カナディアンウイスキーの基礎知識【第3回/全3回】

3月 9, 2026

賛否両論の添加物規制に対し、メーカーは自主基準で透明性を確保。カナダはウイスキーの新境地を切り拓いている。
文:メル・ハック

議論を呼ぶ「9.09%ルール」

この問題については、ウイスキーマガジン・ジャパンの「カナディアンウイスキーと添加物」でも解説しているので、ここではなるべく簡潔に述べよう。カナダ食品医薬品法(1993年)によると、生産者はウイスキーにワインや他の蒸溜酒を最大9.09%(1/11量)まで添加できることになっている。ただしその添加物は、小樽で最低2年間熟成されている必要がある。

規制に守られるだけでなく、他国にはない境地を開拓しつつあるカナダのクラフト蒸溜所たち。新進のウイスキーメーカーは、独自のチャレンジで個性を表現している。写真はすべてベアフェイス・ウイスキーの提供。

この規則は、アメリカンウイスキー、スコッチウイスキー、ジャパニーズウイスキーの伝統的なブレンディングにも類似している。ジャパニーズウイスキーが新たな定義を確立し、輸入したスコッチやカナディアンの原酒を「ジャパニーズウイスキー」にブレンドできないルールに移行したのは2021年以降のことだ。またスコットランドがシェリーを樽に直接添加する慣行を廃したのは2009年のことである。

その一方で、アメリカンウイスキーのブレンドは依然として無法地帯だ。最大2.5%までなら、風味添加物を加えることが許容されている。この割合を超える場合は、ラベルに記載しなければならない。

カナディアンウイスキーの法整備において、透明性の向上はこれから極めて重要な改善点になるだろう。現在のところ、まだ添加物の開示は義務化されていない。新しいカナダのクラフト生産者は、その多くが自発的に9.09%ルールの恩恵を拒否している。これはウイスキーへの混ぜ物を許容しない純粋主義者たちを満足させるための自主基準でもある。

このカナディアンウイスキーの規則は、国際的なウイスキー業界から批判を浴びてきた。そのため実際にはほとんど適用されていないが、強みとして活用できる可能性は依然としてある。ドン・リバモア博士は「画家のパレットに、新しい色の絵の具を追加するようなルールですから」と語っている。

法律よりも慣行で定義されるカナディアンシングルモルト

現在のところ、カナダにはシングルモルトウイスキーを定義する法規が存在しない。しかし大半の生産者は、スコッチウイスキーへの規制をモデルにした自主基準を遵守している。すなわち大麦モルトを100%使用し、単一蒸溜所で蒸溜し(一般的にはポットスチルを使用)、小型の樽で3年以上熟成し、アルコール度数40%以上でボトリングし、香料添加物は禁止(ただしカラメル色素は許可)といったルールだ。

クラフトが隆盛するブリティッシュコロンビア州の生産地ブランド

昨年(2025年)の時点で、ブリティッシュコロンビア州で稼働する蒸溜所は100軒以上。そのうち85軒もの生産拠点が、ブリティッシュコロンビア州のクラフト蒸溜免許を受けたスピリッツ製造者だ。この圧倒的な蒸溜所の数は、ブリティッシュコロンビア州がカナダ随一のスピリッツ生産地であることを示している。

ブリティッシュコロンビア州がウイスキーづくりをリードしている一因は、州が独自に採用した進歩的なクラフト蒸溜免許制度にあるといえるだろう。この酒造免許を取得するためには、ブリティッシュコロンビア州産の穀物原料を100%使用し、発酵から蒸溜までの全工程を自社施設内でおこない、生産量は完成されたスピリッツで年間5万リットル未満とし、伝統的な蒸溜技術を採用していなければならない。

ブリティッシュコロンビア州産原料のみを使用することで、蒸溜所は生産地のテロワールを表現し、地元農家を支援し、その土地の真実の物語を語ることができる。カナダのブリティッシュコロンビア州では、「クラフト」という言葉が単なる流行語ではない真の意味を持っているようだ。オーストラリア出身のウイスキーファンとして、そんな姿を見るのは羨ましいかぎりである。

おすすめカナディアンウイスキー5銘柄

キルダラ シグネチャー ポットスチルウイスキー
マカロニーズ蒸溜所/アルコール度数:46%

グレアム・マカロニー博士が2016年に設立したマカロニーズ蒸溜所は、バンクーバー島のビクトリア町で革新的なウイスキーをつくっている。故ジム・スワン博士とマイク・ニコルソンの指導を受け、スコットランドの技法とカナダの農業を融合させてきた。主力商品の「キルダラ」は、カナダ、アイルランド、スコットランドの融合である。フォーサイス社の銅製ポットスチルで、大麦モルトと未製麦の大麦を3回蒸溜する。熟成樽には、ケンタッキーのバーボン樽、スペインのオロロソシェリー樽とペドロヒメネスシェリー樽、そしてアメリカンオークの新樽が含まれる。マカロニーズ蒸溜所では、すべての製品を自社内で蒸溜、熟成、ボトリングしている。

シェルターポイント クラシック シングルモルト 7年
シェルターポイント蒸溜所/アルコール度数:46%

農家3代目のパトリック・エヴァンス一家が、2011年に設立した蒸溜所。太平洋沿岸地帯で、「畑からグラスまで」を実践している。伝統的なスコットランドスタイルでつくる少量バッチのシングルモルトは、海と山に挟まれた生産地のテロワールを表現。大麦モルト100%でスピリッツを蒸溜し、バーボン樽、シェリー樽、ポート樽、アイラ樽、さらには地元の赤ワイン樽で熟成される。ジェームズ・マリヌスのブレンドが、興味深い製品を生み出している。

モナシー・トリティケール・ウイスキー 4年
モナシー・スピリッツ蒸溜所/アルコール度数 45%

サステナビリティを重視する2016年設立のクラフト蒸溜所兼バー。蒸溜所から58マイル以内で育った超ローカルな小麦とライ麦を原料にしている。チャー(4番)を施したアメリカンオーク新樽で4年半にわたって熟成されたこのウイスキーは、小麦の柔らかさとライ麦のスパイシーさを兼ね備え、オーク新樽の甘みと完璧なバランスをとっている。

ベアフェイス トリプルオーク
ベアフェイス・ウイスキー/アルコール度数:42.5%

ベアフェイスは、2018年に設立されたブレンディング会社。蒸溜所は保有せずに、革新的なカナダディアンウイスキーをつくっている。「トリプルオーク」はコーン原料のシングルグレーンウイスキーで、バーボン樽で7年間熟成後、フランス産赤ワイン樽とハンガリーオーク新樽でフィニッシュを施した。このウイスキーは再利用された輸送コンテナ内で熟成され、気温-10℃から+40℃までの極端な寒暖の差に耐える「エレメンタル・エイジング」も実践している。ベアフェイスはカナダ特有の「9.09%ルール」を活用し、限定版ウイスキー「ワンイレブン」を生み出した。これはウイスキーと成されたメスカルを10:1の割合でブレンドしたものだ。

ロット40 100%ライ
ハイラム・ウォーカー&サンズ蒸留所/アルコール度数:43%

創業が1998年で、休業を経て2012年に復活。ロット40は、カナダ産100%ライ麦ウイスキーの基準となる存在だ。伝統的な銅製ポットスチルで蒸溜され、オーク新樽で熟成されている。ウイスキーの特徴は、力強いスパイス、黒胡椒、ドライフルーツ、ハーブなどのニュアンスだ。穀物の特徴と構造を前面に出し、見事な風味に仕上がっている。

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