旅するバーテンダーたち【後半/全2回】
文:ヤーコポ・マッツェオ
テイクオーバーやゲストシフトなどのイベントで露出できるのは、関係するバーの存在だけではない。バーテンダーのスター化が進み始めた当初から、ウイスキーやスピリッツの大手メーカーもその波及効果に着目した。飲料メーカーがトップミクソロジストを新しい市場に派遣することで、従来型の広告よりもはるかに費用対効果が高く、インパクトが大きい広告効果を得られるのだ。
多くの企業がこの機会に飛びつき、今日ではイベントのスポンサーシップが標準的な慣行となっている。バルセロナの名店「パラディソ」のジャコモ・ジャンノッティはそんな事情を説明する。
「ほとんどの場合、バー側がスピリッツブランドに連絡を取って、支援や経費の負担を依頼します。費用には少なくとも旅費と宿泊費が含まれますが、メーカー側の事業として成立させるために別途で報酬が支払われることもあります。メーカー側からイベントの企画を持ちかけてくるケースもあります」
メーカーからの関与と多額の投資は、間違いなくバーテンダー業界の活気を高め、世界的な現象へと拡大させる一因になった。だがその一方で、実はあまり価値のない無数のゲストシフトを生み出したことも事実である。バーテンダーやゲストにとって、実質的な価値をほとんど提供しないマーケティング主導の活動へと変質してしまったケースも多い。
一部のバーコミュニティでは、このようなイベントが増えることでテイクオーバーの魅力が薄れていることを危惧する人々もいる。関係者全員に真の利益をもたらすような、本物志向でコミュニティ主導のイベント体験を提唱する声が高まっているという。ロンドンのローズウッドホテルで名店「スカーフス」(Scarfes)を運営するアンディ・ラウドンは説明する。
「ゲストシフトは、何よりもまずコラボレーションであることを忘れてはなりません。ホストバー、ゲストバーテンダー、支援するブランドが、こうしたイベントで三位一体の協力体制を形成し、三者それぞれが何かを得られるようにしなければなりません」
一部のスピリッツメーカーは、バーのプロフェッショナルたちの意識変革に注目している。コミュニティにとって真の利益と関連性を優先した交流プロジェクトを展開することで、旅するバーテンダーのブームに新局面を切り拓きつつあるのだ。
たとえば複数国にまたがる都市を巡る「ウッドフォードリザーブ・バーボン・グローバル・バー・エクスチェンジ」というプログラムでは、ミクソロジストたちがバーボンを主役にしたカクテルの創作で協力しあう。ホスト都市の風味や文化に深く浸り、地元の食材や習慣などの探求もできるようになっている。
ウッドフォードリザーブの親会社ブラウン・フォーマンでアドボカシー・ディレクターを務めるニダル・ラミニは、一夜かぎりのテイクオーバー自体がプロジェクトの目的ではなく、あくまで「仕上げの飾り」に過ぎないと説明している。
「このプログラムの肝は、業界の仲間たちが案内役となってウッドフォードリザーブと一緒に体験をキュレーションし、各参加者にホスト都市の『味覚ツアー』を提供する活動です。つながりを築き、コミュニティを育み、アイデアや文化の交流を通じて業界の未来にインスピレーションを与えることが目的になります。つまり重要なのは体験そのものです」
このプロジェクトの一環として、ロンドンの「ナイトジャー」のチームがブリスベンを訪れ、バー「デス・アンド・タックス」とコラボレーションを開催した。その後にブリスベンのチームがロンドンを訪ねる機会もある。
それぞれの訪問では、現地のバーテンダーがホスト役を務め、ゲストのバーテンダーが都市文化に浸れるような旅程を作成する。最高のコーヒーショップ、ギャラリー、レストランを訪れ、その他の現地体験も用意している。ベルリンのチームが東京を訪れた際には、和装で伝統的な茶道を学ぶイベントにも参加した。ゲストシフトは、そんな旅の集大成となったのだとラミニは語る。
「私たちの目標は、支持者を増やしていくこと。バーテンダー同士で『ウッドフォードリザーブの品質とブランドの運営はいいね』という意見が交わせたら、彼らの仲間もブランドを単なるスピリッツ以上の存在として見てくれるようになります。ありきたりのウイスキーではなく、個性を持った人間的なブランドイメージを構築できるのです」
ますます広がるバーテンダーの旅
ゲストシフトやテイクオーバーのモデルを現代化すれば、バー業界以外の人々にも良い影響がある。こうしたイベントは、お酒を楽しむ人々の体験を豊かなものにする形であるべきだとラウドンは言う。
「ゲストシフトは、今後も定着していくでしょう。でも重要なのは、いかにしてイベントをゲスト中心のものにするかということ。従来のゲストシフトの枠を超え、より没入感があり、繊細で奥行きのある体験が求められています」
ゲストバーテンダーの滞在中に、人々が店を訪れる真の理由が必要なのだとラウドンは言う。
「ゲストチームからバーテンダー2名を招き、1名はバーでカクテルを作り、もう1名はホテル内の別の場所でもっと隠れ家的なスピークイージー風のイベントを担当してもらったりしています。お客様はメインバーでドリンクを楽しんだ後、2つ目の場所(裏口からアクセス可能な秘密のスペース)への招待券を受け取り、全く異なる雰囲気で別のカクテルを楽しめます」
ジャコモ・ジャンノッティも、イベントに対する意識を変えている。気まぐれに月1〜2回のイベントを主催する従来のゲスト招致モデルから、より意図的で厳選されたアプローチへと徐々に移行しているようだ。
ゲストバーテンダーのシリーズを10年間にわたって運営してきたジャンノッティは、パートナーシップに明確で具体的な目的があると感じた時だけに仲間のバーテンダーを招くようになった。
たとえば先日のバルセロナ・カクテル・フェストでは、従来よりも実験性を強調している。メインバーで開催するおなじみの賑やかな会ではなく、来客とゲストバーテンダーの両方が親密に交流できるポップアップバーを専用の「ラボスペース」に移設した。
「慣れ親しんだやり方とは異なる実験が必要です。そこには明確な理由があるべきです。前回のイベントは、当店の開業記念日でした。だから私たちが心から尊敬する2軒のバーからバーテンダーを2名だけ招待しました。彼らへの敬意だけが理由でした」
コラボレーションを成功させるには、より入念な計画、斬新なアイデア、そしてぴったりのパートナー選びが不可欠だ。バーテンダー交換の意義と目的について。常に考え直すことが大切である。
一時的な客を集めることが目的ではない。カクテル愛好家と世界中のバーコミュニティの双方が、イベント体験を最大限に高められる方法を模索するのが究極のゴールなのだ。







