ケイスネスの新星、スタナーギル蒸溜所が始動【後半/全2回】

9月 3, 2026

新しい蒸溜所ながら、スコットランドの伝統を強く意識したウイスキー。スタナーギルの方針に、業界の注目が集まる。

文:ガヴィン・スミス

初期に蒸溜されたスピリッツは、インバネスのベアーズモルト社で製麦されたたローリエイト種の大麦が使用されている。これは約20km離れたワッテン・メインズ農場から調達したものだ。

ケイスネス産の大麦を常に使用するのも目標のひとつであり、将来的には蒸溜所から見える地元の農場で栽培されたファイアフォックス種の大麦を使用する計画もあるという。

マーティン・マレーが、香味に直結する行程上の工夫について教えてくれた。

「発効には48時間から72時間をかける予定で、おそらく72時間に近い長さになると思います。時には1週間から2週間かけた長時間発酵も実験する予定です。ピートの効いたスピリッツを製造する計画はありません。でもスモーキーなウイスキー樽を一部で使用する可能性はあります」

ウイスキーだけでなく、地域の歴史を伝える拠点になったスタナーギル蒸溜所。メイン写真はダフタウンのジョセフ・ブラウン・ヴァッツ社が製造した木製発酵槽。

ペドロヒメネスやオロロソなどのシェリー樽はすでに調達済みだ。マーティンは米国の小規模なウイスキーメーカーからバーボン樽を手に入れようと画策している。

「まずはフラッグシップ製品を確立させて、その後でさまざまな試行錯誤をする予定です。コア製品としては10年熟成のシングルモルトを考えていますが、その過程では熟成中の課程を味わってもらうためのリリースも順次用意していく予定です」

このような熟成プロセスをたどるシリーズに加え、スタナーギルは「キャッスルタウン・ミルとウイスキーで語る歴史」と題されたブレンデッドウイスキーとシングルモルトウイスキーのシリーズも発売する。

いずれのボトルも中味は10年以上熟成されたウイスキーで、「伝統的な建築物の歴史を年代別に切り取り、それぞれの時期をコレクタブルな物語10編に凝縮したシリーズ」と説明されている。マーティン自身は次のように述べている。

「このような土地の歴史を伝えるシリーズは、ブランドの物語に絶えず注目していただくためのプロジェクトです。このシリーズを発売しながら、スタッフがブレンディングなどのウイスキー製造工程全般に慣れていく機会も得られます。現時点では、まだ基本的にジン専門のチームですから」

地元の歴史とウイスキーの両方を紹介するツアー

スタナーギルは稼働中の蒸溜所であるだけでなく、旅行者にとっても見逃せない観光スポットとして設計されている。くつろげるカフェバーはもちろん、素晴らしいレストラン「グレインストア」も併設している。このレストランでシェフを務めるカラム・ムーディはキャッスルタウン出身で、ドーノック近郊の名所スキボ城で働いていた経験もある。

蒸溜所ではウイスキーツアーと歴史ツアーの両方をビジター向けに用意している。歴史ツアーは18歳未満の参加も可能で、敷地や周辺地域の歴史的遺産を紹介している。またマーティンが案内役を務める専門的な夜間の蒸溜ツアーも開催される予定なのだと本人が語る。

結婚式や各種会合をはじめ、地元の人たちに利用しやすい施設としても機能する。

「蒸溜所の屋外の庭『サントラップ』でのサマーマーケットなど、全体としてさまざまなイベントを開催する予定です。これまでも地元住民向けの『オープンデー』を開催してきたし、住民向けのロイヤリティプログラムも設けています」

観光客だけでなく、地元の人々にとっても魅力的な場所となることが重要なのだとマーティンは言う。すでに多くの地元客が蒸溜所を訪れている。

「7月には初めての結婚式をホストする予定で、テントを設置できる広いスペースも確保しました。利用率と収益源を最大化するため、プライベートダイニングや取締役会みたいなイベントができるスペースも設けました。蒸溜所、糖化棟、テイスティングルームで、それぞれディナーも開催できるようになりました。ダンネット湾を一望できる素晴らしい蒸溜棟もありますよ」

スタナーギルの継続的な活動を支援したい愛好家のために、「1818ソサエティ」という名の会員制度が用意されている。入会費は750ポンド(約16万円)で、初リリースとなるシングルモルト1本が贈られる特典付きだ。その分量は限られているので、会員枠は1,818名で満席となる。

また40ポンド(約8,500円)を支払えば、屋根瓦のスポンサーにもなれる。マーティンが説明する。

「1818ソサエティと屋根瓦のスポンサーシップは、運転資金を増やしてくれるからありがたいんです。これから貯蔵庫を建設しなければいけないので、やはりキャッシュフローは重要です」

過疎の町で芽生える未来の希望

スタナーギル蒸溜所の事業は、約15人の雇用を生み出している。フルタイムだけでなく、一部はパートタイムの従業員もいるのだとマーティンは語る。

「地元の人々がこの地域に留まり、生活し、働けるように雇用を創出することは、僕らにとっても非常に重要なことです。ケイスネスは高齢化が進み、人口も減少していますから」

レストラン「グレインストア」のシェフを務めるカラム・ムーディは地元出身。趣向を凝らした料理が話題だ。

そんな従業員の一人に、見習いとして働く17歳のグレン・ムーディがいる。マーティンはグレンの働きぶりについて誇らしげに説明する。

「グレンは、6か月間にわたって蒸溜所の設備設置を請け負う配管会社に派遣されていました。今では蒸溜所の生産体制を隅々までよく熟知していますよ」

もう一人の名物従業員は、ケビン・スワンソンだ。以前はディアジオが所有するアイラ島のポート・エレン・モルティングスで働いていた。

「地元出身のケビンは、ダネット・ベイで欠かせないチームの一員になりました。今後はウイスキーづくりに専念することになるでしょう」

再生された古い製粉所の建物のそばに立ち、マーティンはしみじみと語った。

「20年以上も前から、この建物を何かに活用できないかと空想し続けてきました。そんな夢をついに実現させることができたんです」

ケイスネスのウイスキー業界に加わった新しい蒸溜所が、ここを訪れる幅広い年齢層の人々に喜びをもたらす。そしてマーティンとクレアの夫妻や、スタナーギル蒸溜所で働く他のメンバーたちの大胆な起業家精神が報われる。スコッチウイスキーのファンとして、そんな日の到来を心待ちにしている。

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