モリソン家の復活を告げるシングルモルト
文:ブラッドリー・ウィアー
長い歴史と伝統があるウイスキー業界でも、消え去ったと思われていた蒸溜所や生産者がしばしばカムバックを果たす。近年もっとも注目を集めたカムバックといえば、名門モリソン家の復活であろう。その象徴が、アバラーギー蒸溜所から初めて発売されるシングルモルトウイスキーだ。
モリソン・ボウモア・ディスティラーズをサントリーに売却した1994年以来、モリソン家はウイスキー業界から長く遠ざかっていた。だが2020年にモリソン・スコッチ・ウイスキー・ディスティラーズとして再出発し、新しいアバラーギー蒸溜所で独自のウイスキーづくりを続けてきた。
モリソン・ボウモアを運営していた頃のモリソン家は、何十年にもわたってスコッチウイスキー業界の重鎮だった。ボウモア、オーヘントッシャン、グレンギリーなどの有力蒸溜所を所有していたが、1990年代に事業が売却されると20年以上にわたって直接的なウイスキー製造から身を引くことになる。
モリソン・スコッチ・ウイスキー・ディスティラーズの社長を務めるニールス・ヘンドリクスは、アバラーギー蒸溜所から初めての商品がようやくリリースされた経緯について次のように語ってくれた。
「アバラーギーでは、2017年からスピリッツの蒸溜を再開していました。当初から、発売までしばらく時間がかかることもわかっていました。実際は2021年くらいからウイスキーを発売できたのですが、ウイスキー100%の安心感と自信が持てるまでボトリングは待つことにしました。品質を最優先していたら、結局2026年までかかったというわけです」
リリースされたウイスキーは、アルコール度数48.2%でボトリングされたノンチルフィルターのシングルモルトだ。
アバラーギーは、この記念すべき商品の香味に自信を持っている。焼きリンゴやペストリーのような香りに、豊かで奥行きのある風味が寄り添う。サルタナやプルーンを思わせるジューシーな果実味がバランスを取り、ハーブのような余韻がいつまでも続く。熟成には、ファーストフィルのバーボン樽とファーストフィルのシェリー樽を組み合わせている。
原点回帰の農場蒸溜所
アバラーギー蒸溜所は、スコットランドのパースにある。ローランドでありながら、ハイランドの玄関口とも見なされるテイ川右岸の街だ。パースは歴史のある古都で、15 世紀の中頃までスコットランドの首都だった。
この地で「大麦からボトルまで」を標榜し、自社所有の300エーカーの農場で大麦を栽培しているのがアバラーギー蒸溜所である。
アバラーギー蒸溜所は、まさしく農場蒸溜所(ファーム・ディスティラリー)を絵に描いたような立地にある。大麦畑のただ中に建つ蒸溜所施設は、大地とスピリッツの強い絆がひと目で理解できるような風景だ。
そして文字通りに、大麦畑からボトリングまでの全工程が高度に管理される。その精緻なつくり込みは、多くの人が驚くほどの水準だ。大麦栽培の時点から、アバラーギーは独自の風味を生み出すための農法を実践している。モリソン社で蒸溜業務全般を統括するグレアム・マッケディ運営部長は次のように語る。
「この農場は、蒸溜所ができる何十年も前からありました。蒸溜所設立の10年以上前に、アバラーギーは農場の所有権を獲得したんです。その当時から、再生農業を推進していこうという意欲がありました」
農業や大麦栽培におけるマッケディの経験と知識は、アバラーギーの理想を実現する上で計り知れない価値をもたらしている。
「わたしたちは、農家であると同時にウイスキーメーカーでもあります。だからこそ、アバラーギーのコンセプトそのものにおいて、最初から少し違ったことを成し遂げたいという野心がありました」
いわゆる再生農業は、現代の農業において重要なテーマのひとつである。再生農業を実践することで、新しい考え方を表明するウイスキーメーカーも一部で現れてきた。土壌の健康と生物多様性の回復に焦点を当てた再生農業は、自然の摂理に基づいた農法である。
たとえば被覆作物の栽培や家畜の放牧によって土壌を健全に保つプロセスも、アバラーギーにとって重要な再生農業の実践となる。このような農法は、農業業界全体でも再び注目されつつあるのだとマッケディは言う。
化学肥料や農薬に頼った農家のアプローチは、メディアでも批判されることが増えた。アバラーギーでは、完全な有機栽培が現実的ではないと認めつつ、化学物質や肥料の使用について可能な限り責任ある姿勢をとっている。
大麦品種にもこだわった独自の香味
このたび発売されたアバラーギーのウイスキーは、ゴールデンプロミス種の大麦52%、ローレイト種の大麦48%でモルト原料を構成している。すべての大麦を蒸溜所の敷地内で栽培することにより、畑からスピリッツに至るまでの完全なトレーサビリティを維持できる。
グレアム・マッケディは、ゴールデンプロミス種の使用について悩んだこともある。やや脆弱で栽培が難しい特性が、リスクと見なされることもあったからだ。それでもゴールデンプロミス種のメリットは、デメリットをはるかに上回っていたのだとマッケディは語る。
「ゴールデンプロミス種には、ウイスキーの原料としても素晴らしい歴史があります。風味構成、リッチなコク、オイリーな酒質などが、名門ブランドに好まれてきました。わたしたちも、創業当初から伝統品種を積極的に取り入れたいという野心がありました。ゴールデンプロミス種は、アバラーギーの方向性を模索するときに最初から最有力候補のひとつでした」
アバラーギー蒸溜所は全工程の自社管理を実現しているが、ブランドを象徴するボトルのデザインだけはファルマスにあるデザインエージェンシー「キングダム&スパロウ」の力を借りている。ラベルのデザインやブランディングなど、初リリースに向けたあらゆる準備を依頼したのだとニールス・ヘンドリクスは語る。
「ジョニーが率いるキングダム&スパロウのチームとは、約2年前から仕事を始めました。そしてすぐに相性の良さを実感したんです。アバラーギーのブランドアイデンティティ全体をデザインしてもらったので、長期的なコラボレーションになるでしょう。初回リリースのラベルだけに留まらず、ずっとアバラーギーに関わってくれると思います」
最初の商品は、英国で3月初旬にリリースされたばかりだ。だがこれは新しい歴史の始まりに過ぎない。ウイスキーそのものの香味については、今後数年にわたって一貫性が期待できるとニールは言う。
「社内で多くの実験が進行中です。全体的な目標としては、まず誰もがわかるアバラーギーらしさを確立すること。創設から15年以内に、アバラーギーという名前を聞いた人がすぐ高品質なウイスキーを連想してもらえるようになりたいですね」
偉大なバンド「オアシス」は、再結成後に世界ツアーを成功させている。ウイスキー業界にカムバックしたモリソン家も、現代の生産技術や農業の限界を押し広げている。
単に伝統に回帰するだけでなく、業界に独自のアイデンティティを刻み込んだ名門の一族。新しい「アバラーギー」のウイスキーによって、モリソン家は再び新しい歴史を歩み始めたばかりだ。








