サム・ヒューアンのウイスキー愛【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
この地でウイスキーをつくること、さらには名称を「ガロウェイ蒸溜所」とした理由には、「この地方にもっと注目してもらいたい」というサム・ヒューアンの願いが込められている。
「スコットランド旅行にも、新しい目的地が必要だと思っていました。ガロウェイはその個性をもっと打ち出し、たくさんの人を魅了する地域になるべきです。ここは本当に素晴らしい場所で、スコットランドの他の地域ともまったく異なった歴史があります。アイルランドまではわずか20kmほどで、対岸の明かりが見えるほど。マン島も見えるし、ソルウェー湾越しにイングランドの湖水地方も見えます。ヴァイキング、ローマ人、ゲール人の歴史が交錯する本当に特別な場所なのです」
サム・ヒューアンは、まさにガロウェイの観光大使として活動したいという思いも口にした。
「一言でローランド地方といっても、それはあまりに広大なエリアです。だからもっと細分化が必要だと思っていました。この近隣には、他にも数軒の蒸溜所があります。みんなで協力して、ガロウェイ地方の蒸溜所ツアーを企画できたら素晴らしいですね。この地域には見どころが山ほどあり、本当にまだ知られていない魅力がたくさん埋もれていますから」
ガロウェイ蒸溜所の生産能力は、現在のところ年間わずか1万リットル程度だ。ニッキー・ドチャーティ蒸溜所長は次のように説明する。
「マッシュタンの容量は0.5トンです。温度管理装置が付いた発酵槽が2槽あって、発酵に7日間をかけています。酵母は3種類を使っていて、そのひとつはビール酵母です。このビール酵母が、ニューメイクに深みを与えてくれます」
ドチャーティは、アードナムルッカン蒸溜所とノースユイスト蒸溜所で経験を積んできた。スピリッツ蒸溜においても、独自の知見を大いに活かしている。
「ポーランド製の蒸溜器が2基あります。フォアショットの時間を25分ほどとることで、銅との接触時間を長めにしてながら非常にゆっくりと蒸溜していきます。スピリットカットの幅を狭く設定することで、バターのような滑らかさとフルーティーな風味が得られるんです。こうやって素晴らしい口当たりのニューメイクスピリッツをつくりますが、典型的なローランド風のウイスキーをつくっているわけもありません。もっと力強く、懐の大きさを表現した風味を目標にしています」
クラフトの面白さを体現する蒸溜所
これまでにガロウェイ蒸溜所では約3,200本の樽にスピリッツを充填している。使用している樽の約90%がバーボン樽で、その他にもマデイラ樽、オロロソ樽、ペドロヒメネス樽で熟成中だ。現在のところ最高酒齢の原酒が3年に達しているが、近い将来にシングルモルトをボトリングする計画はないのだという。サム・ヒューアンが、その方針について語っている。
「真に素晴らしいガロウェイのウイスキーは、いったいどんな品質なのか。それを徹底的に探求します。ここには大麦畑が数カ所あって、自社で大麦も栽培しています。いずれはシングルモルトをボトリングしたいと考えていますが、最初のリリースはブレンデッドになるかもしれません。アイデアはたくさんありますが、シングルモルトはとにかく時間がかかるんです。計画に向かって、着実に進んでいます」
サム・ヒューアンはニューメイクスピリッツと熟成中の原酒にも自信を持っている。
「ニューメイクを試飲すると、とてもおもしろいトロピカルフルーツのような風味が感じられます。これが樽熟成を経て、どんな風味に変化するのか本当に楽しみです。特に素晴らしいシェリー樽で数年寝かせたらどうなるのか。成果が今から待ちきれません」
ガロウェイ蒸溜所を所有する以前から、サム・ヒューアンはブレンデッドウイスキー「サナセッフ」のブランドも持っている。
「サセナッフの権利はまだ保持していますが、ここでつくるウイスキーで新しいブレンデッドをどのように仕上げていくのかはまだ決まっていません。でもいくつかの選択肢は検討しています。個人的にワイン樽が大好きなので、ワイン樽のフィニッシュで面白い仕上がりを期待しているところです。ワイン樽といっても、甘口のデザートワインの樽がいいのかもしれません」
その一方で、ニッキー・ドチャーティ蒸溜所長は蒸溜所の生産規模を拡大しようとしているようだ。
「現在と同じ製造方法のままで、年間生産量を20万リットルにまで増加させる拡張計画を進めています。今ある駐車場の一部に新しい棟を建設する予定で、近い将来に着工できる見込みです」
蒸溜所では訪問者を歓迎しており、ビジター向けの体験プランを3種類用意している。その内訳はスタンダードツアー、プライベート蒸溜所ツアー(参加者の都合に合わせて時間と内容を調整)、エクスクルーシブ蒸溜所長ツアー(ニッキー・ドチャーティ蒸溜所長と施設やウイスキーを深く探求するツアー)だ。
蒸溜所内のショップでは、各種スピリッツやブランドグッズだけでなく、サム・ヒューアンの著書も購入できる。具体的には、ベストセラーにもなった回顧録『ウェイポイント』、グラハム・マクタヴィッシュとの共著で『クランランズ』(副題は「ウイスキー、戦争、そして他に類を見ないスコットランドの冒険」)、さらには昨年出版された『ザ・カクテル・ダイアリーズ』だ。ヒューアン自身が語る。
「TVシリーズの『アウトランダー』から、本当に多くの縁をいただいて感謝しています。当然ながらスケジュールは過密で、他のプロジェクトを組み込むのも難しい時期が続きました。それでも、いくつかの映画や他のテレビ番組に出演できました。そしてガロウェイ蒸溜所やサセナッフのブランドを立ち上げるなど、ビジネス面でも活動できたのは幸運でした」
今年でフィナーレを迎えるTVシリーズ『アウトランダー』の後は、Amazonプライムで放映される『エンバシー』への出演が決まっている。これは地政学的な背景で展開されるアクションスリラーのシリーズだ。サム・ヒューアンは特殊部隊員を演じ、2月からドイツで撮影が始まっている。
壮大な物語『アウトランダー』は終幕を迎えようとしているが、サム・ヒューアンのウイスキーづくりは始まったばかりだ。故郷の平原で穀物を育て、スコッチウイスキーとしてボトリングするまでの道のりは長い。この事業もまた、ひとつのタイムトラベルであり、予測できないアドベンチャーでもある。今後も多くの見どころが待っているに違いない。







