春宵のモルトバー「WODKA TONIC」

March 25, 2013

 桜咲く夜道は、駅からはすこし離れた西麻布に向かう足も軽くしてくれる。酔っぱライター 江口まゆみが今回訪れたのは、西麻布の老舗「ウオッカトニック」。モルト通をも唸らせるこの名店で、ちょっと変わったウイスキーの楽しみ方を体験した。

ウオッカトニックは、西麻布の裏通りに開店して27年。
開店当初はまだウイスキーの情報は少なく、ここが情報発信基地のような役割を果たしていた。現在のマスター山田一隆さんは、バーテンダーになりたての頃からこの店に通っており、「ウオッカトニックイズムを先輩たちに色々教わりました」と笑う。
1000本以上あるモルトには稀少品も多々あるが、けしてマニアな店ではない。隠れ家的な場所にあるが、常連だけの店でもない。どんな気分で来ても、誰もが店を出るときは笑顔になって帰って行く。そんなサービスとお酒を提供することを、ウオッカトニックイズムというのだろう。

今夜の一杯目は、グレンリベットのお湯割りをすすめられた。春はまだ浅く、夜になると冷えてくるようなこの頃。ビールよりも体に優しそうだ。出てきたのはガラスのティーカップに入った温かい飲み物。意外とウイスキーの匂いがツンとくることはない。
そこにまずオレンジピールを浮かべて飲む。甘い香りのせいか、少し甘みが増したように感じる。さらにシナモンスティックを2〜3度回して香りをつけると、スパイシーな風味が加わる。最後にクローブを二粒落として飲むと、甘みとコクが加わり、深みが増してくる。最後にカルバドスを一滴。するとリンゴの香りが際だって、がぜんフルーティーになるのだ。ティーカップで飲んでいることもあり、まるでハーブティーを味わうようにウイスキーを飲んでしまった。山田マジックである。

私が「カルバドスは好きな酒なので最後が一番おいしかったです」と言うと、「では山田ハイボール、通称『山ハイ』はいかがでしょう?」と山田さん。「山ハイ」とは、グレンリベットをソーダで割り、その上にスプーンを使ってカルバドスを浮かせるのである。ブレンデッドウイスキーにキーモルトを浮かせることはよくあるそうだが、カルバドスは珍しい。
飲んでみると、初めにリンゴの香りが立って、だんだんと香りが薄れ、最後にはウイスキーになるという仕掛け。これも山田マジックだ。ウイスキーが飲めないというお客さんに出すと、効果てきめん。「これなら飲める」といって飲んでいるうちに、いつの間にかウイスキーが好きになってしまう人が多いそうである。

山田さんが最後にセレクトしてくれたのは、アードベッグ
アードベッグには6年のベリーヤング、7年のスティルヤング、9年のオールモストゼア、10年のルネッサンスがあるのだが、私のチョイスはオールモストゼア。
なぜかというと、どこかで聞いたことがあるので、ラベルを見たか、飲んだことがあるか、どちらかだと思ったからである。遠い記憶のその酒を飲んでみると、まるでチャコールを食べているかのような強いスモーキーフレーバー。そして、長い長い余韻……。しみじみといい酒である。

すっかりいい気分になったところで、少し小腹がすいてきた。すると山田さんが、名物の2色カレーを、お茶碗サイズで出してくれた。
赤と黒の2色のカレーで、赤い方はタマネギ50個分を8時間かけ炒め、肉野菜とともに10日間煮込んでスパイスを加えたもの。黒い方はさらに黒胡椒をふんだんに入れ、コーヒーやチョコレートが隠し味になっているとか。
どちらも旨いが、とくに黒い方が激ウマ!「お酒飲みの方は、皆さん黒い方を好まれますね」とのことである。

ウオッカトニックは、深夜でもしっかりおいしい料理が食べられる店としても有名で、深夜0時を回ると厨房が忙しくなり、朝5時すぎまで賑わっているという。なんとラストオーダーが朝4時というから驚きだ。
「お客様に『今日はすごくおいしかった』『楽しかった』と言われるのが嬉しくて」と楽しそうに話す山田さん。いやいや、私のほうこそおいしくて楽しくて、時が経つのを忘れてしまった。きっと今夜も誰かが山田マジックにかかっているに違いない。

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