ゴルフとウイスキーをつなぐ鍵は、忘れ得ない時間と体験だ。ユニークな価値観の提案は、ビジネスのネットワークも広げてくれる。

文:アンドレア・フヤルチュク

ゴルフ大会に協賛するウイスキーブランドは、単なる休憩場所の概念を越えたユニークな体験を提供しようとしている。しかも他のブランドがやっていない手法で、ゴルフ観戦とシームレスに統合された体験を目指しているのだ。

ロッホローモンドの担当者は、単なる広告から脱却したブランディングの進化を次のように説明している。

「従来のスポンサーシップは、視認性を重視しすぎていました。看板やテレビCMなどでロゴを露出するのが目的化していたんです。でも現在のロッホローモンドが創り出そうとしているのは、それよりもはるかに深い体験です。ただブランドを人目に触れさせるだけではなく、ロッホローモンドのウイスキーやブランドの世界観を実地で体験してもらうのが目的になります」

オリジナルのカクテルが、トーナメントの思い出と結びつく。これも誰か教えたくなるようなブランド体験のひとつだ。メイン写真は思い思いのドリンクで喉を潤す観客たち。

このような方針転換を象徴するのが、大会のために考案された特別メニューの存在だ。デュワーズの看板カクテル「レモンウェッジ」や、エライジャ・クレイグをベースにした「マリガン」や「オールドファッションド」。特別なイベントにあわせ、そんなドリンクを楽しむのもファンにとっては特別な体験となる。

一部のブランドにとって、このような統合された体験は始まりに過ぎない。最終的な目標は、対面での交流を通じてファンのコミュニティを育むことにある。デュワーズのブランドアンバサダーを務めるガブリエル・カルダレラは、このような交流への取り組みについて次のように説明してくれた。

「デュワーズはゴルフファンのみなさまを歓迎し、大会のカクテル『レモンウェッジ』や素晴らしいスコッチの味わいをご紹介します。みなさまの物語に耳を傾け、体験の一部となるのが目的なのです。このような物語の交換こそが、ブランドとの永続的なつながりを生み出すと信じています」

ゴルフカルチャーは、静かなブームを迎えている。コースを訪れる層も変化し、若年層はライフスタイル志向が強い。多くのゴルフファンが、職人技、品質、体験について語りたいと願っている。

これは自然で人間的な感性であり、 ブッシュミルズもこのような若い消費者層にアプローチしようと務めているところだ。新しい愛好家たちをテーブルに招き、一杯のウイスキーを酌み交わす重要性は増している。ブッシュミルズの担当者は次のように語る。

「ブッシュミルズのスペースが楽しみで、毎年トーナメントに足を運んでくださるリピーターのお客さまもいらっしゃいます。新たに入手したボトルの感想や、実際に蒸溜所まで足を運んだエピソードなどを語ってくださいます。カクテル1杯がコミュニティ構築のきっかけになることは本当にあるんです」

ゴルフ大会に協賛するウイスキーブランドにとって、究極の成功はトーナメントの週末を日常に溶け込ませることだ。デューワーズの担当者は、自社の製品がオーディエンスの大切な思い出の一部となることを願っている。

「全米オープンから帰宅した人が、自宅でデューワーズのボトルを開けたとき、会場で出会った人たちや夏の思い出が頭に浮かびます。そんな体験の提供こそが、私たちにとって最高の結末なのです」

ビジネスパーソン同士をつなぐ新しい商機

ウイスキーブランドのラウンジに宿るもうひとつの価値は、カジュアルなファン文化とハイレベルな企業間ネットワーキングを結びつける潜在力だ。

企業がクライアントやパートナーとつながるB2B(企業間)の関係も、このようなウイスキーラウンジなら構築しやすい。かつては堅苦しい会議室でおこなわれていた会話が、今では氷とモルトを囲んで自然に交わされるようになった。

ロッホローモンドの担当者は、このようなラウンジの環境がもたらすB2B分野の価値を強調し、独自の機会を生み出すことになると予測している。

「ビジネスの関係も、最終的には人と人とのつながりで築かれるもの。一緒に時間を過ごした経験こそが、関係を成長させる基盤となります。一週間を振り返ってみても、その週でもっとも価値ある会話は会議室以外の場所で生まれています。ゴルフをプレーした日の夕暮れに、友人、同僚、クライアントなどに囲まれて一杯のウイスキーを酌み交わす時間の尊さがわかるでしょう」

多くの観客が心身ともにくつろぎ、翌年のトーナメントでもここに帰ってくる。体験重視のエンゲージメントは、数十年先を見据えたブランド戦略だ。

超富裕層のコレクターであれ、日々の疲れを癒やしたい観客であれ、真心のこもったおもてなしを喜ぶ気持ちに違いはない。ロッホローモンドの担当者は、そんな歓待の精神を次のように説明する。

「結局のところ、ゲストのみなさまを『お客さま』というよりも『大好きな友人』としてお迎えしたいんです。素晴らしいウイスキーを味わいながら楽しく会話し、共に過ごす人々と最高のひとときを過ごして帰ってくれるなら、私たちの役目も果たせたことになります」

ロッホローモンドのホスピタリティ活動は、このようなゴルフとソーシャルの二面性によって成り立つモデルだ。その広報活動は、フェアウェイの脇で提供する試飲から、上級コレクター向けに開催する希少品のテイスティング会まで、あらゆるウイスキー愛好家の層に向けられている。

ゴルフもウイスキーも、ファンの属性は多種多様だ。あらゆる人に向けた体験を創出することが、明確な目標のひとつになる。一般のファンを親密な仲間のように扱い、企業パートナーを生涯の友人のように扱う。これはゴルフ関連のホスピタリティが、単なるマーケティング上の浪費ではない証明でもある。ギャラリーとグラスが交わる場所で、ブランドエクイティを構築するための模範的な事例なのだ。

ゴルフとウイスキーの現代的なルネッサンスはまだまだ発展の途上だ。コース上での体験やアプローチの手法も進化し続けるだろう。ありきたりな企業テントで出迎えたり、コースターやリーダーボードにロゴを掲載したりして満足する時代は終わった。

その代わりに登場したのが、その日のイベントようにカスタマイズされたカクテルや没入感のある洗練されたラウンジだ。その多くが、ウイスキーブランドとファンが真のコミュニティを築くことを目的としている。

ブッシュミルズ、デュワーズ、エライジャ・クレイグ、ロッホローモンドなどの有力ブランドは、ゴルフクラブに例えるならロングドライバーだ。看板に名前を載せるだけでは満足せず、本物志向のユニークな体験を提供する。活気あふれるテイスティングルームこそが、唯一の進むべき道なのだ。

ロゴ付きの看板は、オーダーメイドのホスピタリティに置き換えられた。ウイスキーブランドは、ただボトル入りのお酒を売っているのではない。これから長年にわたって、人生の節目や思い出の中で生き続けるような物語を売っているのである。