軽やかなウイスキーで知られるローランド地方には、スコットランドの首都もある。約1世紀もの沈黙を経て、再びモルトウイスキーがつくられ始めたエジンバラとロージアン地方の現況を概説。

文:パトリック・コンネッリ

 

エディンバラ&ロージアン(Edinburgh & Lothians)

 
エディンバラ市内の一流バーやウイスキー体験では、いつも大勢の観光客が行列を作っている。このようなウイスキーへの渇望に応えるべく、ディアジオはウイスキー観光の成長を後押しする施設をエディンバラおよびロージアン地域に開設した。

ディアジオは蒸溜所のビジター体験に力を入れている。エディンバラのジョニーウォーカー・エクスペリエンスに加え、ジョニーウォーカーのキーモルトを生産するグレンキンチー蒸溜所も観光客に人気だ。メイン写真はエディンバラの古城からホーリールード蒸溜所方面を見渡した風景。

ディアジオはジョニーウォーカーのキーモルトを生産する4箇所の蒸溜所にスポットを当てた「フォー・コーナーズ・オブ・スコットランド」の周知を目的として、1億8500万ポンド(約300億円)の巨費を投じている。プリンセス・ストリートにジョニーウォーカー・エクスペリエンスを開設し、イーストロージアンのペンカイトランドにあるグレンキンチー蒸溜所では大規模な改修を進めた。

グレンキンチーの赤レンガ倉庫には、新しいテイスティングルーム、蒸溜所ツアー、テイスティング用の食事メニュー、ハイボールや各種飲み比べセットなどを提供するバーエリアなどを完備。複数階にまたがって、インタラクティブなビジター体験を楽しめる施設として生まれ変わっている。

思えば1925年にグレンシーンズ蒸溜所が閉鎖されて以来、首都エディンバラはモルトウイスキー不毛の地だった。だが約1世紀の沈黙を経て、再びようやく市内の蒸溜所でスピリッツが生産されるようになった。これがホーリールード蒸溜所である。

市の中心部で、デヴィッド・ロバートソン(マッカランの元マスターディスティラー)が、ケリー・カーペンターとロブ・カーペンターの兄弟(スコッチモルトウィスキー・ソサイエティのカナダ支部創設者)と手を組み、2019年にセントレナーズ駅の旧貨物置場を改装した。そうやって誕生したホーリールード蒸溜所には、カラフルなビジターセンターが併設されている。ウイスキーとジンの蒸溜器を備えた蒸溜所は、まさにエディンバラらしい都会的な蒸溜所(ロブ・カーペンター談)だ。

首都エディンバラの市内で、ほぼ100年ぶりにモルトウイスキーをつくり始めたホーリールード蒸溜所。スコットランド最長のネックを持つポットスチルが、華やかで洗練されたスピリッツの香味を生み出す。

ディアジオやホーリールードのような派手さはないが、リースで創業したボニントン蒸溜所も注目に値する。シングルモルトウィスキーの生産にのみ力を注ぐ本格的な生産者であり、ヘイルウッド・インターナショナルが手掛けた実験的なチェインピア蒸溜所の後継にふさわしい蒸溜所だ。

ボニントンの蒸溜責任者を務めるジェイミー・ロックハートは、伝説的な「クラビー」の名を冠したスピリッツを継承するのに相応しい人物と目されている。ジョン・クラビーは1885年にノースブリティッシュ・グレーン蒸溜所の初代会長に就任した人物で、エディンバラのウイスキー史におけるブレンディングの重要人物として語り継がれている。現在は、その名を冠した「クラビーズ・ジンジャー・ワイン」でも有名だ。

ジェイミー・ロックハートは、ローランド地方のウイスキーづくりに明るい未来があると信じている。これは誇らしいことであるが、同時にボニントン蒸溜所が伝統に固執するつもりもないとも表明している。

「私たちは、典型的なローランドの生産工程やスタイルに一切寄りかかっていません。つまりヘビーな酒質や、ピートの効いたウイスキーも積極的につくっていく方針です。伝統復活への期待に応えたり、ローランドらしさにこだわったりするのではなく、私たち自身の歴史や蒸溜所に忠実な本物のスピリッツをつくることが重要だと思うのです。それが将来的に新しいローランドらしさとして知られるようになることかもしれませんから」

かつての港町リースはエディンバラの一角に統合され、新しいウイスキーの生産拠点が次々と生まれている。ボニントンの敷地からそれほど遠くない場所に、リースで最も革新的な蒸溜所を創設する計画が進められている。それがポート・オブ・リース蒸溜所だ。

ホーリールード蒸溜所で各社とのパートナーシップを管轄するルーシー・ジェラティ。観光地エディンバラで蒸溜所の魅力を多角的に発信している。

ポート・オブ・リース蒸溜所のオーナーは、すでにリンド&ライム・ジンで成功を収めているパトリック・フレッチャーとイアン・スターリングの2人。英王室のヨット「ブリタニア号」が停泊する港の端に、旗艦施設となるスコッチウィスキー蒸溜所の建設をすでに始めている。蒸溜所の最上階にはウイスキーバーがあり、北にファイフ、南にエディンバラの有名な古城を望む絶好のロケーションだ。最終的には年間40万リットル(純アルコール換算)の生産量を目指している。

ポート・オブ・リース蒸溜所の建物は、縦に細長い構造のビルだ。穀物の粉砕とマッシングを上の階でおこない、その後は階下の発酵を経てさらに下の階に置いてあるスペイサイド製の蒸溜器で蒸溜される。まさにトップダウンの画期的なプロセスだ。イアン・スターリングが、この蒸溜所のビジョンを説明する。

「スコッチウイスキーには、新しい波が訪れています。革新、実験、新しいアイデアや将来への展望が各地で提示されています。このような新しい波こそが、ローランド・ウイスキーの代名詞になるかもしれません。アイラ島にはピートがあり、ハイランドやスペイサイドには伝統と遺産があるように、ローランドの私たちは未来のウイスキーの先駆者であるべきなのです」

イアン・スターリングは、ローランドらしいスピリッツについて明確なイメージを抱いている。ピート香の強いアイラモルトや重厚でリッチなハイランドモルトに比べ、より軽やかで繊細な香味のウイスキーだ。

「そんなイメージもまた、私たちの野心にぴったりでした。この蒸溜所で卓越したスピリッツをつくり、熟成にも細心の注意を払って、極めて複雑でおいしいウイスキーをしっかり生産していきます。ピート(泥炭)やカスク(樽)の影響を取り入れすぎることで、ローランドがスピリッツに注ぎ込んできた長年の仕事と研究のすべてを台無しにしたくありませんから」
(つづく)