シェリー樽の真実【後半/全2回】

February 13, 2015

 ウイスキーの熟成に不可欠なシェリー樽。その生産者のもとへ訪れたウイスキーマガジン英語版記者 アルウィーン・グウィルトのレポート、後半をお届けする。

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「目下、ウイスキー業界では樽が不足しています。ですから、ホセ・イ・ミゲル・マルティン社以下J&MM社)とつながりがあることは極めて重要です。実際に、我々の業界では強い信頼関係が全てですし。世の中に出回る樽の数に限りがあるという現実は、ウイスキー産業にとって本当に難題になっています」と、グレンファークラスのブランドアンバサダーで所有者家族の6代目、ジョージ・ グラントは説明する。

しかし、この潜在的な樽不足も、メーカー側の努力不足のせいではない。
J&MM社は樽が不足する可能性があることを察知して、同社敷地内のクーパレッジで生産が続けられるように、スペイン北部と米国で製材所の権益を購入した。同社クーパレッジでは毎日85〜100個の樽が手造りされ、近隣のクーパレッジ3ヵ所でも、シェリー生産者だけのために樽を作っている。

オーナーのミゲルが、樽の製造工程が分かるようにと、太陽の降り注ぐ広大なエリアに案内してくれた。アメリカ産とスペイン産のオーク樽板が何列も積まれている。ここでスペイン産オークは12〜18ヵ月間、アメリカ産オーク樽板は3〜4年間空気乾燥される。

同社は現在、6対4の割合でスペイン産とアメリカ産のオークを生産ラインにのせている。ミゲルの説明によると、多くの人がシェリー樽にはヨーロピアンオークと決めつけているが、それが常にベストとは限らないそうだ。

「ヨーロピアンオークはアメリカンオークよりはるかに多孔質です。しかし必ずしもその方が良いわけではありません – 違いがあるのです。例えばフィノ・シェリーは、私たちは決してヨーロピアンオークで熟成しません。タンニンが豊富すぎますから」と彼は言う。

隣の建物の中では、熟練した樽職人たちが樽板にヤスリをかけて成形し、それから金属製のフープ(締め輪)の中に入れて一体化する。
ここから、樽職人たちは半ば仕上がった樽を転がして、床のガスシリンダーから噴出する激しい炎の上に置く。
それぞれの樽には滑車に接続した太いロープが巻かれ、樽の内側を焼く間、ロープで締め上げて成形する。

新たに成形した樽が冷えたら、施設内のあの大きな発酵タンクでつくったオロロソシェリーを詰め、5ヵ月間シーズニングする。

ミゲルはこう説明する 。
「ウイスキーのために樽のシーズニングを行う工程は、シェリーのためのソレラ・システムを作りあげることとは全く別の品質管理システムなのです」

J&MM社の製造所を見せてもらって、私は「樽造りの工程」が非常に効率的に、システマチックに進められていることに驚いた。
この家族経営の工場では、全てが手作業で行われている。
しかし遠く離れたスコットランドの蒸溜所へ届けるために、速いペースで樽を生産しなければならない…樽がなければ、スピリッツは眠りにつけないのだから! この重大な責任に対するプレッシャーがあることは明らかだ。

シェリー生産者にとって、「シェリーを造る」のと「樽を造る」のとどちらが本業なのだろうと考えた。
しかし大切なポイントは、ウイスキーにとってシェリー樽が非常に重要であり、またシェリー生産者もその状況を好ましく思っているということだ。

ウイスキーとともにシェリーの需要が伸びていく。
ウイスキーの愛飲家はその他の酒精強化ワイン(ポートやマディラ)よりもシェリーを身近に捉え、自然とシェリーに詳しくなっていく。オロロソ、フィノ、ペドロヒメネス…なんと我々に身近なスペイン語であることか!
ウイスキーファンならば、世界の蒸溜所の名前同様、これらのシェリーのタイプを熟知している。シェリー業界にとっても、この状況は喜ばしいことだろう。もちろん、シェリー自体も楽しんでほしいと思っていることは間違いないが。

シェリーとウイスキーの特別なつながり…生産者同士の信頼関係だけでなく、我々の興味をそそってやまない風味の関係も。次にシェリー樽で熟成した風味豊かなウイスキーを味わうときには、じっくりそのことも考えてみよう。

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