーロッパから伝統的な蒸溜技術を持ち込み、カナダで栽培される穀物に適応させたスピリッツをつくり始めたのである。カナダの穀物といえば、先住民たちが6000年にわたって栽培してきた在来種のトウモロコシ、大平原で育つ小麦、そして寒冷な気候に強いライ麦である。
カナダで最初に蒸溜された穀物はライ麦だと考える人も多い。しかし多くの証拠が、別の事実を示している。カナダでスピリッツの原料になった穀物は、コーンと小麦が先だった。ライ麦は後から登場したものの、やがてブレンドの主要成分として支配的な存在になっていったようである。
カナディアンウイスキー業界の大きな転換点は、1858年にやってくる。この年に、ハイラム・ウォーカーがオンタリオ州ウィンザーにウォーカービル蒸溜所を設立した。このウォーカーこそが、カナダウイスキーのDNAともいえる生産スタイルの基礎を開拓した人物だ。
カナダのウイスキー製造法は、隣国のアメリカンウイスキーようにすべての穀物を一緒にマッシング(糖化)するのではなく、穀物原料ごとに分けて糖化、発酵、蒸溜、熟成までをおこなう。そして熟成後の原酒をブレンドすることで、風味や品質の一貫性を保つというアプローチである。
風味の均一性という観点において、このカナディアンの手法は驚異的な精度を実現した。甘味、スパイス香、舌触りのバランスが取れ、重層的な風味を内包した一貫性のあるウイスキーが製造できるようになったのだ。このカナディアンウイスキーの製造スタイルは、それぞれの穀物から最良の特性を引き出すことにも適していた。
このような歴史的事実は、現代カナディアンウイスキーの革新者として知られるドン・リバモア博士によって裏付けられている。博士はマスターブレンダーであり、カナダウイスキーのフレーバーホイールも考案した。さらには『Blending 101 – The Canadian Whisky Masterclass』(2017年)の著者として、カナディアンウイスキーの魅力を世界に伝えてきた。
前述の製造スタイルについてリバモア博士にメールで問い合わせると、博士は次のような返答を送ってくれた。
「確かに私たちカナディアンウイスキーのメーカーは、穀物をそれぞれ個別に蒸溜しています。まず1940年代に
コーンから始め、数十年の歳月をかけてすべての小粒穀物を個別処理するような体制になりました。現在ではコーン、ライ麦、小麦、大麦、ライ麦モルト、大麦モルトを別々に蒸溜しています」
この製造法はカナディアンウイスキーの代名詞となっており、世界のブレンディング手法にも影響を与えている。特に日本のキリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所は、カナディアンウイスキーの影響を強く受けた蒸溜所のひとつといえるだろう。それでもカナダ国外では、このアプローチが長きにわたって過小評価され続けてきたのも事実である。
(つづく)






