アイリッシュウイスキーの総点検【第3回/全3回】
アイリッシュウイスキーの復活を象徴する5社の動向をご紹介。世界的な逆風が吹いていても、伝統に回帰しながら未来を切り拓く道は確かにある。
文:マーク・ジェニングス
ラデモン・エステート(ショートクロス)
「ショートクロス」のブランド名で知られるラデモン・エステートは、生産を継続しながら運営の改善を目指した。同時に熟成年数が長めのウイスキーを商品化することに力を注いでいる。
蒸溜所でもっとも酒齢の長い原酒は、今年8月で11年になる。今後12ヶ月以内に、初めての10年熟成商品をリリースしようと計画中である。最近のリリースには、ロンドンデリーにあるレストラン「スティッチ&ウィーヴ」とコラボした8年熟成のシングルポットスチルや、ベルファスト・ウイスキー・ウィーク向けてボトリングされたヨーロピアンオークのシェリー樽(ホグスヘッド)のみで7年熟成したシングルモルトも含まれる。
ラデモン・エステートは、産地へのこだわりを強めながら新たな市場を開拓してきた。ウイスキーの原酒は外部から調達せず、自社の敷地内で蒸溜、熟成、ボトリングまで貫徹している。共同創業者のデビッド・ボイド=アームストロングは、次のように語っている。
「現在の困難ですべてが終わるわけではなく、一時的な休止に過ぎないと信じています。アイリッシュウイスキーの最盛期はまだこれから。今はちょっと足踏みする時期だと予想しています」
ラデモンは、事業規模の拡大を優先していない。むしろ持続可能な生産レベルを見極めながら、着実に成長していくのが目標なのだとボイド=アームストロングは語る。
「持続可能なビジネスと、持続可能な成長が大切です。つまり持続可能な生産レベルを支えられるだけの成長さえあれば、間違った結果が出るはずもありませんから」
スリーブ・リーグ・ディスティラーズ
スリーブ・リーグ・ディスティラーズは、創業時からの悲願を達成した。つまりアルダラ蒸溜所で製造されたウイスキーの発売である。
2025年8月に発売された初のシングルモルトウイスキー「アルダラ」は、ヘビリーピーテッドのモルトを3回蒸溜した原酒で、オロロソシェリー樽、ファーストフィルのバーボン樽、オーク新樽を熟成に使用している。アルコール度数46%のボトルが8,000本、カスクストレングスのボトルが2,000本リリースされ、どちらのエディションも90ユーロ(約16,000円)で販売された。
アルダラ蒸溜所でのスピリッツ生産は年間を通じて続き、純アルコール換算で約44万リットルが製造された。スピリッツ全体の4分の1がヘビリーピーテッドのポットスチルウイスキーとなる原酒である。
今年2月にはデイヴ・ブルームが蒸溜所の創業から1万本目となる樽にスピリッツを充填し、オープン期間中の来場者数は前年比20%増の約1万人に達した。グレアム・ローグランの退任に伴い、アルダラ出身のキャサル・ムーニーがヘッドディスティラーに昇進した。ムーニーにはプロセスエンジニアリングとイノベーション分野の経験がある。
創業者のジェームズ・ドハーティは、この1年を「始まりの終わり」と表現している。蒸溜所の建設は完了し、製造プロセスは確立され、原酒も貯蔵されてきた。事業は前年よりもスリム化され、地理的に焦点を絞り、キャッシュフローおよびEBITDAの損益分岐点を念頭に経営を合理化している。
アルダラといえば、ドニゴール産のスモーキーなモルトが最大の特徴だ。そのアイデンティティは、単なるコンセプトから実際の製品にしっかりと結実しつつある。
ティーリング・ウイスキー
ティーリングは、ダブリンでの蒸溜開始から11周年を迎えた。これまでに樽5万5,000本以上をスピリッツで満たし、ニューマーケット・スクエアの蒸溜所には120万人以上のビジターを迎えた。
さらに今年は通算2度目となる「サステナブル・ディスティラリー・オブ・ザ・イヤー」に選出され、マスターディスティラー兼ブレンダーのアレックス・チャスコ、欧州担当のブランドアンバサダーを務めるベイビン・オライリーがそれぞれ世界的な評価を受けた。

ティーリング・ウイスキーの躍進を支えるマスターディスティラー兼ブレンダーのアレックス・チャスコ。直近のワールド・ウイスキー・アワードでも世界的な評価を受けた。メイン写真もティーリング・ウイスキーの外観。
ティーリングの年次限定リリース「バースデー・バッチ」の利益は、ダブリン8区の慈善団体これまで50万ユーロ(約9000万円)以上を寄付している。
