ニュージーランドの山岳ウイスキー【後半/全2回】
文:文:ヘザー・ストルゴー
スピリッツブランドのザ・カードローナは、2023年にタイの飲料会社インターベブ(InterBev)によって買収された。
同社はスコッチウイスキーのスペイバーン、プルトニー、バルブレアも所有しており、タイ初のシングルモルトウイスキーブランド「プラカーン」も立ち上げた新興大手だ。スコットランドの有力蒸溜所とニューワールドウイスキーの蒸溜所を網羅する面白いポートフォリオで、伝統と革新を両立させた事業構成が注目されている。
ニュージーランドの現地チームによると、この買収は蒸溜所にも好影響をもたらしているようだ。インターベブは、これまでのカードローナの取り組みを継続させている。その一方で、原酒をより長期間にわたって熟成させられるように資金面での支援も提供した。
ザ・カードロナのヘッドディスティラーを務めるサラ・エルソムは、インターベブの世界的な蒸溜所ネットワークに加わるメリットにも期待を寄せている。
「世界的な横のつながりから、豊富な学びの機会が得られます。これまでにも蒸溜担当者がスコットランドへ赴いて技術を学んできました。系列のメーカー各社から、情報共有の動きも広がっています」
もちろん今後は販路拡大へのチャンスもうかがえる。インターベブは今年から米国での拠点を拡大し、ニューヨークのマンハッタンに駐在するチームが市場経路を独自に管理できるようになった。
ザ・カードロナが2024年に発売したウイスキー「ザ・ファルコン」は、ワールド・ウイスキー・アワードでスモールバッチ・シングルモルトの部門賞を受賞した。この栄誉によって、蒸溜所への関心はワンランク上がった。
世界的なアワードでの認知は、ブランド設立以来の切望でもあった。この受賞の喜びについて、サラは語ってくれた。
「世界市場でしっかり認知してもらうには、やはりアワードの受賞を示す金色のステッカーほど役に立つものはありませんからね(笑)」
ニュージーランドは、英国や米国といった世界的な酒類メディアの中心地から遠く離れている。しかもカードローナ蒸溜所は、国内でも辺境の地にある。だから世界のウイスキー業界から評価された実績は、大きな後押しになったのだとサラは言う。
「私たちのウイスキーに寄せられたレビューを読んだり、遠く離れた米国の人々から反響をいただいたりするのは、とてもワクワクする体験でした」
村おこしのモデルケース
蒸溜所のスタッフが抱く誇りは、カードローナの地元住民たちも共有している。この誇りこそが、この事業でもっとも重要な部分だ。住民たちは、村の外からやってきた訪問者たちとよく立ち話をして、一緒に蒸溜所を訪ねたりする。コミュニティの拠点として、蒸溜所を利用しているのだとサラは説明する。
「この地域の出身であるという帰属意識だけでなく、初期の樽にも愛着を感じている住民は多いんです」
そんなサラの言葉に、メアリー・リーも同意する。
「カードローナのウイスキーは素晴らしいですよ。うちでも家族で樽を保有して、その一部はもうボトリングしています」
村は成長し、現在も新しい住宅が建設中だ。それでもコミュニティの絆は、決して失われていない。そんな住民同士の結束を蒸溜所のスタッフ全員が強く感じているのだ。
懐かしい映画『ローカル・ヒーロー』(1983年)の中で、印象深いシーンがある。スコットランドのハイランド地方で、テキサスの実業家のマックがロマンチックな生活に憧れる。そこにロシアからやってきたヴィクターが現実を突きつける。
「どんなに美しい景色でも、腹の足しにはならないよ」
自然が美しい地域では、世界中でこんなメッセージが繰り返し語られてきた。旅人として訪ねた者は、その土地の美しさを一時的に楽しめる。だがその美しさを生み出している自然の厳しさこそが、地元での生活を一層困難にしていることも多い。
だがメアリーやジョンやデジレーのような人々は、別の方法で活路を見出す。彼らはチャレンジを愛し、その土地の強みを適切に活かそうと決意する。そんな人々のおかげで、カードローナは土地の美しさをビジネスに結びつけ、地域社会を支えるモデルに変えてきた。
メアリーの夫であるジョン・リーは、2025年12月に逝去した。その功績を称える追悼式が、カードローナ蒸溜所でおこなわれた。
メアリーとジョンの家族は、蒸溜所を我が家のように愛している。蒸溜所には年間25万人以上の来客がある。ジョンの挑戦が観光開発の礎を築き、その上に蒸溜所の成功が花開いた。約60年前に始まったジョンの取り組みのおかげで、世界中のウイスキー愛好家がカードローナの名を知りつつあるのだ。
ジョンの逝去から間もない時期に取材を快く受け入れ、貴重な逸話を教えてくださった未亡人のメアリーに心からの感謝を捧げる。







