アイリッシュウイスキーの総点検【第2回/全3回】
業界最大手のメーカーから新興のクラフト蒸溜所まで、それぞれの課題に挑むアイリッシュウイスキー業界。第2回は注目の4社についてレポート。
文:マーク・ジェニングス
クロナキルティ蒸溜所
アイリッシュウイスキーの成長は、まだ消え去っていない。それを証明したのが、ウェスト・コークにあるクロナキルティ蒸溜所だ。公共性の高い優良企業に与えられるBコープ認証を取得し、中国、スロバキア、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ポルトガル、スペインでの販売網を拡大した。

2018年にコーク州南部で誕生したクロナキルティ蒸溜所は、新進メーカーながら伝統的なアイルランドのライフスタイルを打ち出している。大麦も自前で栽培した高品質なシングルポットウイスキーが人気だ。メイン写真もクロナキルティ提供。
アイルランド国内の売上高は前年比16%増となり、米国事業では2026年上半期に32%の増加を記録している。国際市場での成長率も、前年に引き続いて一桁台後半を維持した。
クロナキルティ蒸溜所の独自性を追求したスピリッツは、ますますラインナップの中心になりつつある。シングルポットスチルウイスキーは、現在7年熟成の商品として販売されている。また「ダブル・オーク」と「ポート・カスク」の各銘柄も、クロナキルティ蒸溜所でつくった原酒のみを使用したシングルポットスチルウイスキーのレシピに移行した。
蒸溜所が新設した「ウイスキー・クルー・クラブ」では、初回リリースとなる「クロニクルズ・オブ・ザ・コースト」が数時間で完売。創業者のマイケル・スカリーによると、消費者はコストパフォーマンスを重視するようになってきた。そのため製品ラインナップを手頃な価格帯の商品へと調整したのだという。樽10,000本を収納する貯蔵庫の建設許可も取得しており、2027年には着工する見込みだ。
エクリンヴィル蒸溜所
エクリンヴィル蒸溜所は、初めてのシングルポットスチルウイスキーを発売した。かつて近隣で運営されていたオールドコンバー蒸溜所の銘柄「オールドコンバー」の記念すべき復活である。
蒸溜所が所有する農場で栽培し、自社内で製麦。その後のスピリッツ製造とボトリングも敷地内で完結した7年熟成のウイスキーだ。
これは歴史ある「オールドコンバー」にふさわしいポート樽とシェリー樽のフィニッシュが特徴で、ちょうどオールドコンバー蒸溜所の創業200周年に発売できた。2026年後半には、さらに長期熟成のシングルポットスチルウイスキーを熟成年数の表示付きで発売する予定だ。
エックリンヴィルが復活させたウイスキーブランドのポートフォリオで、もっとも酒齢の高いブランドといえば「ダンヴィルズ」だ。ダブリンの老舗ウイスキー店「ジェームズ・J・フォックス」の創業145周年を記念して、エックリンヴィルでも最長酒齢となる25年熟成のシングルモルトを発売した。
また「ダンヴィルズ」はアルマニャック樽でフィニッシュを施した21年熟成シングルモルトも発売し、これが同社で初めてのブランデー樽フィニッシュとして話題になった。さらに3種類の新製品も加えた「ダンヴィルズ」は、アイルランドの空港を中心にしたトラベルリテール市場での存在感を高めている。
市場全体が厳しい状況にあるにもかかわらず、エックリンヴィル蒸溜所はインド、カナダ、南アフリカ、ハンガリーで新たな販売網を確保した。
アイリッシュ・ディスティラーズ
アイリッシュ・ディスティラーズの生産拠点であるミドルトン蒸溜所は、昨年で創立200周年を迎えた。このアニバーサリーを記念して、アーカイブのプロジェクト、各種イベント、限定品の発売が相次いだ。
この限定品には、「サイレント・ディスティラリー・コレクション」の最終章となる50年熟成のウイスキーや、ミズナラ樽を使用した28年熟成の記念エディション「ミドルトン・ベリーレア」も含まれる。
また「グリーンスポット」は、ブランド創設100周年を記念して再び熟成年数(10年)を表記するようになった。そして2026年に入ってからは、「レッドブレスト モスカテルワインカスクエディション」と毎年恒例の「ミドルトン・ベリーレア」のヴィンテージも発売されている。
商品の展開量は、依然としてアイルランドで他に類を見ないほどのスケールだ。市場が低迷しているにもかかわらず、アイリッシュ・ディスティラーズはシングルポットスチルウイスキーとグレーンウイスキーの熟成を継続している。
販売不振に陥った30年以上前にも、あえて生産量を積み上げたのがアイリッシュ・ディスティラーズだ。アイリッシュウイスキーの輸出は2025年に5%減少したが、ジェムソンのブランド、プレミアム製品の充実、世界的な事業展開への自信は変わらない。
ウイスキー製造の手を緩めないアイリッシュ・ディスティラーズは、原料生産への投資も推進した。バリーマロー農場と再生型農業の提携を結び、春大麦生産者284人が参加するサステナビリティへの取り組みも進行中だ。ミドルトン蒸溜所には2025年だけで11万2000人のビジターが訪れ、ダブリンのボウ・ストリート蒸溜所には年間30万人以上が足を運んでいる。
人事面でも大きな動きがあった。ペルノ・リカールの熟成スピリッツ・シャンパーニュ部門のトップには、日本法人のCEOも務めたノジェム・フアドが就任。アイリッシュ・ディスティラーズの会長にはトミー・キーンが任命された。樽工房を率いるマスタークーパーのガー・バックリーは、50年にわたる勤務を経て引退した。だが引退の前に、抜かりなく次世代の樽職人たちを育成している。蒸溜責任者のケビン・オゴーマンは、次のように述べている。
「この記念すべき年が、あらためて大事なことを思い起こさせてもらいました。それは未来に向けて革新を続けながら、その遺産を守り抜くことが私たちに課せられた最大の責任であるということです」
キローウェン蒸溜所
ダウン県のキローウェン蒸溜所は、あえて事業拡大を急がない方針を守っている。小ロット生産、長時間発酵、直火式蒸溜器、蛇管式コンデンサー、アイルランドの伝統に則ったマッシュビルに引き続き注力した。「キーローウェン バランテュイル」シリーズは「インボルク」の章に到達。神話、音楽、視覚芸術、地元の物語をウイスキーと融合させながら、発酵、樽、蒸溜スタイルでも実験を継続中だ。
その一貫性が評価され、2026年の「アイコンズ・オブ・ウイスキー」ではアイルランドの「クラフト・プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」に選出。さらに生産チームは「プロダクションチーム・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。
キローウェン蒸溜所は生産規模の拡大をしていないが、その代わりに品質、限定品発売、独自製法などでの話題作りに注力している。サステナブルな製造工程の実践も着実だ。翌日の糖化工程で使用するお湯は太陽光発電で温められ、使用済み穀物は家畜の飼料として近隣の畑に戻されている。
創業者でもあるマスターディスティラーのブレンダン・カーティは、これまでも商品の販売に全力を尽くしてきた。現在の全般的なウイスキー景気の減速は、新たな局面というよりも周期的な現象ではないかとカーティは分析している。
アイリッシュウイスキー特有のスタイル「ポットスチル」の定義は、ようやく将来を見据えて改訂されようとしている。この状況下でカーティが期待するのは、ますます商品知識が豊かになってゆく消費者が、キローウェンのような独自製法と製造工程への透明性を支持してくれることである。
(つづく)