そしてティーリングは、バカルディの完全子会社となった。プレミアムな立場からアイリッシュ・ディスティラーズの対抗馬として地位を確立してきたティーリングだが、ここへきてグローバルな流通網と長期的な資本がもたらされた形になる。
この変化はゴールではなく、新たな段階の始まりである。単一ブランドの独立系企業だけでは、到達が困難な市場や小売業界もあった。そのような未開拓の販売チャンネルを開けた意義は大きい。インド、フランス、カナダでの事業拡大が続いたほか、欧州全域の食料品店でも商品が広く取り扱われるようになり、米国の外食市場でもさらなる進展が見られた。
新製品のラインナップは、相変わらず多岐にわたる。「ワンダーズ・オブ・ウッド IV」の熟成にはカルパティア産オーク樽が使用され、蒸溜所限定のシングルモルト(20年熟成)ではモンゴル産オーク樽が使用された。また「ライジング・リザーブ IV」では、21年熟成のシングルモルトと白ワイン樽熟成のような組み合わせも実現した。
ティーリング蒸溜所の「ボトル・ユア・オウン」プログラム向けには、ベルモット樽熟成のウイスキーがスモールバッチで商品化を計画している。
市場の不確実性が解消されるにつれて、販売の勢いも強まるとティーリングは見ている。特にプレミアムアイリッシュウイスキーの分野では、依然として大きな成長の余地がありそうだ。特に世界の新興市場において、その傾向は顕著になるだろう。
トゥースタックス
トゥースタックスは、ウイスキー、ボンディング、レディ・トゥ・サーブといった各フォーマットでの事業を継続し、売上高と収益性で過去最高の成果を見込んでいる。
「アーティスト・コレクション Vol.1」は、ウイスキーとアイルランドの芸術、音楽、ストーリーテリングを融合させた商品であり、「ポラリス 4.1」および「ポラリス 4.2」は現行の地理的表示(GI)の範囲外における歴史的なポットスチルウイスキーへの取り組みを継続した。
トゥースタックスが開発中の「アダラ」は、ヘビリーピーテッドのモルトと未製麦の大麦を組み合わせた独自のマッシュビルを使用。バーボン樽、アプリコットブランデー樽、モスカテル樽、ブラックストラップラム樽で熟成させたウイスキーである。
トゥースタックスは、現在45カ国以上にウイスキーを輸出している。北欧諸国での販売ルートを新規に確保したほか、世界中でトラベルリテールへの注力を強化している。
缶入りで販売する「ドラム・イン・ア・カン」と「ダブル・アイリッシュ・クリーム」は重要な成長の原動力となっており、後者は航空会社での提供が予定されている。生産能力の確保が当面の最優先課題であるため、保税倉庫への見学は現在のところ非公開となっている。
経営面ではポール・オフリンが国外商務部長として加わり、トレジャリー・ワイン・エステーツやペンフォールズで培った経験をも活かしている。市場全体は厳しい状況にあるが、トゥースタックスはアイルランドのポットスチルウイスキーを復興に導いた。再び伝統に焦点を当てる取り組みも後退ではなく、創造的な段階への始まりであると捉えている。
WDオコンネル
独立系ボトラーのWDオコンネルは、アイルランド国内外に活動範囲を広げている。それでも活動の中心は国内のアイリッシュウイスキーだ。
創業者のダーヒ・オコンネルは、農業省との技術規定を変更する協議においてアイリッシュウイスキー・ギルドの代表を務めた。またカーローにある国立醸造蒸溜センター内のマイクロブルワリーおよび蒸溜所を支援する技術委員会にも参加している。
ボトラーとしては、創設以来初めてとなるセルティック・ウイスキー・ショップ限定のシングルカスクや、ルビーポート樽で熟成された空港限定のシングルポットスチル(8年熟成)などの新製品を発売している。
アイリッシュウイスキー、ラム、スコッチの製品ラインナップを拡充したが、もっとも販売実績の高い銘柄となったのは「ユニオンロード」である。
今秋予定されている貯蔵庫の改修により、ビジターのアクセスも容易になる予定だ。かつては救貧院だった歴史ある建物内に、テイスティングルームとショップが設けられる。大規模な太陽光発電設備を導入し、Bコープ認証もほぼ完了し、2027年にはボトルデザインの変更やブランド全体の刷新も計画されている。
アイリッシュウイスキーは、細かな選択が重視される時期に入っていくというのがオコンネルの意見だ。単なる話題性や勢いよりも、品質、価格設定、在庫管理、キャッシュフローなどの調整がさらに重視されるようになるだろう。




