カナディアンウイスキーの基礎知識【第2回/全3回】
文:メル・ハック
密造だが合法という状況を生み出した禁酒法とウイスキー輸出
カナダは米国に近接していたため、米国の禁酒法時代(1920〜1933年)にはウイスキー産業で優位に立つことになった。全米にあった蒸溜所のほぼ99.7%が地下に潜るか生産停止に追い込まれた一方で、ウォークビル(カナディアンクラブ)やシーグラムズといったカナダ産メーカーは法的な抜け穴を巧みに利用したのである。
実はカナダでも、1901年から1948年までは独自の禁酒法を実施していた(ただし州ごとに差異はある)。それでも決定的に重要なのは、カナダの連邦法がアルコールの製造と輸出を禁じていなかったという点だ。
その結果として、国境を越えた密輸が急増することになる。特に五大湖地域では、カナダ産のウイスキーがアル・カポネら米国のギャングの手によって非合法な販売ルートを見出した。最盛期には、アメリカに密輸された酒類の75%がオンタリオ州ウィンザー発という状況だった。
この禁酒法時代が、カナディアンウイスキーの「信頼できる品質で、なおかつ飲みやすい」という評判を確立した。その一方で、「無個性な大量生産のウイスキー」という不当な固定観念が広まったのも同じ時代である。このような禁酒法時代のイメージから脱却するため、カナディアンウイスキー業界はここ数十年にわたって懸命な努力を重ねてきた。
静かな復興から生まれた21世紀のカナディアンウイスキー
かつて19世紀半ば頃には、カナダ国内に200軒以上のウイスキー蒸溜所があった。それが20世紀末を迎える頃には、業界再編と禁酒法時代の余波で25軒にまで減少していた。それが一転したのは、今日のカナダにおけるクラフト蒸溜ブームである。カナダのスピリッツ業界は劇的な復活を遂げており、400以上の蒸溜所が操業中だ。そのうち約300軒がウイスキーを生産している状況である。
現代のカナディアンウイスキーの製造者たちは、銅製ポットスチル、単一穀物、革新的な樽熟成、透明性の高い製造方針などの新しい試みを積極的に取り入れている。その成果として生まれたウイスキーは、大胆で表現豊かな味わいがファンに受け入れられ、世界市場でもますます競争力を高めている。
カナダの独占的なライウイスキーの地理的表示がもたらした混乱
近年に興味深い動きに、EUで「ライウイスキー」という呼称がカナディアンウイスキーの代名詞となったことが挙げられる。これは実際のライ麦含有量に関わらず、ライ麦を原料にしたカナダ産ウイスキーすべてに当てはめられるルールだ。現在のカナダ国内法では、「ライウイスキー」「カナディアンウイスキー」「カナディアンライウイスキー」がすべて法的に同義として扱われる。
このルールは原料配合を反映したものではなく、カナディアンウイスキーの伝統がもたらした奇妙な帰結ともいえる。個人的には、消費者の誤解と混乱を招くような悪法だと考えている。ライウイスキー生産者の一人としても、苛立たしい状況になっている。
しかもこの混乱は、しばらく収まりそうにない。地理的表示の「カナディアンライウイスキー」は、2005年からEUの法規上で正式に保護されてきたが、昨年になるまで一度も施行されたことがなかった。ところが現在、2005年からライウイスキーを製造してきたデンマークのスタウニング蒸溜所を始めとするヨーロッパの蒸溜所は、自社ウイスキーのブランド名と表示を「ライウイスキー」から「デンマークウイスキー」に変更せざるを得なくなってしまった。
業界誌「ウイスキーカスク」のインタビューで、スタウニングの代表者は熱心に訴えている。
「私たちはこの不条理と戦っていきます。原料の穀物の名前を主張できない現在のルールは間違っています。原料名の『ライ』がカナダに独占されており、『カナディアンライ』ならOKでも『ライ』という言葉をEUで主張できないなんて、道理が通りません」
ラベルに「カナディアンウイスキー」と表示する条件は、使用するスピリッツがカナダ国内で栽培された穀物原料を使用し、製粉、蒸溜、熟成が国内でなされ、穀物(必ずしもライ麦ではない)を原料とし、アルコール度数94.8%以下で蒸溜され、小樽(容量700リットル以下)で最低3年間熟成され、アルコール度数40%以上でボトリングされていることである。カラメル色素(E150a)の使用は許可される。
ウイスキーの熟成期間を法で定めたことも、カナディアンウイスキーにとっては革新的な出来事だったが、国際的にはほとんど評価されていない。カナディアンウイスキーは1887年に最低1年の熟成が義務付けられ、それが後に2年以上とハードルが上がり、1974年には3年以上という基準に引き上げられた。
実はこのような熟成期間の法規制は、1887年の時点で世界初の試みだった。カナダが世界に先駆けて、1915年に英国がようやく追随しているという歴史も面白い。
(つづく)






