世界経済の混乱で揺れるウイスキー業界。渦中にあるケンタッキーバーボンの現状を伝える2回シリーズ。

文:マギー・キンバール

米国のウイスキー業界は、ここ1年も厳しい状況が続いている。政府機関の閉鎖によって、酒造業界は経済の見通しがないまま独自判断を余儀なくされた。関税の適用や撤廃に翻弄され、海外産のボトルやコルクを輸入する原材料コストが流動化した。このようなコストは、予告なしに1日で数十万ドルも変動する可能性がある。そのため安定した事業運営がほぼ不可能に近い状況となった。

米国蒸溜酒協会(DISCUS)の報告によると、2024年から2025年にかけて蒸溜酒メーカーに務める20%以上が職を失った。その一方で、同期間におけるアメリカンウイスキーの出荷量と売上高の減少はわずか1%にとどまった。

パースート・スピリッツのケニー・コールマン(左)とライアン・セシル(右)。は、ルイビルで画期的なビジター体験を繰り出している。メイン写真はO・H・イングラム蒸溜所。ミシシッピ川に浮かぶ船上貯蔵庫で熟成する。

バーボンの聖地であるケンタッキー州も、このような市場の課題や変化に正面から向きあってきた。それでも2025年における「ケンタッキー・バーボン・トレイル」の訪問者数は270万人に達している。ケンタッキーバーボンの勢いが、すぐに衰えることはなさそうだ。

ケンタッキー蒸溜酒造協会(KDA)のエリック・グレゴリー会長は、次のように語っている。

「在庫の再調整に追われている蒸溜所が、今もなおケンタッキーには存在します。昨年はジムビームの工場整理が発表されました。バーズタウン・バーボン・カンパニー(BBC)やグリーンリバーのように、減産を決めた蒸溜所もいくつかあります。それでも私たちは、カナダの問題が早期に解決できると期待しています。カナダでの販売を本格的に再開できれば、業界にとって活力の源となるでしょう」

これからの数年間がどうなるか、業界は慎重な懸念と楽観的な期待の両方で揺れ動いている。そんな空気についてグレゴリー会長は語る。

「お話をうかがったメーカー関係者は、みな今年と来年の2年間を一種の猶予期間と捉えているようです。この間に事業を再び軌道に乗せ、在庫を再調整し、取引上の問題などが解決されることを期待している人たちがほとんどでした。来年が終わる頃には、業界の将来について今よりも安定した予測が立てられるようになるでしょう」

新しい状況に応えるメーカー各社

この1年間を振り返ると、やはりバーボンの販売は低迷している。だがそれでも本場ケンタッキー州のバーボン業界だけに目をやると、数多くの前向きな進展も見られた。

ヘブンヒルのスプリング蒸溜所は、昨年9月に正式に開業してウイスキーの生産を始めた。ヘブンヒルは1996年の大火事でバーズタウンの蒸溜所施設を焼失したが、昨年ようやくスピリッツ製造の一部をバーズタウンに取り戻したことになる。

禁酒法以来900万樽目のウイスキーを樽詰めしたバッファロー・トレース。蒸溜所内に新設したカフェも好評だ。

ジャクソン・パーチェス蒸溜所は、ケンタッキー蒸溜酒造協会のヘリテージ会員となって、自社ブランドの熟成済みウイスキーを販売し始めた。パースート・スピリッツは、ルイビルの有名な「ウイスキー・ロウ」沿いにビジター体験施設を開設し、地下に禁酒法時代のもぐり酒場をイメージしたカクテルバー「トライアル+エラー」を併設した。

バッファロー・トレースは、蒸溜所内にビジター待望のランチスポット「ジョン・G・カーライル・カフェ」をオープン。そして2025年9月には、禁酒法以来900万樽目となる記念すべきウイスキーを樽詰めした。

建設会社のコッター社は、史上初めての7階建て貯蔵庫「K-Rax」を完成させた。これは受託専門のウイスキー蒸溜所「ウィスキー・ハウス・オブ・ケンタッキー」の施設である。従来型のリックハウスよりも安全性が高く、完全に新しい設計の貯蔵庫として注目されている。

ケンタッキー・バーボン・トレイルの地図には、2026年だけで11カ所以上の新拠点が追加された。

新しい見所も続々と登場

新顔を挙げてみると、ルイビルとブランデンバーグの2箇所にある「ホイッスル・ピッグ」、アンクルブージー(ルイビル)、J・マッティングリー1845(ルイビル)、ダークアーツ・ウイスキーハウス(ルイビル)、LFヘリテージ蒸溜所(ルイビル)、レフトバンク蒸溜所(ルイビル)、チキンコック(ルイビル)、グリーンリバー・テイスティングルーム(ルイビル)、そしてジェネラル・ジョージ・スティルハウスやパープルトード・ワイナリー&ディスティラリーなどである。

バーボン・ウィメン協会は2026年に設立15周年を迎え、これを記念して多数の女性ディスティラーや女性ブレンダーが一堂に会して共同のブレンド「ウィスキー・シーフ」を創作した。

キリンビールは「フォアローゼズ」をカリフォルニアのガロに売却した。カナダ資本のシーグラム社に買収された1943年以来、フォアローゼズは約80年ぶりにアメリカ資本に戻ったことになる。またフォアローゼズは史上最高酒齢となる21年熟成のウイスキーを発売した。

設立15周年となったバーボン・ウィメン協会は、共同でウィスキー・シーフの原酒をブレンド。バーボン業界の新しい時代を感じさせる。

ケンタッキー州シェルビービルには「ザ・ブレンディング・ハウス」が開設され、ザ・スピリッツ・グループとコッター社が貯蔵庫「K-Rax」のプロトタイプをここに建設した。

オータム・ネザリーがジェフサ・クリード蒸溜所のオペレーション担当バイスプレジデントに就任し、リサ・ウィッカーがウィスキー・シーフ蒸溜所の蒸溜担当ディレクターに就任した。

O・H・イングラム蒸溜所では、ついにビジター向けの一般公開が始まった。川に浮かぶ世界唯一の舟形貯蔵庫が自慢である。ポッター・ジェーンは、初めて熟成済みのウイスキーを発売した。これが実は外部の蒸溜所から調達した原酒をブレンドした製品だったので、自嘲気味に「ビッグ・ヴァット・ライアー」という名で売り出した。「外部からの原酒調達は一切おこなわない」という当初からの公約に反したためである。

グリーンリバーやバーズタウン・バーボン・カンパニーが減産に踏み切ったのをはじめ、ケンタッキー州全域で数多くの事業の一部縮小がおこなわれている。

バレル・クラフト・スピリッツは新設の施設を売却し、生産拠点をすべて元の施設に戻した。またジムビームはクレルモン蒸溜所での生産を一時停止し、現在はケンタッキー州ボストンにあるブッカー・ノウ工場ですべての生産を賄っている。またブラウン・フォーマンは、数十年にわたって運営してきた樽製造工場を閉鎖した。
(つづく)