サム・ヒューアンのウイスキー愛【前半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
二人の間に愛が芽生え、物語はスコットランドとフランスの歴史を駆け抜ける。ジャコバイトの反乱から、最終的には北米での独立戦争へと展開していく。そんな壮大なロマンスや冒険が、世界中のファンを魅了してきた。このTVシリーズは2014年に放送を開始し、現在放送中の第8シーズンでフィナーレを迎える。ジェイミー・フレイザー役を演じるのは、スコットランド出身のサム・ヒューアンだ。クレア・ランダル役のカトリーナ・バルフと共演している。
サム・ヒューアンは、この『アウトランダー』のシリーズによって一躍スターの座に押し上げられた。『ラヴ・アゲイン』『バッド・スパイ』などのコメディ映画や、スーパーヒーローもののアクション映画『ブラッドショット』にも出演している。舞台にも定期的に登場しており、最近ではロイヤル・シェイクスピア・カンパニー制作の『マクベス』で主役を演じた。
スタジオ、ロケ地、劇場などで忙しく活動するサム・ヒューアンだが、実は俳優業に匹敵するほどスコッチウイスキーにものめり込んでいる。故郷であるスコットランド南西部で、自分の蒸溜所を持っているというから驚きである。蒸溜所を手に入れる前は、ジンとブレンデッドスコッチウイスキーのブランドを立ち上げていた時期もあるという。
サム・ヒューアンの蒸溜所は、ガロウェイ蒸溜所である。スコットランド南西部のニュートン・スチュワートにあり、ヒューアンが生まれ育ったカークカドブライトからもわずか数キロの場所だ。
ガロウェイ蒸溜所は、グラハム・テイラーによって2017年に設立された。設立当初はクラフティ蒸溜所という名のジン専門蒸溜所だった。そして2023年に「サセナッフ・ワイルドジン」を発売した頃から、サム・ヒューアンとの付き合いが始まった。
この「サセナッフ」という名前は、『アウトランダー』でジェイミーがクレアに付けた愛称である。スコットランドのゲール語で「よそ者」(イングランド人やローランド人)の意味を持つ。
サム・ヒューアンがクラフティ蒸溜所と協力して「サセナッフ・ワイルドジン」を創作する3年ほど前から、ヒューアン自身がプロデュースしたウイスキー「サセナッフ・ブレンデッドスコッチ」も市場に出回っていた。こちらのウイスキーは、ロッホローモンド・グループによってボトリングされた商品だ。ヒューアンはその開発に対する個人的な情熱について、周囲にも本気度を強調していた。
理想のスピリッツづくりを究める
ヒューアンには、さまざまなスピリッツの創造に関わった経験がある。スコットランド産の小麦、ブラックベリー、リンゴを原料にした「サセナッフ・ウォッカ」や、本格的なテキーラ「エルテキレーニョ・サセナッフセレクトレポサド」も発売している。
スピリッツづくりにおけるサム・ヒューアンのこだわりは、自分の手を加えながら詳細な理想を実現していくこと。ガロウェイ蒸溜所のマスターディスティラー兼コマーシャルマネージャーを務めるクレイグ・ランキンは、そんなサム・ヒューアンのアプローチを「悩み続ける職人肌」と評している。
そしてサム・ヒューアンは、2025年にガロウェイ蒸溜所を買収した。その経緯について、自身で次のように語っている。
「自分の蒸留所を持つというプロジェクトに、ここ数年間にわたって取り組んできました。ガロウェイ地方でウイスキーをつくるのは、私にとって故郷への帰還という意味があります。こんな素晴らしい場所の出身であることに、心から感謝しているんです。観光でスコットランドを訪れるみなさんは、本土の北部、スカイ島、グレンコーなどを目指しますが、ガロウェイにもあまり知られていない見所がたくさんありますよ」
ガロウェイ蒸溜所の購入を決めるまで、サム・ヒューアンは他の候補も検討したことを明かしている。
「他にも候補はありましたが、自分の心に照らして、まさにここがぴったりの場所だと感じたんです。蒸溜所のスタッフはみな地元の出身で、同じルーツを感じます。彼らと一緒に仕事をするのが、本当に楽しかったんです。これはチャンスに違いないと気づき、ガロウェイという地方にも確固たる蒸溜所や独自ブランドが必要だと決意しました」
そして昨年9月に、蒸溜所の名称を「クラフティ蒸溜所」から「ガロウェイ蒸溜所」に変更。新たな出発を記念するブランドの立ち上げイベントで、ヒューアンは次のように語った。
「まだ10歳の少年だった頃、私は廃墟と化したケンミュア城の高みに立ったことがあります。まるで勝利を収めた戦士のように、大地を見下ろしました。城壁のシルエット、崩れかけた塔、空っぽの窓、そして大きく開いたまま扉が、ギザギザした鬼の口のように見えました。自分がスコットランドの戦士や偉大な探検家になったつもりで、過去の秘密を解き明かしているような気分でした」
もちろんサム少年は、まだその後の自分の運命を知る由もない。
「数十年にわたって世界中を訪ね、異文化との出会いを楽しんだ後に、こうして文字通り幼少期の遊び場へと戻ってくることになるとは夢にも思いませんでした。だからみなさんにも、私のような時間旅行を体験していただきたいのです。ここガロウェイに残されている魔法のような時間をぜひ体験してください」
(つづく)







