蒸溜所同士の樽交換【後半/全2回】

2月 4, 2026

小規模な蒸溜所だけでなく、大手メーカーも樽交換に乗り出している。多彩な協業の形が、業界の未来を切り拓く。

文:マリー=イヴ・ヴェンヌ

世界の消費者は、トレーサビリティなどの責任ある生産体制をますます求めるようになっている。サステナブルな価値観の共有は、ますます重要なポイントになっていくだろう。ノックニーアンのような蒸溜所は、地球環境や倫理面で共通の目標を持つ生産者と積極的に提携している。このような協業によって、現代のウイスキー愛好家の心に響く豊かな物語を紡いでいるのだ。

こうした協業の多くは、非公開でおこなわれている。他社が使用した樽で密かにウイスキーを熟成させ、その交換を公表しない蒸溜所も少なくない。完成したスピリッツの品質が期待した水準に達しなかった場合、それまでの実験は内部で棚上げされる。だがひとたび成功すれば、新たな風味プロフィールや生産技術への扉を開き、計り知れない恩恵をもたらすかもしれない。

このように秘めやかな実験はウイスキーのスタイルを進化させ、熟成に関する従来の常識を塗り替えていく可能性もある。

エディンバラのホーリールード蒸溜所のように、大胆な実験精神をアイデンティティの中核に位置付ける蒸溜所もある。ホーリールードの「リラック」シリーズは、バーボン樽で初期熟成したウイスキーをラム樽などに移し替え、樽の違いがもたらす影響を探求してきた。このような新発想の樽熟成に加え、ホーリールードは発酵過程でも多様な酵母株で実験を繰り返している。

英国の蒸溜所として、初めてネットゼロ認証を獲得したノックニーアン蒸溜所。CEOのアナベル・トーマスは、スコッチウイスキーのサステナビリティをリードしている。

ウイスキーづくりの限界を押し広げようというホーリールードの取り組みは、スコッチウイスキーの根幹的な特性を尊重しながらも、新しい風味の可能性を模索するのが狙いである。

小規模な新進の蒸溜所だけでなく、老舗の蒸溜所も協業による実験的な樽交換をはじめている。グレンマレイの「エルギン・キュリオシティ」シリーズでは、シードル樽、IPA樽、ミード樽などによる実験的な追熟がおこなわれている。実験の結果について、樽の背景と経過を公開している透明性の高さも特徴だ。よりオープンで、協働をポジティブに楽しむウイスキー業界のマインドセットが反映されたケースである。

ウイスキー業界を代表するメーカーも、この潮流を受け入れている。たとえばグレンフィディックが、サマセット・サイダー・ブランデー社と共同開発した「オーチャード・エクスペリメント」もそのひとつだ。これはアップルリキュール「サマセット・ポモナ」の熟成に使用した樽で追熟を加えたウイスキーである。

カナダでグレンフィディックとバルヴェニーのナショナルブランドアンバサダーを務めるジェイミー・ジョンソンは、この試みについて次のように語っている。

「さまざまな種類のスピリッツやワインがもたらす幅広い風味が活用できるメリットを考えれば、業界の仲間たちと樽を交換してウイスキーを仕上げるのは理にかなっています」

ケンタッキー州のケルビン・クーパー社製の樽で熟成されるバルヴェニーの「スウィート・トースト・オブ・アメリカンオーク」も、このような精神から生まれたウイスキーなのだという。

蒸溜所同士の樽交換ではないが、このようなコラボレーションはウイスキーの背景に新しいストーリーの中心的な要素となっているのだとジェイミー・ジョンソンは語る。

「他の蒸溜所、ワイナリー、シェリーボデガなどから手に入れた樽を使用している場合でも、クラシックなグレンフィディックスタイルへの一貫性は常に保たれています。このような樽熟成の冒険を進めながら、革新と伝統の両方にまだ未知の領域があると深く信じています」

コラボは新しい気付きを得るチャンス

このような協業の熱意はさまざまな場面で高まっているが、ウイスキー業界の規制は依然として厳しい。スコッチウイスキーの規則では、使用できる樽の種類やウイスキーを熟成させる方法が規則に従っていなければラベルの認定を受けられない。

スコッチウイスキーの技術指導書によると、ウイスキーの熟成はワイン、ビール、またはスピリッツを貯蔵していたオーク樽でおこなわれなければならない。このような制限の中でも蒸溜所は革新を続け、実験的で独創的な熟成方法を見出しているのだ。

過度なコラボレーションが、ブランドアイデンティティを希薄化させるリスクにつながるのではないか。そんな懸念を口にする批評家も一部にはいる。ラム樽やワイン樽でフィニッシュしたウイスキーが、消費者を混乱させたり、各蒸溜所の独自性を損なったりするのではないかという疑念を表明しているのだろう。

サステナブルで開かれたウイスキーを象徴するノックニーアンは、同じ価値観を共有する仲間たちと協業することでブランドの発信力を高めている。

だが多くの生産者は、そんな懸念に反論する。コラボレーションが真の好奇心に根ざし、協働する両社が同じ価値観を共有していれば、そのようなコラボレーションは最終的な製品の魅力を強化してくれるに違いないからだ。

ドーノック蒸溜所の共同創業者であるサイモン・トンプソンは、樽交換がもたらす価値について次のように語っている。

「樽交換は、他者の視点で自らのスピリッツを見つめる機会になります。そこから意外な事実に気づいたり、実に多くのことを学べたりするものです。新たな風味を生み出すことだけでなく、本当の価値は新たな視点の獲得にあるのではないでしょうか」

サステナビリティへの要請や消費者の嗜好の変化まで、ウイスキー産業はさまざまなプレッシャーにさらされている。そんな時代にあって、有望な前進の道筋を提供してくれるのもコラボレーションの力だ。そこには単に新しい樽でウイスキーを追熟する以上の価値がある。人々の力を集め、新しい関係を築き、一緒に新たなことに挑戦する意志が力強い物語を作り出す。

ウイスキーという製品には、これまで孤高の芸術といったイメージが付きまとっていた。そのような世界のなかで始まった新しいパートナーシップには、業界全体を前進させる力がある。オーク樽や長大な時間がウイスキーの風味を育てるように、協働の物語と仲間同士の信頼がスピリッツの未来を形作っていくのだ。

この現代でもっとも刺激的なウイスキーを生み出す契機は、革新的な樽熟成だけでない。蒸溜所同士の樽交換や、その協業の背景にある対話、共有されたリスク、仲間を信じる共同事業などから、新しい物語が生まれていくのである。

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