世界屈指のトーナメントで、認知度とイメージの向上を図る有名ブランド。ウイスキー広告の歴史と新しい挑戦を考える2回シリーズ。

文:アンドレア・フヤルチュク

ウイスキーとゴルフには、古くから深いつながりがあった。たとえば、ゴルフ場に掲げられたウイスキーの広告。あるいは、トーナメントで観客にドリンクを提供するビアテント。風に翻るバナーや、テーブル据え置きのアイテムでもロゴが目に止まる。ゴルフファンの行く場所には、いつもウイスキーの広告があった。

だがそんなイメージは、もう時代遅れだ。少なくとも、洗練されたライフスタイルと結びついた今日のラグジュアリー市場においては過去の遺物といっていい。フェアウェイの端で、トラックの荷台からウイスキーの試飲カップを配るようなマーケティングは役に立たない。

そしてウイスキー業界も、ゴルフ場でただ試飲を促すような戦略はとっていない。それぞれのブランドに相応しい体験を模索しながら、心に刻まれるようなブランド認知を築き上げている。ただロゴ広告を表示するだけで満足するのではなく、ライフスタイル主導のエンターテインメントに舵を切ってきた。

観客用にブッシュミルズが設置したコース脇のウイスキーバーはいつも盛況だ。メイン写真はウイスキーバーの外観。

その結果として登場してきたのが、会員制クラブのようなウイスキーラウンジだ。場所や時期によっては、ゴルフコース内に設置されたラウンジさえある。これによって消費者の記憶にしっかりと残るエンゲージメントを生み出そうとしているのだ。ブランド側は、数十年先を見据えたブランドロイヤリティの確立を目指している。
ウイスキーブランドの広報戦略は、まさにゴルフのラウンドを回るような意図で用意される。会場内のラウンジはただの通過点ではなく、心からくつろいでブランドの世界観を伝える場所になっている。ブランドごとに独自の差別化を図り、そのイメージにどっぷりと浸かってもらうことを心から望んでいる。

グローバル・ウイスキー・ブランズのマックス・ステフカは、このようなラウンジの設計について次のように述べている。

「私たちの基準はシンプルです。ここで時間を過ごしたいかどうか自問して、答えが『ノー』ならやるべきことがあります。照明、建材、バーのレイアウトなどの空間デザインも、ゲストがゆったり時間を過ごしたくなるように創り上げます」

アイリッシュウイスキーの老舗ブランドであるブッシュミルズは、PGAツアーのオフィシャルパートナーとして独自の哲学を掲げている。会場内に設置するスペースも、他のブランドと明確に差別化できるよう配慮を重ねているのだとステフカは言う。

「特別にデザインしたバー空間は、ブッシュミルズらしい雰囲気の壁紙で包み込みます。あらゆる要素が、ブランドの指示で厳選されます。似たような空間は他になく、すべてが意図されたデザインです。ラウンジ自体が目的地であるかのような感覚を味わってもらいたいと願っています」

ブッシュミルズは、このような戦略的アプローチをさらに推し進めている。バーチャルリアリティを駆使したシングルモルトのテイスティングや、旅行が当たる「チップショットチャレンジ」などのコーナーもその一貫だ。いずれもこれまでゴルフコースでは体験できなかったインタラクティブなお楽しみである。

有名大会や他業界とのコラボが進化

デジタルコンテンツの充実だけでなく、ブッシュミルズの取り組みはファッションブランドとのコラボにも及ぶ。トレンディなゴルフファッションで知られる「マルボンゴルフ」は、ブッシュミルズが所在する北アイルランドのアントリム郡に伝わる伝統のチェック柄を限定カプセルコレクションに取り入れた。

ブッシュミルズ以外にも、ゴルフにまつわるホスピタリティの枠組みを拡大した蒸溜所はある。スコットランドのロッホローモンド蒸溜所は、全英オープンの公式パートナーとして「スピリット・オブ・ザ・オープン」というキャッチフレーズで誇りを押し出している。

またロッホローモンドは、大会の公式ジンである「ベンローモンド」を中心に据えた「ベンローモンド・ジンガーデン」のような没入型スペースでファンを惹きつけ、ゴールデンチケット抽選会などのイベントでも注目を集めている。

ヴァーチャル・リアリティのガイドによるシングルモルトのテイスティング。心地よいゴルフ場の中で、感覚は研ぎ澄まされている。

このようなイベントで目標額を上回ると、収益の一部はゴルフ統括団体の慈善部門であるR&A財団に寄付される。同財団は、全英オープンの収益をサステナビリティ推進や青少年の育成に再投資しており、世界中で活動する草の根グループも支援する。全英オープンの優勝者には「ロッホローモンド 50年」が1本贈呈されるのも有名な話だ。

またスコッチを代表するブレンデッドウイスキー「デュワーズ」は、全米オープンの公式ウイスキーパートナーである。北米担当のブランドアンバサダーを務めるガブリエル・カルダレラは、本物の価値を訴えたいブランドにとって物理的な環境こそがすべてなのだと明言する。

「最高のカクテルを最高のグラスで提供し、極上のおもてなしにもこわだります。あらゆる細部が、真のラグジュアリーを感じさせるように設計されます。ただ感心してもらうのが目的ではありません。ゲストが心からの歓待を実感し、ゆったりとした時間を過ごしながら誰か教えたくなるような体験を創り出すことが目標です」

ゴルフの観戦スタイルは、スタジアムの座席に座りっぱなしにならない。ときには灼熱の太陽の下で、何キロも歩き回って観戦することもある。ホール間を徒歩で移動すると、かなりの距離になる。一息ついて飲み物を手に取る瞬間、その場所には特別なくつろぎを求めている。

全米プロゴルフ協会や主要なゴルフ選手権の公式バーボンパートナーを務めるエライジャ・クレイグは、大規模なファン向けイベントも展開している。グローバル・ウイスキー・ブランズのマックス・ステフカは、ゴルフファンと直接的な関わりを持つことの大切さを実感しているという。

「会場のあちこちにブランドのロゴを掲示しても、それはゴルフファンのみなさんにとってただの雑音に過ぎません。でもファンのみなさんが腰を下ろし、『マリガン』や『オールドファッションド』などの素晴らしいカクテルを片手にゴルフ談義をする場所があれば、そこでまったく異なったブランド体験を創出できるのです」
(つづく)