進化するエディンバラの最高学府【前半/全2回】
洋酒製造のトップ人材を排出し続けるヘリオットワット大学。国際醸造蒸溜センターを率いるドーン・マスケル教授に現況を尋ねる2回シリーズ。文:ピーター・ランスコム
今年の5月初旬に、エディンバラで「世界蒸溜酒会議」と題されたカンファレンスが開催された。参加者はスコットランドの首都と周辺地域を視察し、素晴らしい魅力を満喫することになった。キングスバーンズやローズバンクなどの蒸溜所を見学し、人工知能(AI)に関する講演に聞き入り、さらにはキャスパー・マクレー(グレンモーレンジィ社長兼CEO)のスピーチもイベントの目玉に。多くの参加者が、生涯の思い出になりそうな体験を持ち帰った。
エディンバラのヘリオットワット大学は、これまでもウイスキー業界に優れた人材を供給してきた。国際醸造蒸溜センター(ICBD)の所長を務めているのは、ドーン・マスケル教授だ。カンファレンスの初日、マスケル教授は昼食時に集まった学生、卒業生、同僚たちに呼びかけて、40人以上の大勢で集合写真を撮影した。
これはカンファレンスでも特に印象的な瞬間であり、ソーシャルメディアで公開されると大きな反響を呼んだ。業界のパワーを象徴する楽しそうな写真を見て「自分もこの写真に収まりたかった」と残念がる参加者も多かった。マスケル教授も、写真を撮ったことに満足して言う。
「撮った写真を見て、本当に感動しました。これほど大規模な国際会議で、みんながこのように一堂に会している姿に心から胸を打たれました」
マスケル教授をはじめとするヘリオットワット大学の教授陣は、世界中の蒸溜所から称賛と共感を集めている。何しろヘリオットワット大学の学部も大学院も、酒類業界の識者たちから世界最高水準の教育機関と評されていることが大きい。
ヘリオットワット大学の卒業生名簿には、ビール醸造やスピリッツ蒸溜の世界で名のしれた錚々たる面々が名を連ねる。ブリュードッグの共同創業者であるマーティン・ディッキー、アービキー蒸溜所のマスターディスティラーであるカースティ・ブラック、フリーランド・スピリッツのモリー・トゥループなど、その例は枚挙にいとまがない。
酒類業界のサステナビリティを強化する研究拠点
現在、マスケル教授は過去最大級の挑戦に備えている。それは3500万ポンド(約75億円)を投じた「持続可能な醸造蒸溜センター(CSBD)」の建設である。この研究所は、次世代のスピリッツ製造者とビール製造者を育成し、大麦や小麦などの作物をウイスキーなどの飲料に変えるプロセスの研究に特化した専用施設だ。
マスケル教授が率いる現在の国際醸造蒸溜センターは、1970年代に建設されたリッカートン・キャンパスを拠点としている。エディンバラの町外れで、教室や実験室が複数の建物に分散しているのが難点だった。だがCSBDプロジェクトが完結すれば、これらの研究機能が一つ屋根の下に集約されることになるのだとマスケル教授は説明する。
「現時点では物理的なスペースの制約があり、学生全員を受け入れるには授業を数回に分けなければなりません。でも大きな施設があれば、これが一度にできます。提供する授業の幅を広げることもできて、学生の学習体験も向上するでしょう」
新しいセンターの建物には、起業を目指す人々のためのインキュベーターやアクセラレータースペースも設けられる予定だ。
「ここで学んだ人のなかから、自前の醸造所や蒸溜所を立ち上げる人も出てくるでしょう。でも人材の種類は、もっと広範囲に及ぶと予想しています。同じヘリオットワット大学の他分野から、新しい才能が集まってくるかもしれません、ビールやスピリッツの製造機器を開発したり、新しい包装素材を開発したりといった目的でエンジニアたちが参加してくる可能性もあるでしょう」
ヘリオットワット大学のキャンパス内には、英国のAIおよびロボティクス分野における国立の研究拠点「ナショナル・ロボタリウム」がある。酒類業界のCSBDは、そのすぐ隣に建設用地を確保しているのだという。このような立地のおかげで、ロボットやAIと酒類業界の連携はさらに発展していくことになるかもしれない。
持続可能な醸造蒸溜センターには、資金調達委員会も設置されている。その委員長を務めるのは、「ジョニーウォーカー」ブランドなどを擁するディアジオでサステナビリティ最高責任者を務めるユアン・アンドリューだ。またマッカランやハイランドパークで知られるエドリントン元会長のノーマン・マレーも委員を務めているのだとマスケル教授は言う。
「総予算の3,500万ポンドという金額は、恐ろしく大きな数字に聞こえるかもしれません。でも私たちは、その予算を小さな単位に分割して現実に落とし込んでいるところです」
(つづく)






