関税や反米感情で売上は減ったが、蒸溜所観光は好調だ。ケンタッキーバーボン業界は、試練のあとの飛躍に期待している。

文:マギー・キンバール

生産部門では暗い話題も多いケンタッキー州のバーボン業界だが、観光の分野では依然として朗報が続いている。ウイスキーツーリズムは、景気後退の影響をほとんど受けていないようだ。

ケンタッキー蒸溜酒造協会(KDA)のエリック・グレゴリー会長は語る。

ハイランドパーク蒸溜所で、マスターウイスキーメーカーの重責を引き継いだマーク・ワトソン。メイン写真は、オークニーにあるハイランドパーク蒸溜所の入口。

「ケンタッキー州でのウイスキー観光は、生産分野や貿易分野で起こっている問題の影響を受けにくいようです。たとえば『ケンタッキー・バーボン・トレイル』の宣伝はまったく縮小していません。それぞれの蒸溜所も本当に素晴らしい取り組みをおこなっています。特に蒸溜所の外部に新設したテイスティングルームの人気が好調です」

その背景には、全米の経済状況が悪化している状況もある。海外旅行などの旅行計画が縮小傾向で、それがウイスキー観光を押し上げているとグレゴリー会長は分析する。

「多くの人たちが、米国内で余暇を過ごすようになりました。これは私たちにとって好都合です。なぜなら全米の人口集積地の多くが、ケンタッキー州から車で6時間圏内にあるから。ニューヨーク州やカリフォルニア州など、全米のあらゆる地域から観光客が増え始めています」

このような訪問者の多くは、「ケンタッキー・バーボン・フェスティバル」「バーボン&ビヨンド」「ザ・バーボン・クラシック」「バーボン・オン・ザ・バンクス」などのフェスティバルを目当てにケンタッキー州を訪れている。

今年のケンタッキー・バーボン・フェスティバルでは、新企画として正規価格でのチケット再販制度が導入された。これによってチケット売買が安全になり、二次市場での価格高騰も防がれている。

プライベートバレルの小売が人気

ケンタッキー州のウイスキー観光では、もうひとつの大きな変更があった。それは小売向けのプライベートバレル販売だ。店舗やバーとの提携関係が一切ない一般の人々でも購入できるのが魅力である。「ケンタッキー・アーティザン」「ウィスキー・シーフ」「エンジェルズ・エンヴィ」「バザーズ・ルースト」などがこのプロジェクトに参加済みだ。通常のバレルだけでなく、予算に合わせて小容量のバレルで販売される場合もある。

このプライベートバレル販売について、エリック・グレゴリー会長は経緯を語る。

「ここ10年ほど、私たちはプライベート・バレル・セレクションこそがウイスキー観光の未来だと話しあってきました。でもコロナ禍の最中に、ABC(アルコール飲料管理局)から電話があって私たちのプライベート・バレル・セレクションは基本的に違法だと言われました」

名匠ゴードン・モーションの基本方針は受け継ぎ、一貫性を保ちながら新たな創造も加える。ウイスキーづくりの継承は、時間のかかる複雑な作業だ。

すでに50年間も続けてきた実績があるにもかかわらず、役所の言い分には法的な根拠がなかったとグレゴリー会長は言う。つまり法律が存在しなかったのだ。

確かに許可する法律はなかったが、禁止する法律もなかった。ケンタッキー州の酒造法は、前時代的なホワイトリストで書かれている。明示的な許可がなければ、すべて禁止という考え方なのだ。

「当局には蒸溜所の利益を守ろうという意思もあったので、私たちは多くの関連法を改正しました。プライベート・バレル・セレクションを合法化しただけでなく、ギフトショップでも販売できるようになりました。三段階の流通システムを経由せずに販売しているケースもあります」

このような改革こそが、州外からの旅行者を再びケンタッキーに呼び寄せている。ケンタッキーの蒸溜所は、どこもバーボン愛好家のために新しい体験や空間を提供しようと努めているのだ。プライベート・バレルは、その氷山の一角に過ぎないとグレゴリー会長は言う。

「蒸溜所各社は、新しい旅行者やリピーターを引きつけ続けようと絶えず新たな取り組みを模索しています。ウイスキー・シーフのウォルター・ザウシュは、本当に素晴らしい功績を打ち立てました。フランクフォートの蒸溜所でみずからトウモロコシを栽培し、樽出しで試飲できる取り組みも定着しました。これはウォルターが創始した試みです」

ルイビルにあるウィスキー・シーフのテイスティングルームも、他のテイスティングルームとは一線を画している。夜遅くまで営業しているし、ジャズナイトも開催している。ウォルター・ザウシュは、ルイビルの観光業界に新しい基準を確立しつつある。

試練を乗り越えて強くなれ

蒸溜所の裏側を見学できるツアーや、高級テイスティング付きの限定ツアーを実施する蒸溜所も増えている。この変化に対応するのが急務だとグレゴリー会長は言う。

「長い週末に『ケンタッキー・バーボン・トレイル』を駆け足で回るだけのスタイルはもう終わりました。ここに来る人たちは、それをよく理解しています。レンタカーやツアー会社ですべての蒸溜所を巡ったり、スタンプラリーに参加したり、無料のTシャツをもらったりする体験はもう古いんです。トレイルに参加する蒸溜所は約70軒もあります。みんなペースを落として、ひとつひとつの体験をじっくり味わい、また訪れてもらえるように勧めています」

オータム・ネザリーはジェフサ・クリード蒸溜所の共同オーナー。オペレーション担当バイスプレジデントとして製造部門を管轄する。

ケンタッキーバーボンが特に優れているのは、絶えず自己改革を続けていく精神だ。ケンタッキー州のウイスキー業界は、これまでも好不況のサイクルを何度も経験していた。それでもなお、ケンタッキー州の経済を代表する産業であり続けている。グレゴリー会長は言葉に力を込める。

「10年後には、ケンタッキー・バーボン・トレイルが年間500万人以上を惹きつけるようになっていると期待しています。カリフォルニアやニューヨークからの訪問者をさらに増やしたいところです」

国際的に見れば、ケンタッキー州のウイスキー観光にも依然として未開拓の市場は残されている。国外客が訪れるようになるには、貿易政策やカナダの反米感情などの多くの問題を克服していく必要もあるとグレゴリー会長は語る。

「反米感情を克服するために、引き続きさらなる努力を続けなければなりません」

今後10年以内に、20世紀初頭からバーボン革命を牽引してきた互恵的な『ゼロ対ゼロの関税』に再び戻れることをグレゴリー会長は願っている。

「希望は持っています。これまでの100年を振り返っても、禁酒法などのあらゆる試練がケンタッキー州のバーボン業界に課せられてきました。それでも私たちは、そんな試練を常に乗り越えて強くなってきたのです」