百年前のマッカラン【後半/全2回】

6月 3, 2026

マッカランの努力とマーケティングで、ウイスキーは芸術作品の仲間入りを果たす。百年後の傑作は、今日つくられているかもしれない。

文:ヘザー・ストーガード

ウイスキーが熟成年数を重ねるにつれ、熟成樽の慎重な管理が重要になっていく。マッカラン蒸溜所にとっても、熟成管理は明確な優先事項として記録されている。取締役会が1943年に残した議事録には、熟成原酒は「投資を枯渇させることなく、当面の経費を賄う目的に限ってときどき販売するに留める」と記されていた。

今から百年前に樽入れされた「カスク236」の場合は、その方針の結果として60年の長きにわたって熟成されることとなった。ボトリングされた時点で、このウイスキーはマッカラン史上で最高酒齢のウイスキーであった。

これほど壮大で特別なウイスキーには、相応しい発売告知が必要だ。超長期熟成のウイスキーは、高級品としての明確なポジショニングが鍵になる。マーケティングの巧みさも欠かせない。熟成年数の表示や、アーティストとのコラボは今や常套手段だ。だがボトリングされた1980年代には、どちらの手法もまだ目新しかった。

1892年にマッカラン蒸溜所を購入たロデリック・ケンプの家族。ケンプはシェリー樽熟成を積極的に導入し、シングルモルト路線に切り替えることで現在のマッカランの礎を築いた。

マッカラン会長のアラン・シャイアックは、アーティストとのコラボを積極的に仕掛けた。何しろ本人が、アラン・スコットという別名義で数々の映画を手掛けた名プロデューサーでもあるのだ。受賞歴を振り返ると、ダニー・ボイル監督の『シャロウ・グレイブ』、ロアルド・ダール著の『魔女がいっぱい』の映画化、最近ではNetflixのヒットシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』も手掛けている。

アラン・シャイアックは、銀幕の世界からウイスキーのボトルに芸術的な創造性を流れ込ませた。当初の「ザ・マッカラン 1926」は、2種類のボトルで発売されることになった。第1弾は、1987年に著名なポップアーティストのピーター・ブレイクにボトルのデザインを依頼した。続いて1993年に発売された第2弾は、イタリア人画家のヴァレリオ・アダミがラベルをデザインした。どちらもシングルモルトの既成概念を打ち破るスタイリッシュなアプローチを示している。

当時のボトル購入希望は、蒸溜所が直接受け付ける形だった。入札額は5,000ポンドに達し、当時世界一高価なスピリッツとしてギネス世界記録に認定された。その瞬間の興奮は、タイムマシンがあったらぜひ体験してみたいものだ。インフレ率を考慮すれば、現在の価値で15,000ポンド弱(300万円)ほどになるだろう。

今日では大した金額に聞こえないかもしれないが、シングルモルトがカテゴリーとして台頭し始めた時代には関係者を驚かせた。ハイエンドで独創的なウイスキーに対する信頼の証だった。

コレクター市場の誕生を導いた究極のウイスキー

そして2023年、ウイスキー・オークショニアは「ザ・マッカラン ファイン&レア 1926」の1本を100万ポンド(当時のレートで約1億7,500万円)で落札させた。オンライン限定オークションとしては、ウイスキー1本で100万ポンドを突破した初の事例になった。

ウイスキー・オークショニアを創業した現CEOのイアン・マクルーンのチームは、そのボトルが到着した日のことをよく憶えている。

「大局的な視点から見れば、まさに転換点だと感じました。ボトルをオンラインで提供することで世界中のコレクターとつながり、ウイスキー市場を民主化できます。かつては限られた人しか手に入れられなかったウイスキーが、以前には考えられなかった方法で提供できるようになったのですから」

サザビーズのウイスキー&スピリッツ部門グローバル責任者を務めるジョニー・ファウルも、これらのボトルに感嘆している。2023年に開催されたオークションでは、「マッカラン 1923」(ヴァレリオ・アダミのラベルデザイン)が218万ポンド(約4億円)という驚異的な価格で落札された。これは現在もスコッチウイスキーの世界最高額である。

サザビーズのジョニー・ファウルは、2023年のオークションでスコッチ史上最高額となる「マッカラン1923」(ラベルデザインはヴァレリオ・アダミ)の落札に立ち会った。

もちろんこれらのボトルは、一般の人々にとって雲の上の存在だ。それでもファウルにとっては、ウイスキーが単なる収集対象の領域から、アート、自動車、時計といったハイエンドなラグジュアリー市場へと移行した究極の証なのだという。

「ザ・マッカラン 1926がコレクターズ市場に与えた影響は、いくら強調してもしすぎることはありません」

結局のところ、コレクターズ・ウイスキーという新しいジャンルを生み出した大きな要因のひとつがマッカランの高額商品である。サザビーズのスピリッツ部門の売上高は、昨年だけで1億2750万米ドル(約200億円)と報告されている。

歴史を振り返ってみれば、「ザ・マッカラン 1926」が製造されたのはウイスキー業界に逆風が吹いていた時代だ。およそ傑作ウイスキーとは縁遠そうな状況で、あのような原酒が生まれたのだ。スペイサイドで大麦を栽培し、スピリッツを蒸溜した当時の人々も、あの原酒が現在の高みにまで至るストーリーは想像できなかったであろう。

このウイスキーがこれほどまでに伝説的な存在となったのは、偶然や個人の功績によるものではない。先見の明と革新的な思考を持つ人々が、適切な時期に、適切な場所で居合わせたおかげなのである。

数十年にわたって、マッカラン蒸溜所の経営陣、取締役、マーケティング担当者たちはたくさんの重要な決断を下してきた。そのひとつひとつの決断が、このウイスキーをラグジュアリー市場の頂点へと押し上げた。

サザビーズのジョニー・ファウルは、「ザ・マッカラン 1926」の記録が破られることはしばらくないだろうと予想している。だが100年という長い時間に思いを馳せてみれば、まったく意外なことも起こり得る。

未来の2120年代のオークション市場に、今日つくられたウイスキーが登場するかも知れない。今日この瞬間に、どれほど素晴らしいウイスキーが静かに樽入れされ、これから熟成を重ねるのか。運命のすべてを知る人は、誰もいない。

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